第25話 思念

 「君は、『思念具現化因子』を知っているか?」

 

「思念…、なんでしょう?」


 家の冷蔵庫からコーラを取り出しながら、先週のことを思い出す。


 長ったらしい固有名詞を一回で聞き取れる人間は、世界にどれぐらいいるだろう

か。


 どうやら、『週末怪獣』の秘密が、ようやく分かった。


読者も作者も、ここまでお疲れさまでした。


 「なんか言った?」


 「いや、なんでも…」


 思いが声に出ていたらしい。首をかしげる弟をなんとか誤魔化して自分の部屋へ戻

った。


 俺だって、一応受験生だから勉強するのだ。


 生徒会の連中、そして黒音と間中は推薦入試で進学するらしいから、どこかのんび

りしてるみたいだけど。






 思念具現化因子。


 それによる症状を『思念具現因子感染症』と称する。

 この間絡まれた中学生の父親が生み出したといわれる物質。


 その物質が、俺の身体に入り込んで、週末は俺をあの姿に変えてしまう。



 その例の因子は、読んで字のごとく、人の思念を具現化してしまうもの。端的に

言えば、自分の望む存在になれる、ということだ。


 ただ、その思念とやらが、脳裏に焼き付くほどに強くなければ、それは実現しな

いらしい。だから、過去の俺は、それほどまでにあんな存在になりたかったという

わけだ。



 当時の俺は中学生で、思春期という多感な時期だからこそ、因子が反応するまで

の感情を生み出し、肉体を変形させることができた。


 神を名乗る男が俺を狙った理由は、俺が中学生だったから。いくらでもいる中学生の中で俺は選ばれた。幸か不幸か。いや不幸一択か。


 因子が体内に侵入すると五年間の潜伏期間を経て、発症すれば症状はおよそ一年

間続き、やがてその因子は自然に消滅する。


 神を名乗る男は、『継承』と称して、自分の血を俺の傷口に移した。


 しかし、異次元からの魔法めいたものだと思っていた超常現象が専門的な知識を持つ人間から科学的なものだと知らされただけで、少しは安心した。


 人間である今のうちに、一分一秒でも勉強しておくか。


 コーラの残りを飲み干した俺は、参考書を開きながら、ノートに数式を書き始め

た。


 科目を変えながら、八時間は夕食を忘れて机にかじりついた。



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