第14話 只野さん



 その日の放課後、僕は屋上にいた。只野さんとふたりで。

 



 ホームルームも終わり、僕が真也と部活に行く前に慌ててやってきたアキさんに挨拶を交わし帰ろうとしていると只野さんが声をかけてきた。


「ちょっといい? 」


 と。その言葉に僕としては只野さんに別に話すことがなく、というより昨日のことであまり話をしたくないということもあり断ろうと考えていた。その気持ちが顔に出ていたのだろうか只野さんは


「もう、良いからついてきて」


 と僕の話も聞かずに腕を掴んで引っ張って来た。そんな只野さんに


「ちょっ、ちょっと待ってって」


 と言うけれど、只野さんは僕の言葉を無視して引っ張ってくる。僕はそんな只野さんの腕を無理に離すことも出来たけれど、怪我をさせてはという考えがそうさせない。そんな訳で只野さんの行動に僕は仕方なく屋上まで引っ張られながらついてきたのだった。




 屋上に着くと、只野さんは僕の手を離し少し離れた場所で僕と向き合う。そして


「ちょっと聞いても良い? 」


 と今更なことを僕に言ってくる。いや、良いも悪いも無理やり僕はここに連れてこられたわけでそう聞かれてもただ困るしかない。


「嫌って言ってもまた捕まえてくるんでしょ? もういいよ。で、なに? 」


 僕はどうせまた掴まれても面倒だと諦めて話を聞くことにした。ただ、僕に何が聞きたいのか? 真也のことなら直接聞けばいいと思うし。昨日の発言からわざわざこんなことまでして僕のことを聞きたいとは思えない。そんな事を考えていると


「なんで隣のクラスの千葉さんと一緒に居るの? 」


 と只野さんは尋ねてきた。いや、なんでそんな事聞くの? と僕は困惑していた。僕が誰と居ようと関係ないだろうと。只野さんが気にする訳がわからない。


「意味がわかんない。なんで只野さんがそんな事を聞いてくるか」


 だから僕は素直にそう尋ね返す。すると


「私は真也くんと一緒に近藤くんも戻ってくると思っていたのに。なんで千葉さんと……」


 と只野さんは意味のわからないことを僕に告げてきた。昨日ただのおまけのような言い方をされた僕が戻りたいなんて考えると思うかい? ちょっとおかしくない? と。


「余計に意味がわかんない。昨日さ、只野さんは真也が戻るなら戻ってきていいよって言ったんだよ? 僕がおまけのように。そんな場所に戻りたいと思う? そんな訳ないじゃない。ただでさえ今井さんに振られて相手に迷惑をかけたらと思って離れようとしていたのに」


 と僕は少し怒りが込められた言葉を只野さんへと返す。それに対して只野さんは


「そ……それは。言い方が悪かったのはごめんなさい。でも、春のことで戻れないとは考えてなかったの。だって振られたの2度目でしょ? だったら1度目のように元に戻れると思ってたから」


 とすごく安易な言葉を返してきた。いや振られるのって辛いんだよ? 僕だって。何も考えず告白を2回もしたわけじゃない。ただ、そのことを考えてるうちになんで1度目と2度目の僕の気持ちがこうも違うんだろうと不思議に思った。何が違ったんだろうと。


 そう考えるとひとつ違うことがあったことに気付く。それは今井さんの言葉だった。1度目は「特定の人と付き合いは考えていない」だったんだ。けれど2度目は「好きな人がいるから」だった。そう、1度目はまだ頑張れば、知ってもらえれば望みがあるって思える言葉だったんだ。でも2度目は……好きな人が居るのならもう無理だよなって僕はきっと考えたんだって。


「ごめん。同じように見えても違うことがあるんだ。だから僕は離れたみたいだよ。はははっ只野さんの言葉で今わかったよ。ふぅ、とりあえず僕はもう戻る気はないから」


 と僕は只野さんにそう返す。それを聞いた只野さんは


「ねぇ? なんで千葉さんと一緒に居るの? それも今日から急に……」


 と僕とアキさんのことを聞いてきた。いやそれこそ聞く必要のないことだと思うんだけどと思いながらも


「アキさんが僕を助けてくれたからだよ。昨日もそして今日も。会ったばかりなのに僕のことを見透かしたように分かってくれる人なんだ。全然僕のことを知らなかった人なのに落ちこんでいる様子に気付くんだからなあ。不思議な人だよ。そんな人と一緒に居るようになっても不思議はないでしょ? 」


 ともう面倒はごめんだからと僕は只野さんにアキさんのことを素直に話していた。


「なんで……会ったばか……と……私……長く……」


 それを聞いた只野さんは少し呆然とした様子になりぶつぶつとなにか呟いているようだった。けれど僕には聞き取れない。というよりも聞く気もあまりなかった。早くこの状態から抜け出したいとしか考えていなかった。そして


「僕はもう行くから。真也については直接本人から話があるだろうから。そっちから聞いてね。とりあえず僕はもう戻らない。じゃ」


 そう告げて僕は屋上から立ち去った。佇む只野さんを置いたままで。

 

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