ホカツ!

中村 繚

Step1 市役所へ相談に行きましょう

 私! 柴田ヒロミ!

 結婚4年目、現在育休中の26歳一児のママでっす!

 家族は、旦那さんのカズさんともうすぐ8か月になる愛娘のりぃちゃん!

 最近のマイブームは、りぃちゃんの寝相アート! りぃちゃんは寝るのが大好き♡ りぃちゃんのかわいいかわいい寝相にインスタのフォロワーさんからたっくさんイイネをもらっちゃった(⋈◍>◡<◍)。✧♡

 さすがうちのかわいい娘! みんなのアイドルだね~✨

 とってもとっても可愛いりぃちゃは現在離乳食の真っ最中! りぃちゃんはカボチャが好きだけどお肉があんまり好きじゃないみたい↷↷↷

 ダメだよ、好き嫌いしちゃ。ママ心配になっちゃうよ(+o+)

 りぃちゃんも秋には1歳か~早いね~ママもそろそろ育休から復帰しないと! りぃちゃん! 保育園だよ!

 と、保育園の話題を出したらフォロワーさんからコメントがきたの。「早く保活の準備をしないと、希望の保育園に入れませんよ」って……う~ん、育休明けるにまだ時間あるし、そんなに焦らなくてもいいかな~って思ってたんだけど。。。

 でも、入りたい保育園ならあるよ! 家の近くにある保育園!

 外にある遊具がとにかくかわいいの♡♡♡ 新しいから建物もキレイだし、見かける先生たちも優しそうな人ばっかり! りぃちゃん、この保育園に入ろうね!

 一応、早めの早めの行動で保育園に「入りたいです!」って連絡したら、入園の申し込みは市役所の子育て支援センターにするんだって。保育園に申し込むんじゃないんだ~(*^▽^*)ヘエー

 なので、りぃちゃんを連れて来ちゃいました! 市役所の子育て支援センター!!

 りぃちゃんがお腹にいた頃に相談に来た依頼かな~保育園の受付もしているんだ、知らなかった!

 育休が9月までだから8月までには入園したいね、りぃちゃん♡


「すいません、保育園に入りたいんですど~」

「無理です」

「え」




***




 意気揚々と、市役所に設置されている子育て支援センターへ保育園の入園申請へとやって来た柴田シバタ妃呂海ヒロミだったが、窓口職員に一刀両断されて思わずマヌケな声が出てしまった。


「……え? 何で無理なんですか?」

「お客様が希望されているりの木保育園ですが、今年4月の時点で0歳児の定員がオーバーしております。なので、今年度中の入園は無理ですし他にも待っている方がいらっしゃいます」

「じゃあ、娘が1歳になってからなら。0歳がオーバーしていても、1歳は空いていますか?」

「保育園の入園クラスは、小学生の学年ごとにクラス分けがされます。お子様が1歳の誕生日を迎えたとしても入園するのは0歳児クラスになります。年度の4月1日時点で年齢が決まりますので。優りの木保育園以外の施設には若干名の空きはありますが、ご希望されている8月入園の頃にはそちらの定員も埋まっている可能性が高いです」


 ヒロミを担当した職員、首から下げたネームプレートには「柳」と書かれているまだ若い女性職員は、淡々と現状を説明して一枚のパンフレットを差し出した。市内にある保育園一覧とその地図が載ったパンフレットだ。


「それなら、早めに申し込んでおけば8月にはどこか保育園に入れるんですよね?」

「いいえ、保育園の入園申請は早い者勝ちではありません。それぞれのご家庭の現状を数値化し、その数値が高い人、イコール保育園への入園優先度が高いご家庭から入園する事になっております」

「数値?」

「保護者様の就労時間や扶養しているお子様の人数、育児休業からの復帰やお子様の保育ができる親類の方の有無によって点数が振り分けられています。こちらの申請書類の中で詳しく説明していますので、ご確認ください」

「はい」

「次に一番早い保育園の入園申請は、6月1日からとなっております。締め切りは12日までとなっておりますが」

「あ、ちょっと考えてみます」

「承知しました。サンプルとして、申請書一式をお渡ししておきます。あちらのコーナーに、市内の保育園のパンフレットがありますので、ご自由にお取りください」

「はい……」


 ヤナギから入園案内を手渡されたヒロミだったが、最初のテンションなど遥か彼方へと消え去ってしまった。「いたいのいたいの飛んで行け~」でも、こんなに完璧に飛んでいった事がない。

 抱っこ紐で眠っているりぃちゃんを抱き直し、保育園のパンフレットコーナーの前へ行くが、入園を希望していた優りの木保育園の物を真っ先に手に取ってしまう。綺麗な園舎、可愛い園庭の遊具たち。

 1年間の行事予定も載っている。大きくなったりぃちゃんがお遊戯会で可愛く踊るのを、楽しみにしていたのに……優りの木保育園、自宅から一番近い保育園。ヒロミの通勤ルート上にあるたため通園の便も良い。

 近所には大きな総合病院があるからりぃちゃんの身に何かあった時にも安心だし、将来はこれまた近所の小学校に通うから保育園の友達と一緒の進学できるはずだったのに。

 一応、それなりに考えてはいた。優りの木保育園、入園できたら素敵な保育園生活が待っているはずだったのに……。

優りの木保育園

定員:140名


 ん?


「すいません! 定員が140人もいるのに、ホンっトに空いてないんですか!?」

「空いてません」

「何で?!」

「現在の優りの木保育園の在籍児童数は150名です。オーバーしています。優りの木保育園が周辺は子育て世帯向けの住宅地なので、どうしても近隣の方の入園が集中します。それだけではなく、隣接する病院や学校にお勤めの方も、勤務先の近くという理由で入園を希望されます。建てたばかりなので、綺麗だから……という理由もあります。現状で、優りの木保育園だけを希望されるのならば今年度中の入園は無理でしょう。かと言って、来年度4月からをご希望されても入園できる可能性は高くはありません。希望者が多すぎるんです……全くもう!」


 かけている眼鏡でヤナギの表情は分り難いが、優りの木保育園へ入園したいという保護者のために随分と苦労している事だけはしっかりと伝わった。

 考える事はみな同じ。

 とりあえず、自宅周辺からさほど遠くない保育園のパンフレットを手にして、ヒロミはりぃちゃんと共に帰路に着いたのだった。


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