第21話 弱い
週末。
俺は、平日なんかよりも、比べ物にならないくらいに嫌いだった。
『ヒーロー』が襲いに来るから、とか、有名な配信者として活動中にアンチに叩
かれるから、でもない。
あの二人と比べるには、俺の悩みはあまりに小さすぎる。
俺のバイト先は、人通りの多い場所に位置するカフェで、毎週末は混沌としてい
る。
客は店外からあふれ出してしまいそうに混雑し、店員側も静止する余裕などなく目
まぐるしくドリンクを入れたりオーブンで食べ物を解凍する。
「間中、遅え!」
「はいっ! すいません」
今、俺の振る舞いに檄を飛ばしてきた店長は、ほとんど休みなく出勤している。一
日の出勤時間はいつも八時間以上。
彼はきっと、生活のために必死で働いているのだろう。
自分を磨くために働き始めた俺は、ここに来たことを後悔しながら、それを店長
に言えないままずるずると、半ば仕方なく働いている。
週三日で一日三時間の勤務。シフト入力は、店長室のパソコンだけで、常に座って
いる店長に椅子をどいてもらうのは、毎度忍びない気持ちになる。
接客の時以外は基本的に人当たりのいい人で、「間中くん、さっさと打っちゃいな
よ」と、逆に声をかけてくれる時も何度かあった。
俺は、その優しさに応えることができず、相変わらず週三回の一日三時間勤務を入力
した。特別な勉強も、部活も、生徒会も、その他の活動もしていないのに。
俺は、怠け者だ。わかっていても、自由な時間が欲しくなる。だから、いつまで
経ってもヒデ君と黒音ちゃんには届かない。
「間中って、普通に頭わりいよな」
休憩時間も、心休まるときはない。
多忙の後の休憩に、嘲笑の苦難に耐え忍ぶ。
十七時を回ると、ようやく少しだけ休憩の時間が来る。この店のバイトは二時間
おきに十五分の休憩があり、あまり働かない俺にも、休憩がある。
その休憩時間で、悪魔のような男と一緒になることが多い。
三田村。
平日には同じ制服を着る同級生。
週末にもこうして同じ服を着るのは勘弁してほしいが、それを今言ってもしょうが
ないから深く考えないようにしている。
「さっきも店長に怒られてたし、お前なんで働いてんの?」
「いや…」
なんでと言われましても、と返してやりたいのに、言葉が出なかった。
生徒会役員。
ヒデ君とよく一緒に歩いている。背が高くガタイがいい。ブレザーでも店のポロ
シャツでも隆々とした筋肉がたくましい。
積極的で行動力があり、簡単に言えば体育会系の彼は、弱い者を嗤う。ここで言
う弱い者とは、運動神経が悪くルックスも女子受けしないような、簡単に言えばイ
ンドア派で内向的な人間。それに該当するのなら先輩でも後輩でもお構いなしに侮
辱する。
俺からすれば、なんでこんな勢いと暴力だけで問題を解決しようとするやつから
卑下されなければいけないのだろう、と強く思う。
しかし、俺は屈している。
殴り合いでも言い合いでも、体格と気の強さに、俺は圧倒されている。負けが見
えているのだ。
それは、傍から見てもよくわかる。だから…
「こいつマジで気持ち悪りいだろ?」
「はい。ヤバいっすよね」
いま一緒に休憩している後輩も、三田村の味方だ。
ヒデ君からは、よく「優しい」と言われる俺だが、優しさなんて裏を返せばそれは「弱い」ということだ。本当に必要なのは強い人間。才能のある人間。
生徒会長のヒデ君や有名配信者の黒音ちゃん、腕力のある三田村のような強者
が、人の信頼を集める。
俺みたいに、何も持たない半端な人間は、そういうやつらの引き立て役で、都合のいい時にもてあそばれるオモチャだ。
あの二人にも、ほかの誰にも、俺の気持ちなんか分からない。
休憩時間が終わる五分前、彼らの嘲笑から逃げるように仕事へ戻っていった。
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