第04話 釣り餌



 いきなり現れ慌ただしさを作り上げて去っていったアキさん。いきなりの出来事で僕と真也は少し困惑していた。それでもなんとか


「夏樹、お前アキちゃんと知り合いだったんだな」


 真也は僕に話しかけてきた。


「知っているもなにも昨日テニスボールをぶつけられただけだよ。でも真也に冷たかったな、同じテニス部なのに」


「アキちゃんって呼ばないで」とか言ってたし「用事なんてないわよ」とか突き放してたし……


「ああ、アキちゃんあまりテニス部の男と話さないんだよ。多分テニス部の男子から告白されまくってるのが原因だと思うけど」


 と真也はちょっと気まずそうにそう言った。ふむ、振った男ばかりか。確かにそれは話しづらいだろうなとは僕も思うな。


「……って話がそれたな」


「悪いけど真也、少し考えさせて。真也が抜けると僕はみんなから恨まれるよ、きっと。それも僕としては困るからさ」


 僕がそう伝えると真也も仕方なく


「分かったよ。なるべく早く答えだしてくれよ。やっぱり心配だからさ」


 真也はそう答えてくれた。とりあえず僕に考える時間をもらうということで一旦話を終わらせた。


 そして最後まで今井さんはずっとこちらを見続けたままだったことにも僕は気付いていた。




 放課後、真也が部活へ行くのを見送った後、僕が帰宅しようとしていたところに


「近藤くん、ちょっといい? 」


 と声がかけられた。僕が声の主に振り向くとその人は只野 冬美ただの ふゆみ、僕がいたグループの女性のひとりだ。ちなみに今井さんととても仲の良い関係だった。


「うん、なに? 只野さん」


 僕がそう答えると


「あのさ。真也くんがグループから抜けるって言ってるの止めてくれない? 真也くん、近藤くんのことが心配だってずっと言っててさ。だからどうしても真也くんが近藤くんと一緒にって言うなら近藤くんもこっちに戻ってきていいからさ」


 と只野さんは言ってきた。というかすごく引っかかる言葉だった。なんだよそれ。「僕が抜けても別に構わない」そう思われてもそれは良いんだよ。僕から抜けようとしたわけだし相手にされないのならそれはそれで仕方ない。


 でもね、それなら放っておけば良いんだよ。

 けれどなんだよ。「一緒なら戻ってきても良い? 」僕は真也を釣るための餌か何かか? 僕はおまけか?  


 僕は周りを見た。すると今井さんは只野さんをじっと見つめていた。その視線の見た僕は今井さんも知っているということなんだろうかとそんなことを感じてしまって僕は思わず


「はははっ、はっ」


 笑いが出てしまう。馬鹿なこと言うなって。そんな言葉を告げに来る人がいるグループに戻れるわけ無いだろ? 僕って真也が居ないと意味のない存在なのかよ? 僕は仲良く出来ていたと思っていた。でもそれは僕の勘違いだったらしい。ここまでだとは思っていなかった。


 流石にこれ以上話したくないと思った僕は


「ごめん。とりあえず真也は説得するから。けれど僕は戻らないよ」


 そう言って僕は鞄を持ち只野さんをもう見ようとせず教室から出ていったのだった。


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