第05話 ぴーんと来たから
教室を出て階段を通り靴箱を経て僕は校庭へと出ていった。外に出るとテニス部は今準備を始めているようだった。そしてそんな真也がいたのが分かった。
僕は知らず知らずのうちに真也をぼーっと眺めていると
「夏樹くーーん」
とテニスコートから叫んで僕を呼ぶアキさんがいた。いやちょっと待って。恥ずかしいわ。そんな僕の気持ちも知らずにアキさんはテニスコートから飛び出して僕の元までやって来た。
その様子にテニス部の女子生徒、そしてより一層男子生徒が騒ぎ出す。って僕これでテニス部で有名人? なんて思ってしまう。ちょっと勘弁してほしいなあ。
「夏樹くん、今から帰るの? 昨日も早かったもんね。帰宅部なんだ。……あれ? 夏樹くんなにかあった? 」
アキさんとは昨日初めて会って今日の昼に名前を知ったばかりの人。そんな人が僕の顔を見て何かあったかなんて気付くの? と僕は少し驚いてしまう。でも僕はそれを隠そうとしながら
「なんにもないよ。はい、テニスしておいで。僕なんか気にしないでさ」
と僕はそっぽを向いて顔を隠しながらアキさんにそう言うと
「うーん。誤魔化しても駄目だよ。私にはわかるんだから。昼と全然違うもん。そうだ、ちょっとここで待ってて。絶対待っててよ」
と僕に言い残してテニスコートに戻っていったアキさん。すると先生の元へと何かを話に言った後更衣室へと消えていった。というか僕は待たないといけないのか? 勝手に帰ったら……駄目かな? と言われたとおり待ちながらももう帰ってしまおうかと考えているとそう時間がかからずに更衣室からアキさんが出てきた。制服に着替え鞄まで持って。
「みんな用事ができたから今日は帰るね、また明日! 」
とテニス部の仲間達にそう告げて走って僕のもとまで戻ってきた。そんなアキさんの様子を見ていた仲間達。女子生徒は「キャー」という歓声、男子生徒は「えー」という悲鳴の声を上げていたようだった。
「おまたせ、一緒に帰ろ? そしてなにを溜めているかわからないけど私に話してみて」
そうアキさんは僕をまっすぐに見てそう伝えてきた。そんなアキさんを見ているとなんで知り合ったばかりなのにこの娘はそうも僕の様子がわかるのか、なんで一緒に帰ってまで話を聞いてくれようとしているのか僕にはさっぱりわからなかった。だから
「なんで僕をそこまで気にするの? なんで僕のことがわかるようなこと言ってるの? なんで? 」
と僕はアキさんに思わず聞いてしまう。すると
「うーん。昨日ね。ボールぶつけちゃって少しだけど言葉交わしたでしょ。大したことのない会話だったけどね。でもなんかね。ぴーんと来ちゃったの。夏樹くんと話したいって。関わりたいって。だから詳しく理由を聞かれても気になっているからかな? ってくらいしか答えはないかなあ。こんな気持ちじゃ夏樹くんに関わっちゃ駄目かな? 」
そうアキさんは言いながら先程の元気とは打って変わって少し弱々しい声で尋ねてきた。
「別に関わっちゃ駄目とかはないよ。たださ、不思議だったんだよ。昨日会ったばかりなのに顔見て様子がなんでわかるんだって。なんで僕に近づいてくるんだって。僕になんてなにもないよ? 同じ人に2回も振られちゃう人だよ? おまけ扱いされる人だよ? なんでって思うだろ? アキさんみたいな人が関わってくるっておかしいとしか思えないんだって」
思わず僕は言う必要がないことまで思わず口走ってしまう。するとアキさんはなぜか僕の手を取って手を繋いできた。女性と手を繋ぐなんてことをしたことのない僕は慌ててしまう。そんな僕を見て
「どう? 手を繋ぐと少し気持ちが変わらなかった? あれ? 私に魅力ないかなあ? ドキってしちゃうとかあると落ち着くかなあと思ったんだけど、まっいいか。このまま帰りましょ。あっそうだ、どこか喫茶店でも寄っていこうよ。私部活があるしそうめったに一緒に帰れることないからね。良いでしょ? 」
と手を繋いで落ち着かない僕にアキさんは笑って告げてきた。そして僕はそんな言葉をくれたアキさんを突き放せるほどの心の強さをどうも持ち合わせていなかったようだった。
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