第08話 泣いて泣いて泣いて



 僕たちふたりは会計を済ませ喫茶店から出ていく。そして僕はアキさんに言われるまま着いていくことになった。今回は喫茶店に来るまでのように手を繋がなくても良さそうだった。というのもアキさんは少し考え事をしながら目的地へと向かっているようだったからだ。


 そんな静かにふたり向かう中、僕は少し気になったことがあったのでアキさんに聞いてみる。


「そういえばさ。アキさんがわざわざ僕のクラスに遊びに来てくれるって言ってくれたけどさ、クラスってどこなの? 」


 わざわざ来てくれるにしても遠いクラスだと大変じゃないかと思ったんだ、僕は。だからそう聞いてみたんだけれど


「ほんっとーーに私に興味がまったくなかったみたいだよね、夏樹くんは。あのね、私のクラスは2年2組。で、夏樹くんのクラスは? 」


 アキさんはすこし頬を膨らませながらアキさんのクラスを僕に伝え、そして僕のクラスを尋ねてきた。うん、ほんとごめん。聞いてわかった。


「2年3組……隣だね。ごめん。知らなかった。で……でもさ、アキさんも僕のこと知らなかったよね? 隣のクラスだったのに。だからお互い様ということで」


 そう隣のクラスだったわけだ。でもよくよく考えれば探しに来るまで僕が隣のクラスだって知らなかったのはアキさんも一緒だったなと思い出し僕は逃げるようにそう答えた。すると


「うぅなんか悔しいなあ。確かに私も知らなかったもんね。はぁお互い様かあ。なんか残念」


 なにが残念かはわからないけれどアキさんはそんなことを呟いてとりあえずその場を収めることが出来たのだった。



 

 僕はどこに向かっているかわからなかったけれど黙ってついていった。そして15分ほどふたりで歩いていると少し高台にある公園らしき場所へ辿り着いた。


「着いたよ。ここね、私の家の近所なんだけど落ちこんだりした時によく来る場所なの」


 着いて早々アキさんは僕に向かってそう話してくれた。


「じゃ見晴らしの良い場所にベンチもあるからそこに行きましょ」


 そしてそう告げたアキさんは急に僕の手を掴んで見晴らしの良い場所へと引っ張っていく。だから僕はそのままされるがままについていった。目的のベンチまで着くとそこからは夕焼け空が綺麗に見ることのできる景色の良い場所だった。

 今日は天気も良かったのだろう夕焼けの濃い赤が僕たちを包むように広がっていた。


「とても綺麗でしょ。というか今日はいつも以上に綺麗だなあ。さて、ベンチに座りましょ」


 アキさんのその言葉を受け、夕焼けにの方に向かって僕達ふたりはベンチへと並んで座ることにした。




 ベンチへとふたり並んで座ったけれどしばらくの間黙って夕焼けを眺めていた。別に意味はない。お互い言葉が出なかっただけかもしれない。でもその時間はとても心地よく感じられた。けれどそんな時間も終りが来る。まずはアキさんが先に口を開いた。


「夏樹くん。あのね? 泣いた? 」


 アキさんはそう僕に尋ねてきた。ただ僕には意味がわからなかった。泣いた? 何に? 


「えっと何に対してかな? 泣いた? 今日は泣いてないね」


 よくわからないので僕はそう答えるしかなかった。するとアキさんは


「今井さんだっけ? 彼女に振られて夏樹くんは泣いた? 泣いてないならなんで泣いてないの? もしかして1回目の告白の時も泣いてないのかな? 」


 そう僕にさらに言葉を加えて尋ねてきた。うん、泣いてないな。今回振られて……あれ? でも1回目のとき泣いたな。真也に見られたしな。


「1回目に振られた時は泣いたなあ。真也にも見られて恥ずかしかったなあ」


 と僕は思い出しながらアキさんにそう答えた。


「それならなんで泣かないの? なんで泣けないの? もうそんなに彼女のこと好きじゃなくなってた? 」


 アキさんは僕の答えを聞いて更に尋ねてくる。好きじゃなくなってた? そんなわけはないじゃないか。


「そんなわけないじゃないか。どれだけ好きだったかもわからないのにそんな事言うな! 」


 僕は思わずアキさんの言葉に憤りを感じ怒鳴ってしまう。


「あっごめん。怒鳴っちゃって」


 だから僕はアキさんにそう謝った。するとアキさんは


「ううん、いいの。私、夏樹くんにきついこと言ったと思うから。でもね、夏樹くん、今わかる? 」


 と僕に優しく告げてきた。なにが? わかる? 僕はそう考えていると僕の頬に冷たい何かが流れているのが分かった。そんな僕を見ながらアキさんは


「泣いて。泣いて泣いて泣いて。なんで我慢してるのよ。何が原因かわからないけれどそんなに気持ちを抑え込んで。空っぽになってたんじゃなくてどこかに押し込んでただけなんだよ。見たくなかっただけなんだよ。だから泣いて。ごめんね、側に居てあげられるのが私しか居ないけど。泣いて。感情を吐き出して……ねっ」


 そう告げるとアキさんは僕の頭を抱きしめてきたのだった。


 そんな温かい温かいぬくもりの中で感情を出せたからだろうかそれとも優しい思いをもらえたからだろうかその日僕はやっと泣くことが出来た。2回目に振られた時点では忘れていたそんな涙を。アキさんの側で。腕の中で。


 

 

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