第12話 真也は戻らない



 僕は周囲の視線にやっと気付く。その視線に僕はさすがに恥ずかしくなって


「アキさん、周りが見てるって」


 と僕が言えば


「いいじゃない。見せつけておけば」


 なんて軽く返してくるアキさん。そんな僕たちを真也は黙って見続けていた。僕はそれが早く話せと言っているように感じていた。だから


「はぁ真也。アキさん放っといて先に話そうか。多分きりがないよ」


 と僕はそう言ってから真也へと説明を開始する。横からアキさんの「えーー」という声、周囲のクラスメイトの視線は無視して。




 僕が昨日落ちこんでいたこと

 それに気づいたアキさんが話を聞いてくれたこと

 その中でひとりぼっちにならないようアキさんが僕と一緒に過ごしてくれることになったこと

 

 只野さんとのやり取りや僕が泣いたことは真也に言わなかった。只野さんのことは真也が知ると怒りそうだし、泣いたのはただ恥ずかしかったからという理由で。




 僕が一通り話し終わると真也はぼそりと


「アキさんが夏樹と一緒にいるのは俺が要因? 」


 なんてことを呟いてきた。それを聞いたアキさんは


「なんか勘違いしているみたいだけど島田くんのせいじゃないから。私が夏樹くんの側にいたいと思ってこの話に立候補しただけ。ひとりぼっちにならないように一緒にいるっていう話に私が飛びついただけだよ? そんなに島田くんが悩むことなんてなにもないから安心してね」


 と真也に説明していた。僕としてもそう思い、同意の言葉を伝えようと


「うん。真也が気にすることなんてなにもないよ。ほんと強引に立候補され……いてて。そんなにつねんないでよ、ほんとにもう」


 したのだが、横からアキさんにつねられてしまう。痛いって。


「なによ。無理やりしたみたいに言わないでよ。ちゃんと夏樹くんも了承してくれたでしょ? 」


 アキさんはそう言って頬を膨らませていたのだった。




 そんな僕たちを見ながらしばらく真也は何かに悩んでいるようだった。何を悩んでいるのかは僕にはわからない。だから僕は真也が言葉を発するまで待つことにした。アキさんも僕が真剣になったことが分かったのか落ち着きを取り戻した後じっと僕の横で真也が言葉を発するのを一緒に待ってくれていた。




 しばらく考えこんだ真也はやっと口を開いてこう言った。


「なあ、夏樹。昨日はさ、夏樹がひとりぼっちになったら駄目だと思って一緒にいようと考えたけどさ。そうじゃなくて……。俺さ、ふたりを見ててこっちに居たいなあと思えたんだけど駄目かな? 」


 と。真也は僕たちが考えていたことと違う言葉を告げてきた。グループに残るではなく、そして僕のためではなく自分の意志でこちらに居たいと。だから僕は驚いて


「え? なんで? もう僕はひとりじゃないから真也は今まで通り向こうのグループで過ごしても問題ないでしょ? 」


 と真也に問い詰めてしまう。アキさんも


「え? なんで? 私じゃ力不足っていうの? 」


 と自分じゃ役に立たないと思われたと考えたのだろう真也へと言い返す。すると真也は


「いやいや、アキちゃん。そうじゃないよ。ふたりを見ててさ、というより夏樹を見ててさ。向こうに居た時より良い顔しているんだよ。なんていうか向こうに居た時の夏樹ってちょっと無理してるんじゃないかって顔してたんだよね。それがこっちだと無理をしていない夏樹らしい顔してるなって。ふたりがじゃれ合ってるのを見て思い出したんだよ。夏樹らしい顔ってのを」


 それを聞いた僕は向こうに居た時とそんなに違うのだろうかと思わず自分の顔を触ってしまう。そんな僕をアキさんはちらっと見て微笑した。そんな中、真也は更に言葉を紡ぐ。


「多分夏樹は今まで好きな人が居たから頑張ってたのかなあ、無理して過ごしていたのかなあとか思えてね。はははっ今までわかんなかったなあって。それを引き出したアキちゃんもすごいな。俺のほうが付き合いも長いのになあ。それにふたりとも幸せそうなんだよ。そんなふたりを見ていたらさ。俺もこっちで一緒に過ごしたいなあって思えてさ。そう、こっちに来たいという願いは夏樹のためじゃなく俺の為だな」


 真也は僕たちに真剣な表情で伝えてきた。


 そんな真也を見て、僕は真也を無理に向こうのグループに戻ってもらうように説得するのはちょっと違うのかなあと思い始めていた。だって今回は僕のためじゃなく真也が自身のためにこちらに来たいと言っているのだから。




 僕がそんな事を考えている中、真也は続けて静かに呟く。


「それに……」


 けれどその呟きは僕には聞こえていなかったのだった。

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