第24話 アキを信じて



 今、僕の頭はアキの腕の中。こうやって抱きしめてもらうのはもう2回目だな。


 こうやってアキに包まれると前と同じように僕の心は安らいでいた。不思議だ、本当に不思議だ。でもね、今日アキが僕に伝えてくれた言葉で少しわかった気もするんだ。なぜアキが信用できて癒やされるのか。


 なぜ? うん。アキは僕に心を開いてくれているんだって。信じさせてくれるんだって。僕の場合は情けない理由ではあるけれどアキにすぐに見透かされてしまうこともあり隠し事なんてする必要はないと素直に伝えていただけではあったが。まあ、理由はともかくお互い心を開いて会話できていたんだって。


 確かに真也には心の内をよく伝えてはいたよ。でもそれは真也だけ。個人的な関係でのことで。けれどグループの関係となると僕はただ毎日をなんとなくみんなと一緒にすごして居ただけのかもしれない。だからグループ内における他の人はもとより真也のことさえ気付けなかったんだろうなあ。

 そう、言い方は悪いけれど僕はグループ内ではうわべだけだったってこと。そして相手をわかろうとしていなかったということ。うん、だから僕は気づけなかったのだろうね。

 いや、相手が言わなくても僕は聞くことが出来たはず。疑問に思えばみんなに尋ねられたんだ。


 僕は周りを見ずただ今井さんだけを見て……いたからなのだろうなあ。




 抱きしめられながらもそんな事を考えている僕にアキは


「夏樹くん、落ち着いた? 」


 とまず僕の心配をしてくれた。そんなアキに


「うん。落ち着いたよ。今回は泣くこともなかったね。アキにこうやってもらえると本当に癒やされるよ」


 と僕はまた素直に思っていることをそのまま告げると


「え? え? 私夏樹くんの癒しになってる? うん。嬉しいなあ」


 と少し慌てたように僕に言葉を返してくれる。そんなアキに


「でもなんでここまで僕に出来る? 以前アキは僕のことを気になっているとは言ってくれた。好意を持ってくれているんだろうなあって今なら流石の僕でも分かる。それでもここまでしてくれる人ってなかなか居ないと思うんだよね」


 と僕はアキになぜ僕にここまで構ってくれるのかどうしても知りたくなって聞いてしまう。そんな問いにアキは


「一緒に居たいと思う人にこれくらいするよ、私はね。勇気なく何も出来ない人もいるけれど私は後悔したくないから夏樹くんを押しまくるよ? 」


 と直ぐに僕に真剣に言葉を返してくれた。そして続けて


「私の今一番の願いは夏樹くんの一番になって側にいること。夏樹くんは振られたばかりだしそんな事考えられないかもしれない。それは仕方ないもん。でもね。今は駄目でもいつかは私が一番と思わせてやるんだ。覚悟しててね」


 とアキさんは微笑んでいるそんな様子で僕に告げた。


「振られた振られたさっきから言ってくれるなあ。でも、ぶっちゃけた話をすると今の僕にはアキと真也が特に大事な人になってるよ? 今井さんに関しての気持ちはもうわからないと言ったほうがいいかもしれないなあ。まだ残っているのかもしれない。けれど好意という気持ちを僕自身でも見つけることが出来ないくらいになっていて。泣いたのが大きかったんだよなあ。あれでスッキリして。あの事があったから今井さんに「だいっきらい」と言われても恋愛感情による苦しさは殆どなかったんだよ」


 するとアキさんは照れているような声で


「島田くんと一緒のレベルというのがちょっと残念だけど……私まだまだ時間がかかるなあって思っていたから。だから少しでも夏樹くんにそう思ってもらえたなら前に進んでいるってことだね。でもね。私は今、夏樹くんにはまだある言葉は告げるつもりはないんだ。だって今まで好きな人が居て振られて……おまけに友人関係で落ち込んで。夏樹くんにはこんな出来事が数日で起きてるんだよ。そんな夏樹くんを悩んだり困らせたりはしたくないから。だからね、積極的に夏樹くんと関わって夏樹くんの両親と会おうとしたりうちの母さんに会わせようとしたり私なりの地固め? はしちゃったけれど、夏樹くんに無理はなるべくさせたくないんだ。だから嫌なことだったら私にきちんと言ってね」


 アキは僕の頭を抱きしめたままそう言った。僕はその言葉に素直に


「わかったよ。アキありがとう」


 とお礼を伝える。するとアキは抱きしめていた頭を離して今度はまた僕の腕へと抱きついてきた。そして一言


「3度目はないからね。私がするんだから。離れないんだから」


 と僕には意味のわからないことをアキは言った。だから


「3度目ってなにそれ? 意味がわからないんだけど」


 と僕はアキに疑問を尋ねてはみるけれど


「ふふふっこれだけはまだ夏樹くんには教えてあげない。でもいつかきちんと伝えるから待っててね」


 と言いながら悪戯っ子のような顔をして僕に微笑んでいた。




 その言葉、アキの微笑みを見て僕はもう聞くことを止めた。だってアキはきちんと伝えると言ってくれたのだから。それまで待つことにする。


 アキを信じて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る