第06話 アキさんの考え



 そのまま手を繋いだまま帰ることになった僕とアキさん。でも流石に恥ずかしいため


「そろそろ手を離さない? もう大丈夫だから」


 僕はアキさんにそう告げるが


「夏樹くん逃げそうだから今日はこのまま繋いでおこうね」


 とアキさんは僕を離してくれない。けれど僕は流石に恥ずかしいのでそんなやり取りを続けながら結局は喫茶店まで手を繋いだまま着いてしまう。すると流石に着いて安心したのかアキさんは手を離してくれ


「早く入りましょう? 」


 と僕を喫茶店へと招き入れた。




 店員さんに飲み物を頼むとアキさんは


「さて、夏樹くん。なにかあったんでしょ? もう話してしまいましょう? さっきもポロッと振られたとかおまけとか言ってたしもう隠せないでしょ? 話してスッキリしよ? 」


 とアキさんは僕にそう告げてきた。確かにポロッと僕は興奮してしまい話してしまっていて、今更隠しても仕方ないことは分かっている。けれどこんなことを出会ったばかりのアキさんに話していいものか僕はまだ決断がつかなかった。だから


「話してもアキさんに良いことないよ? 僕の愚痴でしかないんだから」


 僕はもう一度だけ断ろうとそう話してみるが


「私にはなくても夏樹くんが元気になれるかもしれないよ? それに愚痴だとしても夏樹くんのことが少しでも知れるなら私に損なんてないし。気にせずどんとこいだよ? 」


 とアキさんは諦めようとしなかった。その言葉を受けた僕はアキさんに話してしまおうとそう決めてしまった。そして話してしまった。


 今井さんに2度に渡って振られたこと。

 今井さんが真也を多分好きなこと。

 今井さんの迷惑にならないように真也や今井さんのグループから抜けたこと。

 真也が心配して自分も抜けると言い出したこと。

 今井さんと仲の良い只野さんから真也が戻るなら戻ってきても良いと言われたこと。

 僕が真也のおまけみたいに考えられていたのではないということ。

 だから真也をどうやって抜けないようにするか悩んでいること。


 全て話し終えると僕は多分心にゆとりが出来てしまったのだろう。なぜアキさんに話したのだろうと今更考えていた。

 いや多分わかっていたんじゃないかなと。弱っていた僕は多分アキさんの優しさにやられてしまったんではないかなとそう思うのだった。


 アキさんは最後まで僕の目を見ながら優しい顔をして話を聞いてくれていた。そして僕が話し終わった後に


「えっと……話を聞いてたんだけど振られたことに対しては落ちこんでなさそうに聞こえたんだけどなんで? 」


 とまず振られたことについて聞かれてしまう。いや、それは僕にも理解できないことだったんだ。なぜか悲しみもやって来ないし。ただ心に空洞が空いたような感覚はある。そうなにもないという感じなんだ。


「僕にもよくわかんないんだ。振られてさ。なんだか心に空洞ができた感じでなにも感じないと言ったら良いのか……なにも感じないって感じなんだよね」


 僕は正直にそう答えた。


「そうか。ならそれは後回しにしておくね。まずは友達の方から話そ。私が思うにいくつか夏樹くんが深く考えすぎてる気がするのよね。まずひとつ、おまけってところ。だってさ、夏樹くん自身も今井さんだっけ? その人から離れたほうが良いってグループから離れたんだよね? ならさ、今井さんの友達だって夏樹くんを今井さんに近づけたくないって考えるんじゃない? だったらその娘の夏樹くんに対しての伝え方は悪かったと思うけど今井さんの好きな人を抜けさせないために仕方ないけど夏樹くんをまたグループに入れるって考えをしたとしてもおかしくないと思うんだよね。だってその子がより大事な人は夏樹くんじゃなく今井さんでしょ? 」


 確かに只野さんが大事なのは今井さんだった。そう考えると僕が戻るのは今井さんに迷惑になるからと敬遠しても仕方ない、確かにそうだなあ。


「それにまだ他のグループの人からなにか言われたわけじゃないでしょ? えっと只野さんだったよね? その子は例外として考えないといけないと思う」


 そうアキさんは僕にそう告げた。なんというかアキさんすごいなって思った。そして第3者目線で見てもらうとこんなにもわかることがあるんだって驚いてもいた。そして納得できることだった。


「次にね」


 と話そうとしたアキさんを遮るように店員さんが飲み物を運んできてくれた。そのため一旦話が中断することになったのだった。

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