第8話両親

 俺が、さなえちゃんに告白された場所はさなえちゃんの家だ。


 さなえちゃんの両親がいつも世話になっているからといって、晩御飯にどうかと 家に招いてくれた。

 でも、さなえちゃんの両親は、買い物で家にいなかった。なので、俺達はさなえちゃんの部屋でいた。

 

 さなえちゃんの両親は、俺のことをさなえちゃんから聞いているらしい。さなえちゃんは、大丈夫と、言ってくれている。

 


ガラガラ

 と、音がした。

 さなえちゃんの両親が帰ってきたのだ。ふたりで、玄関に向かうと、さなえちゃんの両親は笑顔で、挨拶してくれた。

 買い物の荷物を持つと、手伝いを申し出ると、


「ありがとう。助かるよ。じゃあこれをもってもらおうか。遼君が来ると聞いて、お母さんが調子にのって、たくさん買い物をするんもんだから。お父さんだけじゃ、重くて大変なんだ」


「分かりました。どこに置いたらいいですか?」


「助かったよ。じゃぁ、キッチンの方に置いておいてくれ」


「分かりました。置いてきます」


「遼君、ありがとうね」


 この会話は、俺にとってはとても嬉しかったんだ。他の人からしたら、普通の会話。

 でも、俺には、出来なかった。勝手だけど、そのときは認めてもらってないのに感じたんだ。

 親子の会話に。おじいちゃん達としているのと違う、親子の会話。


「どうしたの?泣いてるの?」


 さなえちゃんのお母さんに言われて、自分が泣いてるのを知った。


「すいません。なんだか、嬉しかったんです。俺には、親子の会話が出来なかったから」


「そうなのね。これからも、うちで良ければ来ていいのよ。さなえも喜ぶし、それに遼君とたくさん親子の会話をしたいわ」


「おう、それはいいな!いいだろ?さなえ、遼君」


「うん、そうしよう!遼さん!」


「いいんですか?」


「いいんだよ。血が繋がってなくても、親子になれるんだ」


「これからも、この家行きたいです」


「そうと決まれば、腕によりおかけて料理を作るわ。楽しみにしててね」


「お母さん、手伝います」


「遼さんは、座って待っててください。私が、手伝います」



 俺と、さなえちゃんのお父さんがリビングで座って、料理が出来るのを待っていた。



「遼君。君のことは、さなえから聞いているから安心しなさい。話を聞いている限り、遼君は、悪い人ではないのは分かっている。さなえは、まだ高校生だ。それに、まだ君は未成年だ。この先、ふたりが結婚したいというんだったら、さなえが高校を卒業したらしなさい。さなえが高校卒業しても一緒に生きるんだ。さなえを絶対幸せにしなさい。困ったことがあれば、私達が、協力するから。遼君は、一人じゃないんだ。遼君のおじいさんとおばあさんや私達、そして、さなえがいるんだ。自分ばかり責めることはしてはいけないよ。いいね?」


「ありがとうございます。さなえちゃんを絶対幸せにします」


「よし、いい返事だ」


「ご飯、できたわよ」


 ご飯を食べた。いつもよりも美味しいと思った。そして、楽しかった。

 朝の日差しで、目が覚めた。見知らぬ、天井。どうやら、昨日、ご飯を食べた後で寝てしまったようだ。

 ノックの音がした。


「遼さん、おはようございます。起きてますか?朝ごはん、一緒に食べませんか?」


「起きてます。今、行きます」


「遼君、おはよう。晩御飯食べた後で、寝ていたみたいだから、お父さんが客間に運んでくれたのよ。お家には、連絡しているから安心して大丈夫よ」


「すみません。お世話になりました」


「いいのよ。さぁ、ご飯が温いうちに食べましょ」


「いただきます。さなえちゃんって今日学校あるの?」


「ありますよ。でも、家から学校まで近いのでゆっくりで大丈夫なんです。それに、遼さんと一緒にご飯が食べたいから」


「うん、ありがとう」


「おはよう。遼君、さなえ。朝から、仲が良いな」


 ふたりで、照れた。


 さなえちゃんが、学校に行く時間になったので、俺も家に帰ることにした。

 さなえちゃんのお父さんがさなえちゃんと俺を車で乗せてくれることになった。

 さなえちゃんの通っている学校に着いた。車からお見送りをしてから、俺の家に行った。

 

 俺の家は、喫茶店と家が一緒になっている。車を駐車場に停めて、さなえちゃんのお父さんがじいちゃん達と話をしたいと言って一緒に家の中に入った。



「いきなり、こんな朝早くからすみません」


「いいですよ。孫がお世話になりましたから。お話というと」


「遼、昨日、風呂に入らずに寝たてしまったそうじゃなのかい。湯を沸かしているから風呂に入ってきなさい」


「ありがとう。ばあちゃん。うん、分かった。おじさん、お世話になりました。ありがとうございます」


「遼君、昨日はこちらこそありがとう。とても楽しかったよ。お風呂で温まっておいで」


 その言葉を聞いて、会釈してその場を後にした。

 これは、後から聞いた話だ。

 じいちゃんは、俺のことについて、詳しく話した。


「孫の遼には、親がいません。遼の母親である私の娘は、遼と同じく、体が弱く遼を産んでからすぐに死にました。遼の父親は、それがきっかけで遼を育てることが出来なくなり、私達の元に遼をおいて、それから音信不通になりました。なので、私達が遼の親代わりをしながら、元々営んでいた喫茶店をしています。遼は、医者に、あと、一年も生きれないと言われた身です。私達としたら、遼に好きな人ができたらその人と一緒に仲良く暮らしてほしいんです。その好きな人がさなえさんとならいいと思うんです」


 さなえさんのお父さんが、さなえさんと俺のこれからのことについて、自分達は協力していくことを話した。


「私は、遼君から話を聞いています。遼君の身体のことや娘のことを、どう思っているかを。全てを理解することは、今すぐにはできませんが、理解していきたいと思います。遼君に、我が家で初めて会ったときは、買い物から帰ってきたところです。遼君は、自分から荷物を持つのを手伝ってくれました」


 そうして、さなえちゃんのお父さんが俺としたやり取りのことを話した。


「遼君が、親子の会話が自分には出来なかったと言って、泣いてました。私達にとってはごく普通の当たり前の話でも、彼にとっては、出来なかったこと。そして彼の中には、なかったんです。私は、『彼に血の繋がりがなくても親子になれるんだ』と言いました。私も遼君の家族になりたいと心から思いました。私達も遼君のことを何があっても協力してきます。さなえ自身にも、何かあったときの覚悟はしていると聞いているのでご安心してください」


「遼のことをそこまで思っていただいて嬉しく思います。私達は、遼の親代わりをしてきましたが、遼と親子の会話は出来ていないと先程のお話で分かりました。なので、遼の親になって、あげてください。そして、遼をお願いします」


 俺にとって、これが両親ができた瞬間だったのだ。

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