第6話 その代わり

 で、前と同じ体育館裏。

 

何かを思い出したように、間中は構えるように身震いする。そこまで怯えなくて

も、と思う。俺だって罪悪感が蘇る場所になったのだから、おあいこだ。せめて何

もなかったように飄々としてくれた方がお互い救われるだろうに。


 「なんか用かよ。…まあ、なんもなければいちいち呼び出さねえよな」


 俺は、相変わらず冷たい態度を取る。不安なのだ、こいつに何を言われるのか、

されるのか。


 もしかしたら、自分の懐から刃物でも取り出して、俺に襲い掛かってくるとか。俺

も構えてしまう。


 「お前は…」


 間中が口を開く。


 お前は…、なんだ。何を言おうとしている。


 「正しい」


 彼から出てきたのは、意外な言葉だった。


 俺の気持ちなんか分からない、とかなんとか、また意地を張ってこちらに対抗して

くるのではと構えていたが、あっさりと負けを認めるような言葉が出てきたことに肩

透かしを食った。


 間中は続ける。


 「お前が、この前言ってた通りだった。俺は、努力をすることを諦めて、妬んだ

り羨んだり、挙句の果てには妨害して…、最低だ」


 神妙な面持ちで俺に訴えてくる間中。


 「コレ、すまなかった」


 懐から、佳也子にもらった首飾り。これが無いおかげで、先週は詰問されっぱな

しだったんだぞ、と言いたいところだが、空気は読んでやろう。


 「ああ」と、すっとんきょうな返事で受け取ってしまう。


 先週の今日で調子が狂う。


 「あとさ…」


 「なんだよ…」


 さらに続ける。ここからが、本題のような面持ちだった。


 「俺、お前が『怪獣』だってこと、黙っとく」


 「…そうか」


 今すぐにでも、何者かにアッパーする勢いで拳をかち上げたガッツポーズをしてや

りたいほどの巨大な安堵が俺の気持ちを突きあげた。週末はアッパーされる側だけ

ど。


 「その代わり!!」


 その断りで、せっかくの安堵が再び緊張に変わった。


 また要求か。


 「その代わり」を口にしてから、その先をなかなか言わない。


 「その代わり」、なんだよ早く言えよ。


 次は何を要求されるのだろうか。肝心なところを勿体つけて溜める間中に、怒り

すら覚えた。


 「俺を舎弟にしてくれ!!」


 「…」


 「お前の生き方に憧れたんだよ!」


 「…」


 「だからさ、頼むよ? な? なっ?」


 


 …意味わかんねえよ。



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