Step2 保育園を選びましょう

 前途多難

 絶対にここが良い!と希望していた保育園が、満員及び希望者多数で入園できないのである。

 どうしても入れて!と言われても無理だからな!絶対に無理だからな!!


「優りの木保育園、入れないんだって~どうしようカズさん、あの保育園が良かったのに~」

「へえ~、人気なんだね」


 夜、帰宅した旦那さんこと和さんに相談してみた。恨めがましく優りの木保育園のパンフレットを凝視していると、皿洗いを終えたカズさんが手を拭きながらやって来て、ヒロミが手にするパンフレットを覗き込んだ。


「優りの木保育園ね、住宅地の真中にあるから人気なんだって。他にも、近くの病院で働いている人とか、学校の人とかも入りたいんだって」

「ふーん……あ、この保育園、夜遅くまでやっているんだ」

「マジ?」

「ほら、開園時間が朝の6時から20時までだ。そうか、夜勤の看護師さんや、遅くなる学校の先生たちにとって、朝早くから夜遅くまで子供を預けられる保育園はありがたいよね」


 カズさんが感心したようにパンフレットを眺める。

 優りの木保育園では朝の6~7時まで、夜の18~20時まで時間外保育をやっている。保育園の保育時間は、8~11時間、時間帯にして7~18時までの11時間が基本。と、子育て支援センターでもらった入園案内で説明してある。


「優りの木保育園……時間外保育だけじゃなく、日曜祝日の休日保育、病気の治りかけの子供を預かってくれる看護師さんも配置済み。年中さん以上になると、みんなで鼓笛隊を結成してマーチングバンドの練習に励みます」

「そうなの! マーチングの衣装も凄く可愛いんだよ! りぃちゃんがこの衣装を着るとこ、カズさんも見たいよね!」

「でも、これだけサービスが充実しているなら希望者は多いのも頷けるよね。保育園の入園は、優先度が高い順……だったよね、うちの優先度はどれぐらいだろう?」


 ここで、柴田家の現状を整理しよう。住むのは、電車で2時間揺られれば都心に出られる関東都市。

 自宅は住宅地にある築15年の一戸建て。元はカズさんの父が建てた家だったが、りぃちゃんが生まれる前にカズさんの母親の地元へと引っ込んでしまったので家族3人暮らしだ。ローンも支払い済みである。

 カズさん(33歳)は郊外の工場務めの正社員、自動車通勤。ヒロミはアパレル、現在は電車で二駅の商業施設のテナントに入っている店舗に籍を置いて育児休業中。正社員。

 カズさんとの出会いは、お店のお客様だったカズさんのお母さんと仲良くなり意気投合。そこから紹介され……って、そこはどうでもいい。

 2人とも正社員で家持ちと、大分恵まれているだろう。ヒロミ本人も自覚している。義両親との関係も良好で、特に姑とは実母以上に仲が良く、毎日メッセージアプリでやり取りをしている。年上の理系男子カズさんも、服装のセンスが壊滅的にダサく流行りに疎いのが玉に瑕であるが良い旦那様だ。

 この現状で、柴田家長女のりぃちゃんの保育園入園に係る保育優先度を数値化すると……。

 カズさんは正社員、フルタイム勤務。週休2日で土日休み。勤務時間がちょっとかかる。

 ヒロミも正社員、シフト制ではあるが1日の就労時間は6~7時間(育休前)。週休2日だが、アパレルと言う職種上、土日は出勤する必要がある。復帰してもバリバリで働きたいので、現状時短勤務は考えていない。


「ボクとヒロミさんがフルタイム週休2日だから、それぞれ8点ずつで16点。プラス、家庭状況の加点は、ヒロミさんが育休からの復帰を控えているからプラス1点、市内に祖父母の親戚は……ボクの親は母親の地元に引っ込んでいないし、ヒロミさんのご両親は都内だからいない。プラス4点。以上」


合計:21点


「え、それしか加点ないの?」

「でも、育休復帰の基本点数が17点から高い方じゃないかな。他の加点項目は、「希望施設に既にきょうだいが入園している場合」、「3人以上の児童を扶養している場合」、「市民税非課税世帯の場合」、「ひとり親家庭の場合」、「虐待、ネグレクト等の緊急性がある場合」……」


 きょうだいで同じ施設に入園を希望する場合、つまりきょうだいが多い場合は優先。

 市民税非課税世帯、ひとり親家庭の場合、つまり所得が低い場合は優先。

 虐待、ネグレクトの危険があり、親元ではなく保育園に入園させなければ児童の身に危険があると判断された場合は、優先度の点数なんて関係なく真っ先に入園させなければならない事になる。

 他、基本となる両親の就労時間も、長ければ長いほど点数が高くなるためそれぞれ最大10点になる家庭もあるようだ。柴田家は、親族不在とヒロミの育児休業復帰の加点は入るが、合計点数は平均値である。

 高くも低くもないので、現在、優りの木保育園に入園したいと待機している他の家庭とどっこいどっこいなのだ。もし万が一、優りの木保育園の0歳児で退園者が出たとしても、その中で点数が頭一つ飛び抜けた家庭が入園する事になる。子育て支援センターの窓口で、ヤナギが淡々と説明していた。


「まあ、いいじゃない。他にも良さそうな保育園もあるみたいだし、今度の土曜日にでもいくつか見学に行ってみようよ。ちょっと遠くても、ボクが自動車通勤だから送迎もできるよ」

「うん……」


 未練たらたら。

 優りの木保育園のパンフレットを閉じて、次に自宅から近い保育園やカズさんの通勤ルート上にある保育園をいくつかピックアップしていく。

 保育園は月~土曜日までやっている。カズさんの休みの日と合わせて、次の土曜日にいくつか見学の予定を入れた。

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