第23話 居ないと嫌だよ



 その日、昼休みになるまでアキは来なかった。そのせいか真也は休み時間に入ると僕のもとに来ては僕の心配と共にアキが休み時間に来ないことの心配をしていた。

 けれども僕はアキが来ないことには全く不安など無く「問題ないよ」と真也に答える。僕の心配については気にしないでと誤魔化すばかりだったけれど。


 それにしても本当に不思議だった。


 なんで今日、アキが来ないことに不安がないのだろうと。アキをなんとも思っていないから気にならないというわけではない。逆にアキに対して好意は持っているはずだ。そんな僕が「アキが離れることはない」と信じているのは何故だろうな。


 尋ねられればそんな思考が浮かぶけれども、今井さんとの出来事が僕に重くのしかかっているせいか他のことに頭が回らない状態ですぐに重たいものへと切り替わってしまうのだった。




 けれど、休み時間には来なかったそんな時間がなかったかのようにアキは昼休みに元気良く現れた。


「なっつきくーーん」


 いつもの元気に僕を呼ぶ声。


「はいはい。約束通り話をするんだったね」


 と僕がそう答えるとアキは僕の手を取り


「おっくじょう(屋上)にいっくよお」


 と走り出そうとする。ちょっと待って、まだ弁当を用意してないって。


「ちょ、ちょっと待ってって。弁当取り出すから」


 そう言って僕は弁当を取り出すと


「さあいくよお」


 それを確認したアキは有無を言わさず僕の腕を引いて屋上へと向かっていったのだった。ぼーっと見ていた真也を置いて。




 屋上に着くと人は誰もいなかった。僕たちふたりだけ。屋上には少し寒く感じる風が吹いていたため風の当たらない壁際で一緒に座り食事をとることにした。そして直ぐにアキは待っていたかのように


 「さて……夏樹くん。どうしたの? 」


 と尋ねてきた。そんなアキに


「はぁ……なんでほんとにそんなに分かるのかなあ。真也だって気付いてないと思ったのに。早すぎだって」


 と困惑しながら告げていた。それに対してアキは自信がある顔で


「島田くんも多分夏樹くんとしばらく一緒に居たらわかったと思うよ。元気がないって。今回は私の感がたまたま早かっただけかな? 」 


 僕はいつもと違うんだってアキは感だけじゃなくわかることだったと教えてくれた。


「はぁ……わかった。話すよ。あっその前になんで休み時間来なかったの? 」


 とりあえず真也が心配していたので理由だけ聞いておこうとアキへと尋ねる。


「え? もしかして寂しかった? もう、夏樹くんそんな顔しないでよ。えっとね、夏樹くん多分悩んでいると思ったから私が行くとしんどいかなあと思って。そのかわり会えない分しっかりと昼休みに話を聞こうと思ってたの。なにかあった? 」


 僕がアキの言葉の途中、呆れた顔をしたせいか冗談を止めて理由を教えてくれた。アキは僕を気遣って休み時間は来なかったようだ。そっか。そういうことかと嬉しくなりながら


「真也がアキが来なくて心配していたんでね。一応理由だけ聞いておこうと思って。アキ、ありがとう」


 僕はアキにそうお礼を伝えたのだが


「え? 島田くんだけ? 夏樹くんは? 」


 と少し不安げに聞いてくるアキ。だから僕は素直に今日考えていたことを伝える。


「全く不安はなかった。あっ勘違いしないでね。不安がなかったのはアキの事信じていたから。来なくなることはないってなぜか思ってた。それが理由だから」


 僕がそう伝えるとアキの不安げだった表情が嬉しそうな表情へと変わってくれた。そして


「そっかそっか。信じてもらえてたんだ。ふふふ、嬉しいね。あっ島田くんには夏樹くんから理由について伝えておいて」


 アキは弁当を食べるよりも僕の言葉が嬉しかったのか腕に抱きつくのに夢中になってそんな事を言うのだった。




 それから僕はアキへ落ち込んでいた理由を話す。

 休日にアキと別れた後に今井さんと会ったこと、そして思いをぶつけられたことを。


 それを聞いたアキはこう僕に聞いてきた。


「夏樹くんはその言葉の何が辛かったの? 」


 その言葉に僕は考える。好きだった人に「だいっきらい」と言われたこと? いやそうじゃないよな……


「今井さんへの恋愛感情に対しての辛さは泣いたからか殆どなかったよ。けれど一緒に過ごしてきた人たちのことがわかってなかったことが辛かった。今井さんはもちろん、真也や只野さんの事もわからなかった。アキより長く付き合ってきた人達なのにね。まあ、そんな僕だから好きだった人から居ないほうがいいって言われたんだろうなあ」


 僕は空を見上げながらアキに一番辛かった理由を伝えた。そんな僕に腕に抱きついたままアキはこう告げた。


「あのね。人の心なんて全てわかるはずないのよ? こうかなとか感じたり思うことはあっても。本人じゃなきゃわからないことなんていっぱいあるの。伝えなきゃわからないことなんていっぱいあるんだよ? いくら仲が良くても全て伝えているわけないんだから」


 そう言った後アキは僕の腕を離してから


「夏樹くん。私を見て。わからないことがあったら聞いて。そして話して。私もちゃんと見てるから。わからないことがあったら聞くから。伝えたいことがあったらきちんと伝えるから。分かり合おう? 私と信頼できる関係になろう? 夏樹くんが私のこと知らないことがないと思えるくらいに。私は、私は絶対に夏樹くんが居ないと嫌だよ、嫌なんだから」


 そう告げた後、アキは以前のように僕の頭を抱きしめてきたのだった。


 






 



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