第19話 きっかけ
その後、お互いに知らない事や聞きたい事をメインにしばらく会話をしていた。そんな中
「そういえば、島田くんとは何時から付き合いがあるの? 」
アキは気にしないとは言いながらも、真也の事を気にしているようだった。そりゃアキにとって良い思い出ではないのだから。真也がしたことではないとわかっていても。だから僕は真也の話を少しすることにした。
「そうだね。小学校3年くらいだったかな? クラス替えがあってね。格好良くて何でも出来る、そんな人が同じクラスになったって話があってね。それが真也だった。クラスのみんなに囲まれて期待の目で見られてて。でも初めて僕が真也を見たときは違った印象だったなあ。真也の顔を見たときに笑ってはいたけど、寂しそうに見えてなんだか可哀想だなって思った。後で真也の本音を聞いて無理してたんだなあってわかったんだけどね。期待される事ってプレッシャーが重く伸し掛かって辛かったって」
僕は苦笑しながらアキに話していた。
「そう、あの時は運動会のクラス対抗リレーだったかな? まだ、真也と僕がそう付き合いがない時、ある場所で真也が隠れて泣いているのを見つけてね。話を聞いてみると他のクラスに足の早い人がいて勝てるかわからない。でも、クラスのみんなは「勝って当たり前」って気楽に言ってくる。だから緊張しすぎて我慢できなくなったって。そんな真也を見てその時の僕は何ができないかな? 助けられないかなって思ってね。だって真也の周りをいつも囲んでいたクラスのみんなは期待ばかりして真也に何もしようとしない、わかろうともしてないように感じていたから。まあ、それからいろいろ考えたんけど、結局僕にできることは応援だけだった。だから始まると応援団の旗を振っている人、上級生だったけど無理を言って旗を借りてきて。そして真也の番、アンカーだったんだけど「島田、周りは気にしない。自分の力を信じて! 思い切り走れ! 」って旗を振り回して応援しまくった。僕には重い旗だったな」
そんな僕の話をアキは静かに聞いてくれていた。
「結果は真也が一番だった。格好良かったな。けどその後が駄目だった。競技が終わると真也は僕に抱きついてきて「見てたよ。嬉しかった。近藤のおかげだ、ありがとう」そう言って泣き出したんだよね。みんなの前で。恥ずかしかったのをよく覚えているよ。それ以降いつの間にか真也が僕に付きまとうようになってね。普通逆だろ? とか思ったけど。まあ、それからの付き合いだね」
僕がそこまで話をすると、アキは少し笑いながら
「その頃から夏樹くんは一生懸命だったんだなあ。でも島田くんには感が鋭かったのに私とかには鈍いよね? 」
なんてことを僕に告げてきた。その言葉に
「うーん。確かに僕は鈍感だなあ。ただ、これだと思った時は頑張ってるつもりなんだけどね」
僕は照れながらそう苦笑しながら話していた。そして僕はアキに
「それから仲良くなったわけだけど、なんというか頑張ってる真也を手伝いたくて、応援したくて出来る事をしてきたかなあ。僕は特別な事なんてできないからその分真也の裏でいいからなにかしてきたつもり……かな? 」
真也との繋がりのきっかけを話したのだった。
「ほんと仲がいいんだね。夏樹くんは裏方に回ってでも助けようとして。そして島田くんも夏樹くんの事を本気で心配しているの見ててわかるから」
「うん。そういえば真也から中学の頃もらった言葉があるんだ。「夏樹、俺のことをわかってくれるのはお前だけだ。俺はお前を絶対裏切らないよ」って。本当に嬉しかったよ。普通以下の僕にそう言ってくれる友達、親友と呼べる人ができたんだって……ね」
そう僕がアキに伝えると、アキは
「そうなんだね、わかったよ。私も島田くんをよく見てみるよ。他の男子テニス部と違うんだってわかるかもしれないから」
と僕に真剣に告げてくれた。けれどその言葉を聞いて嬉しくなりアキに微笑んでいた僕に向かって最後に
「ただね。島田くんをいくら見ようと私の一番は夏樹くんだから。というか他の男を見るって言ってるのに嬉しい顔しないで! ちょっと悲しくなるでしょ? 」
そう冗談なのか本気なのか僕にはわからない複雑な顔をしながら伝えてきた。そしていきなり抱きついてきてうろたえる僕を見たあとクスッと微笑みを浮かべたのだった。
アキ、ごめん。
本当はちゃんとわかっているんだ。でも僕にはまだどうしていいかわからないんだよ……
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