第17話 「もう」の理由は?



 ベッドの上にぽんと座りしばらく僕の部屋を眺めていたアキさん。そんなアキさんを僕は机の椅子に座ってぼーっと見ていた。別に可愛いからって見惚れてわけじゃなく。なんでアキさんはこんなにも僕に懐いているんだろうと。そんな様子の僕が気になったのか


「うん? どうしたの? もしかして私に見惚れてる? それともふたりきりで緊張してる? なーーんて」


 アキさんはダイレクトに僕に聞いてくる。緊張はしてない……あれ? 女性と部屋でふたりきりなんて初めてかもしれないのになぜ? そんな事を考えながらも


「うーん。緊張はしてないよ。見惚れても居なかった。ただ、なんで僕ってアキさんに懐かれたんだろうなあって思って」


 僕は素直に考えていたことをアキさんに伝えた。


「なんだか寂しいなあ。緊張しないし見惚れても居ないって私に魅力がないってことなの? ぶぅ」


「いや、そういうわけじゃないんだけど。なんというか……」


 僕が告げる言葉に困っていると


「冗談だよ。だってそれは仕方ないもん。この前まで、いや今もかもしれない。今井さんだっけ? 好きだったのにそう簡単に目移りしないよね。だから気にしない気にしない」


 とアキさんは手を振って何かを誤魔化すように僕に告げた。




 そんな話をしているうちにひとつ気になっていたことがあったのを僕は思い出す。この際に、ゆっくりとある時間に聞いておいたほうが良いかなと


「ねえ? アキさん。本当に真也と一緒で良かった? 一緒に居ていいって言ったけどもし嫌ならもう来なくても良いんだよ? 」


 と僕はアキさんに思い出したことを伝えていた。それを聞いたアキさんは少し慌てて


「ちょちょっと待ってよ。なんでそうなるの? 夏樹くんと一緒に居るって言ったじゃない」


 と僕に伝えてきた。だから僕はこうアキさんに告げる。


「いやね。真也が面倒をかけたくないって言ってたじゃない。だからなにかあったんだろうと思って。あっ無理に理由なんて言わなくていいよ。ただ、嫌なことをさせたくないなって」


 そう、って言ったんだよね、真也は。だからアキさんは最初から真也に言葉が冷たかったんじゃないかなって気付いたんだ。だからこんなにも良くしてくれるアキさんが嫌がることをしたくないって僕はそう思っていた。


「はぁ……夏樹くん、気付いてたんだね。でもね、別に島田くんになにかされた訳じゃないのよ。問題があったのは男子テニス部。だからちょっと違うのよね」


 アキさんはそう言った後、ひとつため息をつき


「仕方ないなあ。これから島田くんと居るなら一応伝えておいたほうが良いのかな? 島田くんが原因じゃないけど関わりたくない人だってのは間違いなくて。ほんと大したことじゃないんだけどね。だから夏樹くんは理由なんて知らなくていいって思っていたけど。夏樹くん、私のこと知りたい? 」


 と僕を見つめながらアキさんはそう尋ねてきた。だから僕は


「うん。どちらかというと知りたい、知っておきたいかな? これから一緒に居る人が困っていることを知らないままではいたくないとは思うよ」

 

 と僕が言うと、アキさんは少し沈黙の後、僕に理由を話してくれるのだった。




「わかった。私のことが気になってるのは間違いないってことで。ただちょっと残念な言葉だったけど。えっとね。1年のときにね、男子テニス部の色んな人から短期間に連続で告白されたことがあるのよ。あっ告白された話はしたことあったね。まあ、自慢ではないけど告白は今でも結構されてるのよ? 」


 アキさんはそう言った後ちょっと微笑みまた話を再開した。


「全部振ったんだけど「なんで男子テニス部の人がこんなに次々に告白してくるのよ」って流石に私も不思議に思ってたの。そしたらね。女子テニス部の友達が偶然聞いたらしいの。男子テニス部で誰が私を落とせるか勝負してたんだって。あっその中に島田くんは入ってなかったみたいだよ。告白されなかったし。けれどそんな事があったんでどうしても男子テニス部の人には苦手意識があるんだよね。まっそんなところ。だから島田くんが悪いわけじゃないの。ふふふっ大したことないでしょ? 」


 そう言って笑うアキさん。でもその笑顔は無理に作ったようなものでいつも元気に声をかけてくれるアキさんと全く違っていて僕にはとても悲しく見えていたのだった。



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