第18話 アキさん
そんな悲しそうな表情を見せたアキさんだったけれど、急に真剣な表情に変え
「夏樹くん。私を知りたいって言ってくれたよね? だから私が今思っていることを伝えるね。夏樹くんにとって嫌だと感じることもあるかもれない。それでも私だから」
アキさんはそう告げた後、何かを決心するかのようにコクンと頷き話を再開した。
「ここのところ私のこと良くも知らないのに好意を向けられると訳が分かんなくなってたの。多分男子テニス部の人達の影響だと思うけど。けれど最初の夏樹くんは私のことなんてどうでもいいって感じの態度だったでしょ。でも不思議と「可愛いとでも言って欲しいの? 」って言われてなんか嬉しかったんだよね。変でしょ? おかしいでしょ? けど、その言葉でぴーんと来ちゃったんだよ。そうしたら夏樹くんに私を知ってほしいなって思っちゃって。どんどん気になっちゃって。あっという間に私の中に一杯になっちゃって。だから夏樹くんに押して押しちゃってる」
そう言って少し笑いながら話すアキさん。そして
「こんなこと言ったら夏樹くんは怒るだろうけど、今井さんに夏樹くんが振られて今は良かったと思ってる。ほんと嫌な娘だよね。人が振られて慰めなんてしてたくせに今じゃそんな事を思ってるなんて……軽蔑するでしょ? 」
そう少し不安そうに僕を見つめながら尋ねてくるアキさん。
もし振られたばかりなら怒っていたかもしれないななんて思う僕。でも今になるとまだ僕の今井さんへの好意が少しは残っているかもしれないけれど、そう言われても怒る気には全くならなかった。それはアキさんが口にしたというのもあるのかもしれない。そしてなぜ怒る気にならないのかを考えてみれば今井さんと上手く行っていれば多分アキさんとこうして一緒に居ることはなかったからだと、会えてよかったと思っている僕が居るからだと。変なものだよ。当時じゃわからない、過ぎてみなければわからないなんて不思議な感覚だよね。
「ううん。怒ってないよ。軽蔑もしないし怒る気にもならない。確かに悲しいことだったけれど今僕は今井さんに振られなければアキさんと会えなかったんだろうなあっていつの間にか考えてた。そう思うとアキさんもそう考えてくれても不思議じゃないんだろうなあって。僕もアキさんと会えたことって大きかったと思ってるから」
僕はアキさんの目を真剣に見つめながら思っていたことを素直に伝える。するとアキさんも
「うん。そうなの。今井さんに夏樹くんが振られなければ多分こうやって出会って一緒に居ることなんてなかったと思うの。出会ってからたった数日なのに……なあ。私、こんなに簡単に落ちる娘じゃないって思ってたんだけどあっという間だったんだよね。もともと私自身、元気な娘だと思うけど結構頑張ってアプローチしてるんだよ? 」
と僕に頑張っているアピールをするアキさん。そんなアキさんを僕も見つめながら
「うーん。それはどうなんだろ? アキさんはそれが正常じゃないの? 」
と僕は冗談半分でアキさんにそんな事を言う。
「うぅそんな返しで来られると思わなかったわ。まあ、話の続きだけどそんな夏樹くんの側に居られるなら苦手意識はあるけれど島田くんが居ても問題ないの。そう、夏樹くんが居ればそれでいいんだよ。だからこれからも側にいさせて……ね? 」
アキさんにそう面と向かって言われると結構僕も照れてしまうわけで。そんな照れている僕に向かって
「ねえ? 夏樹くん。ひとつ頼みがあるんだけど……」
とアキさんはお願いをしてきた。
「うん? 出来ることならするけど、なに? 」
「えーとね。よかった呼び名の「さん」を取ってほしいなあって。呼び捨てで呼んでほしいなあって」
アキさんは少し照れながら僕にそうお願いをしてきた。僕としては全く問題もなく
「うん。いいよ。これからは「アキ」って呼ぶよ。これでいい? 」
と僕が即座にそう伝えると嬉しそうににこやかな顔をして
「うん、ありがとう。夏樹くん! 」
といつもどおりの元気の良いアキさんで返事を返してくれたのだった。
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