第20話 メスザル
放課後。
駅前のファストフード店にて。
昨日とは打って変わって強気な鮎川黒音が、さっそく俺に文句を言ってきた。
「あんたのせいで私、有名人になったんですけど」
ピンク色の可愛らしいケースをまとったスマホの画面を俺に突き付ける。
『鮎川ぁ!!』
電子機器越しの少し濁った音声が、昨日闘ったばかりの場所を映し出しながら再生される。どうやら昨日のやり取りも誰かに撮られて勝手にアップされたみたいだ。
いいじゃないか、有名人。お前の望む通りじゃないか、なんて無神経なことはさ
すがに言わないでおいた。
「まあ、あんたのおかげでいろいろ吹っ切れたから、控えめに言っとくけど」
黒髪の彼女は、眉毛を覆い隠す前髪を右手の人差し指と中指で挟み、それを上から下に滑らせる動作を繰り返しながら、照れくさそうに顔を下に傾ける。
「まあまあ、よかったんじゃないの?」
間中が口をはさむ。
「ヒデ君は、クロートちゃんのために言ったんだから。ちなみに俺も、ヒデ君と同
じくらい良いこと言え…」
「その名前で呼ぶなっつってんだろ間抜け」
「間抜けじゃなくて間中です。なんつて…いでぇ!!」
間中の片耳を掴み、食パンのそれをちぎる要領で強くねじる。
「てめえ〇すぞ?」
「ひゃい、すみません…」
俺のフォローをしようとしたのに余計なことを口走り自爆する間中。
真っ当な理由で間中を痛めつけている黒音も、どこか楽しそうな顔をしていた。そ
の光景が、なんだか微笑ましく、こういうバカバカしいやり取りも悪くないなと思
った。
「話し戻すけど、あんたのせいで絡まれてんのよね、クラスのうるさいサルみたい
なやつらに」
「活発な連中にはいちいち毒を混ぜるよな」
「で、その中でもあのメスザルがまじでうっさい。自分のことを姫様だかヒロイ
ンだか思ってるか知らないけど自分はみんなに可愛がられて当然みたいな心意気が
見え見えで気色悪いし、気に入った男にべたべたしたり自分の嫌いな相手にもわざと
らしくニヤニヤしながら近寄るところも不愉快なのよね」
視線は、俺の方へ集中する。
「なんで俺の方ばっかり見るんだよ?」
「あんたが一番わかってるでしょ?」
「佳也子か」
「正解。今ので分かったなんて、あんた最低ね」
「お前が言い出したんだろうが」
相変わらずこの女は、と俺はため息を吐いた。
「あんたが私の教室まで来たこと、あいつ今でも引きずってんだから。あんたの方
で何とかしなさいよ?」
「なんで俺が何とかしなきゃいけねえんだよ…いでえ!!」
「てめえのせいであの女に因縁持たれてんだからてめえが何とかしろ」
「ひゃい、すみません。がんばります」
黒髪の怒りは、佳也子のと同じくらい怖かった。
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