第10話 すっきりとした朝



 その日アキさんとは最後にSNSの交換をして別れることとなった。「連絡が取れたほうがいいよね? 」とすんなり話をしてきたので手慣れたものだと僕が思っていると「誰とでも交換してないからね? 」と僕が考えていることが分かったかのように念押ししてきたアキさん。そんなアキさんにほんわかして僕は思わず笑ってしまう。

 そんな僕を見てなぜか焦った様子のアキさんは「うぅぅこれが証拠だ! 」と言ってわざわざ僕にスマホの登録を見せてくる。その様子を見て僕は笑って勘違いさせたかなあと申し訳なく思ってしまったのであった。

 



 さて、その後僕は家に帰り事を終わらせると部屋のベッドで寝そべって今日あったことを思い出す。


 以前は仲間だと思っていた人からのきつい言葉。

 

 その言葉で落ちこんだ僕。

 そんな僕を会って間もないアキさんは見つけてくれた。

 そして、そんな僕を捕まえて話を聞いてくれて。

 一緒に過ごそうと言ってくれて。

 

 最後には泣いて、泣かせてくれて。


 不思議な1日だった。だって今まで近くにいた人に僕は砕かれたのに、それをすくい取ってくれたのは出会って間もない人だったのだから。


 繋がりなんてそんなもの? なんて一瞬思ってしまったけれど、そうでもないと僕は考えた。だってまだ出来たばかりの繋がりが、アキさんが僕を助けてくれたのだから。そう考えると大事なのはきっと長さじゃないんだろうなって僕はそう感じたのだった。


 


 翌日僕の目覚めはスッキリとしていた。昨日あった悲しさや悔しさがすっかりと消えている。


 言葉で吐き出せたから? 温かく包んでもらったから? それとも泣いた、泣けたから?


 どれが正解かはわからない、けれど僕の救いになる複数のきっかけがあったんだなと思うと僕はとても嬉しく感じられたのだった。


 そんな僕はいつもの時間に家から出られるように準備をしていく。そして家を出て学校へと向かっていった。


 全く憂鬱な気分を抱えこむこともなく。




 学校に着くと寄り道もせずに教室へと向かっていった。昨日の僕の感情なら教室に行くのも躊躇われたかもしれないけれど、そんなこともなく僕はすんなりと教室へと入っていく。


 クラスメイト数人と挨拶を交わした後、僕は机へと向かい鞄を横にかけて椅子へと座った。そしていつも真也が居そうな場所を見渡す。でもそうすれば嫌でも今井さんや只野さんが目に入ってしまうわけで。けれども不思議なもので昨日のような嫌な気分を感じることなく、あまり気にもならなくなっていた。だから僕はふたりを無視して真也を探してみる。けれどまだ教室には来ていないようだった。多分部活の朝練習かなあと僕は思いぼーっと待つことにする。真也が来ればアキさんの話をしないといけないなと考えながら。


 そしてしばらくした後に


「みんな、おはよう」


 と挨拶しながら真也は鞄を持って慌てながら駆け足で教室へと入ってきた。そしてまずはと僕の席の近くまでやってきて挨拶をしてきた。


「夏樹、おはよう」


「ああ、おはよう。今日は遅かったね」


 僕はいつもより遅かったので真也にそう伝えると


「ああ、今日はちょっと部活が遅くなってね。ホームルームに遅刻するかと思ったよ」


 そう真也は僕に答えてきた。するといつの間にやって来たのか


「夏樹くんおはよ。とりあえず挨拶だけね。私もホームルームに遅刻しちゃう。また後で」


 とアキさんは慌ただしく僕に挨拶を告げ教室から出ていった。それを見た真也は


「なんだ? いまの」


 と不思議そうに僕に尋ねてきた。だから僕は


「多分僕に朝の挨拶に来てくれただけだと思うよ。遅刻しそうなら来なくていいのに。ほんと元気だね」


 と僕は笑いながら真也にそう伝えた。それを見た真也は


「え? なに? 夏樹とアキちゃん付き合ってんの? 」


 と困惑した顔で見られる僕。真也の疑問にそれはありえないと思いながら


「振られたばっかりで他の子に手を出すと思ってる? そう思われると心外だよ、真也。付き合ってないから。いや、いろいろとアキさんに助けてもらって仲良くなっただけだよ。真也には後で理由は話す。いや話さないといけないことだから。でももうすぐ先生来るだろ? まずは席に着きなよ」


 そう真也に伝えると


「ああ、そうだな。後で理由を教えてくれよ、夏樹」


 そう言って自分の席へと向かっていった真也。にしても真也のあの困惑顔。アキさんって周りの人が気にするほど人気があるんだろうなあと安易に考えながら周りを見渡すと多くのクラスメイトがなぜか僕を見て唖然としていたのだった。


 昨日の昼もアキさんぼくを探してこの教室に来たことあるのになんで? と思いながら。



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