第09話 出会いの握手
温かさに包まれたせいか僕は思い切り泣いていた。周りを気にすることもなく。それでもいつかは落ち着くもので、落ち着きを取り戻した僕は流石に恥ずかしくなってしまった。まだ会って間もない人に抱かれて泣き叫んで。
そんな僕の様子がわかったのだろうかアキさんは話し出す。
「わざわざここに来たのはね。泣くには人があまり来ない場所が良いと思ったからなんだ」
彼女がこの場所を選んだのは人に邪魔されない場所だと考えていたからのようだ。そう、そこまで考えて僕をここに連れてきてくれていたのだ。泣くために。そんなアキさんに僕は困惑するしかなかった。
「でもよく分かったね。僕が泣けなかったんだってことに」
と僕が不思議そうに尋ねると
「うーん、なんとなくなんだけど我慢しているような気がしたんだよね。これもぴーんと来たってやつかも」
アキさんは僕が泣いてたことを感じさせないためなのだろうかそんな事を言って微笑んでくれた。けれど僕はさすがに
「はぁまいったなあ。僕よりもアキさんのほうが僕のことを分かるなんて……それも会ったばかりなのに。なんか悔しいなあ」
悔しそうにそうアキさんに伝える。そんな僕にアキさんは
「ぴーんも馬鹿にできないでしょ? だからきっと夏樹くんにぴーんと来たのも意味があるはずなんだよ、きっと。まあこれからふたり一緒に過ごす時間が出来るわけだしね。ゆっくり行きましょう? 」
と優しく僕に告げてくれたのだった。
このままの態勢は流石に恥ずかしいので、僕はアキさんに抱きしめてくれている手をほどいてもらいまたふたりベンチに座り直すことにした。
「はぁ……まいったなあ。なんだか僕の駄目なところばかり見られてる気がして、こんな僕と一緒に過ごしても本当に良いの? 」
僕は思わずアキさんに再度確認をしてしまう。だって愚痴を言ったり泣いたりとこんなに情けないところを見れば普通なら嫌になっても仕方がないだろう。
「ううん。逆に良かったかな。夏樹くんがどういう事が嫌だったのか、苦しかったのか分かったし。そんなことを私はしないようにしなきゃって思えたもん。えーと、確かに好きな人がいたって言うことはちょっと困りものだったけれどね。でも良いの。これから私が頑張ればいいだけだしね。そのうち私がいないと寂しいって思えるようにしてあげるから」
とアキさんは僕の情けない姿を見ても嫌気も差さず、いや前向きに僕と付き合ってくれると言ってくれる。そんなアキさんに僕は思い出したように
「えーと……今更だけどさ。最初はごめんね。今考えると結構冷たい言い方してたかなあ、僕」
と当初知らない人だったという点を除いたとしてもアキさんを冷たくあしらっていたなあと思い謝ることにした。すると
「ううん。あれは気にしなくていいの。逆にあの態度が知りたいなあって思える要因だったかもしれないし。あの時はあれで良かったんだよ。だからもう気にしない。先を見ようよ、ねっ」
と以前のことなんて気にしないというようにアキさんは僕に再度微笑んできた。
ほんとわからないよね。長く付き合っていた友人には冷たい言葉を受けたのに、こうやって会ったばかりのアキさんに優しくされるなんて。なんなんだろうな……。
「これが本当の出会いなのかなあ……」
そんな事を考えていた僕は思わずそんな言葉が出てしまう。それを聞いたアキさんは
「ふふふっ嬉しいこと言ってくれたね。私と夏樹くんの出会い。本当の出会いだなんて。よかったらこれからも大切にしてくれると嬉しいな」
そう言って僕に握手を求めてきたアキさん。僕は今度は何もためらうこともなく
「うん。よろしくね、アキさん」
彼女の手を握りそう答えたのだった。
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