第16話 僕の家



 通話から10分もしないうちに玄関のチャイムが鳴る。え? あの公園でも20分近くあるんじゃなかったっけと僕は早いなあと思いながら玄関まで赴く。そして玄関を開けるとはぁはぁと息を荒くさせながらアキさんが待っていた。


「おはよう、じゃなくてこんにちはか。アキさん」


「はぁはぁ、こんにちは夏樹くん。思いっきり走ってきたから……息が」


 そんなに慌てなくても良いのにと僕はおかしくなり笑ってしまう。それを聞いたアキさんは


「……なによ。会えるなら早く会いたいじゃない。はぁはぁ、だったら走るしか無いでしょ」


 そう言いながら珍しく恥ずかしいのか少し頬を赤くしていた。そんなアキさんに


「走って疲れてそうだから少し上がってゆっくりする? なんにも無いけれど……って男の家に両親居ないのに上げるのはまずいか」


 と僕は思い直してやめようとしたのだが


「そんなの関係ない。はぁはぁ、あがるあがる。別になにかされたって大丈夫」


 とアキさんは言ってはならないことまで言い出す始末。


「ぷっなにもしないよ。なら上がって」


 そう言ってアキさんを僕の家へと上げたのだった。




 家に入るとアキさんは息も落ち着いたようで家の中を見回しながら僕についてくる。狭い家だしそんなに見回さなくてもわかるでしょうにと思っていると


「へぇ、ここが夏樹くんの住んでいるところなんだぁ。でも、やっぱり部屋行こ、部屋! 」


 と騒ぎ出す。リビングでいいかなあと思ってた僕は


「リビングでいいでしょ? 」


 と聞き返すと、少しむくれた顔で


「駄目。やっぱり夏樹くんの部屋を見ないと来た甲斐がないよぉ」


 となんの甲斐がないのかさっぱりだけど何かを期待して来たのは間違いないのだろう。別に変なものはないし見せても別にいいので


「わかったよ。2階だから。ついてきて。あっちょっと待ってね」


 僕は自分の部屋に行く前に台所に寄り冷蔵庫からお茶と棚からコップを取りお盆に載せて持っていくことにする。




 僕の部屋に入ると「ふぁぁ」と訳わからない声を出しながら周りを見渡すアキさん。というか普通の部屋だと思うんだが、なんでそんな声を出すのだろう。


「へへへっ初めて男の人の部屋に入ったよぉ」


 とアキさんはニマニマ顔を緩ませてそんな事を呟いていた。僕の部屋にはテーブルがないので机の上にお茶を置きふたり分コップに注ぎ「アキさん飲みたい時は飲んでね。テーブル無いからここに置いとくよ」と伝えておいた。


「そんなに見回しても普通と変わらないでしょ? 」


 未だに自分の世界に入っているようなアキさんに僕はそう告げる。すると


「わかんない。だって初めてだから。他の男の人の部屋なんて知らないもん」


 とまた緩んだ顔で僕にそう返事した。そんなアキさんを見て僕は少し笑いながら


「ベッドとか机の椅子、どこでもいいよ。座りたいところに座って。で、アキさんどこに行くの? 」


 と僕は適当に座ることを勧めた後、今日のアキさんの目的、どこに行くかを尋ねる。すると


「うーん。どこでも良いし、どこにも行かなくても良い。もう満足」


 と訳のわからないことを言ってきた。アキさんトリップしてる?


「ん? 用事があったわけじゃないの? 」


「ううん、休日で珍しく時間が出来たし、夏樹くんと一緒に居たいなあと思って誘っただけ。だからもう会えてるし特に希望なんてもうないよ? 」


 アキさんは僕をやっと見ながらそう伝えてきた。そうなのか。と言っても僕もどこに行きたいとかないんだよなあ。それに女性と行くような場所なんて知らないし。


「うーん、困ったなあ。僕も特に行きたいところないんだけど」


「それなら無理することないよ。ここにいよう。そしてお話しよう。ふたりで、ねっ」


 と急遽予定を変え僕の家で過ごそうと言い出したアキさん。


「でもつまらなくない? 」


「ううん、夏樹くんと居るし楽しいよ? そうしようそうしよう」


 というアキさんの言葉で当初の予定と変わり今日は僕の家で過ごすことになるのだった。

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