君の心を
「こんなもの! なかったらよかったのに!! こんなことなら…こんなことな
ら!!! ああああああああああああああああああああああああ
あ!!!!!!!」
なんでだ。
なんで、こんなことに。
俺は、負けた。
あんな怪獣に負けてしまった。
気付けば、俺はどこかに転送されてしまっていた。
いつもの河原でも、あの学校の体育館でもない。
よく分からない、住宅街のようなところ。近くには学校があり、放課後なのか学
ランを着た生徒たちが門から出てくる。
「なんだよ、ここ…」
俺は戸惑った。
「お前みてえなゴミムシ野郎に一回でも勝ったのが嬉しかったぜ!! いーっひ
ひひひ!!」
急に、叫び声のようなものが聞こえて、そちらを見やると、二人の生徒が何やら揉
めていた。
「どうでちゅかぁ~? 自分より下に見ていた人間に負けた気分は。俺には分かん
ないなあ。油断して負けて、ママとパパに泣きつきたい男の気持ちなんてなぁ~。
うっ、ひひひっひひひひ!! …があっ!!!」
喋っていない生徒が、怒ったように、相手の腹を蹴飛ばした。
しかし。
「あぁぁぁ、いだいっ! いだいよぉぉ!!! ままぁぁぁ!! …お前なん
か! ムカついたら暴力で解決するしかできないゴミ人間なんだよ!! お前みた
いな人間は誰にも信用されなくて死ぬんだよ!!」
みっともなく喚き散らす男子が去ってしまった後も、どこか落ち込んでいるようだっ
た。
『継承』
何の脈絡もなく、頭の中に浮かんだ単語。
メモに書かれたその単語に、俺は強く惹かれていた。
彼はどこかへ歩き出した。
俺は、彼が気になっていた。
前に会ったことがあるような気がしたからだ。
家に帰るのかもしれない。その前には、必ず引き留めて、この『継承』をしてや
ろうと思った。
『継承』してから五年後に発動する『異能の力』。『神』は、科学的根拠はない
と言っていたが、その顔は少し嘘を含んでいるようにも見えたが、気のせいだろう
か。
そして。
「や、やあ。君とお話がしたくて」
しばらく付きまとった末に、彼が寄り道した場所で、話すことになった。
「そうだよ。俺は『神』だ」
彼の学校ではない、放課後の時間帯に生徒も、教師すらいないような学校の屋
上。おそらく廃校舎の屋上で、俺は少年に『神』を自称し、手短にもらったメモの
思念についての内容を説明した。
少年は、黙って聞いていた。俺の言葉など、ちゃんと聞いているのかも分からない
ほど、打ちひしがれていた。
聞けば、今までの定期テストで学年トップを取り続けてたのに、負けてしまっ
た。一回の負けがこんなに大きいとは、と絶望しているそうだが。
「その思念は、本当に届くんですか?」
話はちゃんと聞いていたみたいだ。
俺は頷く。
「君は、どうなりたいんだ?」
そして、俺は問うた。
「俺は、醜くなりたい。そして誰よりも弱くて、誰よりも努力しなければ誰に
も勝てないような雑魚になりたい。そして、そんな理不尽に負けないくらい打たれ
強くなりたい」
「はあ?」
意味が分からなかった。
「本当の努力を、俺に教えてください」
「本当の、努力、だと…?」
「はい」
こいつにしよう、と思った。
要するに、弱者の気持ちを知りたい、みたいなことだろ。
クソエリートが。
本当の努力を教えてください、だと?
強い思念は、その通りになる。
それならいっそ、弱くなってしまえ。醜くなってしまえ。誰にも勝てない雑魚にな
ってしまえ。
見せてもらった成績表。乱立する一桁の順位。その厚紙に書かれた名前。
中村英雄。
英雄と書いてヒデオ。
バカが。お前はこれから、弱く醜い雑魚になるんだよ。
「…いいよ」
俺は、ポケットから果物ナイフを取り出した。
「いいかい? 今から言うこと、よく聞いてね?」
「…はい」
「君は、今日の悔しさをずっと忘れずにするんだ。弱くなりたい、醜くなりたい
という君の決意も。そして…」
忘れられたら困るからな。
そして俺は、五年後のこいつに向けて、気付けるか気付けないか分からない嫌味
を、浴びせてやった。
「君の心を『巣食う』のは君自身だ」
こんなやつ、メモも渡さないし、光線銃なんてやるか。
せいぜいまぐれで勝ったあの怪獣みたいに、イジメられてしまえ。
俺の血液を、切り開いた彼の傷口に、滑り込ませた。
終末の週末—THE WEEKEND OF THE END― ヒラメキカガヤ @s18ab082
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