第7話 泥臭い

 週末怪獣になってから早くも二カ月が経つ。

 

六月。


 湿気の多い時期。


 グラウンドで活動するサッカー部や野球部の生徒たちは、雨による練習中止を期

待する。


 一方で、降りしきる雨の中でも、お構いなしに追われている怪獣。


 「くそったれがあぁぁ!」


 雨のせいで悪くなった視界。このまま追いかけっこをしているのはなかなか神経を使う。


 俺たちの追いかけっこにも中止があればいいのにな、と自分の運命を改めて呪い

ながら後ろをチラと振り返る。


 そこで、気付いた。


 ヒーローも、神経使ってんじゃね? と。


 気付いた俺は、今日は少しだけ勝負してみようと思い、賭けに出た。


 ここ最近わかったことだが、ヒーローは動体視力や攻撃速度は速いものの、走る

スピードや長距離を走るスタミナがない。


 おそらく奴は、その辺の恩恵を受けていないのだろう。きっと、ヒーロー化して

強化されるのは、パンチや回避など、一秒にも満たないほど極めて瞬間的なスピー

ド。


 それなら。


 「くっ…」


 俺はシンプルに、ペースを上げた。


 正直、俺の方だってきつい。怪獣化してもちょっと頑丈になるだけで移動に関して

は人間時と何も変わらない。


 雨も降っているし、なんだか泥臭い試合になりそうだ。


 ただ、ヒーロー側からしたら、こんな試合すぐに終わらせたいはずで、光線銃を使いたいはずだ。


 だから、俺は、適当に目についたビルの外階段を上り、追うあいつもある程度高

いところまで登らせてから。


 「おりゃああ!」


 飛び降りた。


 ちょっと硬いなら、これくらい…


 「いっ…た!」


 少し頑丈になったとはいえ、さすがに十メートルの高さから落ちたら痛い。


 人間状態なら、骨が折れてるか最悪の場合…。


 「わあっ!」


 「なんだよっ!」


 「きゃあ!」


 「やっぱ化け物だ…」


 「キモい…」


 突然落ちてきた『怪獣』にギャラリーは驚く。


 「キモい」は傷つくからやめろ。


 着地してから、光線銃を警戒して階段を見上げると、ヒーローは迷っているような顔をしていた。


 たぶん、ビビっていた。


 そして、奴はハッと我に返り、登ってきた階段を急いで降りる。その間に、俺はす

っかり距離を離し、角という角を曲がり奴の視界を遮りながら、人通りのない空地

の障害物へ隠れて残りの数時間をやり過ごし…


 ついに、逃げ切った!


 週末怪獣をはじめて二カ月。


 俺は初めて、あいつから撒くことが出来たのだった!


 嬉しかった。


 今回は、光線銃を浴びることなく、あの場所へと転移された。暗転しないままの

意識で、俺が『継承』された地に足を付ける。


 この感動を、泥臭い試合に勝利した喜びを、誰かに共有したくてたまらなかった。


 とりあえず、ポケットからスマホを取り出して、間中に電話を掛けた。




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