第32話 知らねえくせに
「おい」
俺は、問い詰めた。
間中と同じバイト先にいる三田村祐樹に。同じ生徒会の仲間に。
間中が意識不明の重体になったことを聞いたのは、夏休みが終わる四日前。階段
から転げ落ちた。
誰かが突き落とした、というのは決めつけではない。
証拠が残っている。SNSで投稿された動画。暗い夜の闇に隠れた人間二人。そ
のうちの一人が、もう片方の人間に手を伸ばし、落とした。その後、突き落とした
犯人は焦ったのか、挙動不審に階段を素早く駆け下りたところでその動画は終わ
る。
見知らぬ他者を平気で傷つけるSNSが、それが事故ではなく事件だという現実
を俺たちに突き付ける。俺と黒音は、ひどく憤慨していた。
それでも、今まで同じ生徒会の人間として過ごした仲間を疑う。三田村がやっ
た、と心のどこかで決めつけてしまっている自分にがっかりしてしまった。
「三田村、確か間中と同じバイト先だったよな?」
二学期の教室に、緊迫した空気が張り詰める。
朝っぱらから他のクラスに乗り込んでくるやつを見たら、いくら顔が知れた生徒
会長でも、それはそうなるか。あらかじめ覚悟して入ったのだが、やはり四方から
刺さる視線が痛い。
わざわざ呼び出して話す、なんて余裕は俺にはなかった。
「ああ、それがどうしたんだ?」
三田村は、ニヤニヤと顔を歪ませて笑った。
知っている。こいつは、何かを知っている、と俺は確信した。
「あいつ、誰に落とされたんだ?」
単刀直入に、問うた。
すると、目の前の同級生は、急に身体をうずめて小刻みに震えだした。
溢れ出る息。くくっと漏れる声。
「ははははは!!」
うずめた身体を持ち上げて、次は大きな声で、笑った。
「なんでヒデがあんなやつの心配すんだよ!? 笑えるぜ! 朝っぱらから何の
冗談だよ! っはははははは!!」
俺は、拳を固めた。
「間中って、階段から転げ落ちた人でしょ?」
「いっつも根暗そうにしてて何考えてるか分からない子だよね」
「あの気色悪い陰キャ知ってるやつがすげえよ」
俺の詰問を冗談だと勘違いする周りが、俺の怒りを後押しした。
「っつーか俺知らねえよ!! あんなバイトでもポンコツで役立たずのくせに店
長に媚びうるやつ。クズはいっぺん転んで反省しろっつの、ぐぁっ!?」
三田村の胸倉を掴み、そのまま壁にぶつけた。
「おいっ、おめえ何すんだ…」
「お前がやったんだろ!?」
食い気味に畳みかける。何かを訴え続けなければ、俺の気は収まりそうになかっ
た。
「あいつのこと、何にも知らねえくせに、傷つけんじゃねえよ!!」
周囲も、胸倉を掴まれている三田村も、呆気にとられていた。
「がっ…!」
三田村は、お返しに俺を蹴飛ばした。
「はっ! お前、友達の趣味変わったな。生徒会長で周りからチヤホヤされてる
くせに、あんな気持ちわりいやつとつるんでんのかよ! 相変わらず偽善者みてえ
なことしやがって、クソだせえ!! なんで俺じゃなくて、こんなクソが生徒会長
なんだよ…チクショー…」
「おーい、そろそろチャイムなるぞー。友達とは昼休みにじゃれ合えー」
事態を知らない教師が入室したのを合図に、俺は教室を去った。
激怒したのはお互い様か、去り際にも、俺は三田村と睨み合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます