アプローチ3『あ、手が……』vs 後輩男子【参謀会議編】

 あ、あった。

 図書館で目的の本を見つけた私。すると、横から同じタイミングで伸びてくる手があった。

『あ、ごめん、なさいっ』

 触れちゃった、かも。

 見ると同じ高校の制服で。

『はい。お先にどうぞ』

 その笑顔に胸が鳴っちゃって。

『あ、待って。実はずっと前から、二人きりで話してみたいと思ってたんだ』

 これが、私と彼の、運命の恋の始まりでした。


 ***


「……いいな、これ」


「大和くん、そういうのが好きなの? 逆にキモイ」


「伊吹の逆の意味が分かんねーけど、やっぱり、こういうピュアなのがいいよなー。俺が憧れるわー」


「だったら、告白なんてしない方が夢見たままでいられるのに、その恋に恋する的発想が合理性に欠けるうえ、果てしなく理解し難くて寒気がするって意味なんだけど、解ってくれた?」


「悪かったな、恋に恋しててっ。俺には令和のイケメンみたいな恋愛上級スキルも、チート能力も無いからさあっ。それでも、伝えたいって思うんだよ」


「何そのタケルくんぽい開き直り。あと、いちいち令和を引き合いに出すのはやめてよ。令和に失礼だよ」


 う。


「すみませんでした……」


 気温の上がるいつもの通学路で、伊吹からはエアコン要らずの冷気が吹雪く。

 地球には優しいのに……。


「で、今回は中川先輩が図書館に行くまで、毎日、後でもつけて回るつもり?」


「しーっ、しーっ! 人をストーカーみたいに言うな! そんなことしなくても、もうすぐ試験だし、本屋で参考書探すとか、一緒に図書室で勉強とか、自然な流れの展開、期待できるだろ」


「その先を画策してる時点で不自然でしかあり得ないのに、そういうのを完全スルーする能力には長けてるよね」


「え何て?」


「僕もめちゃくちゃ勉強頑張ったら、大和くんたちと同じクラスに飛び級できたりするかなあって」


「その上目遣い、ワザとらしいぞ。仮にできたとしても、伊吹には伊吹なりの高校三年間を楽しんで欲しいって、俺は思うけど?」


 辛い思いをして来た、小・中学校の分も。


 元々、人の感情に敏感な伊吹だからこそ、言外の気持ちも伝わったのか、「分かってる」と小さく呟きつつ空を見上げた。


「あーあ、何で僕、後一年早く生まれなかったんだろう」


 初夏の風に、たやすく飛ばされそうな思いの欠片に、二人で見つめる青空と白い雲のコントラストが、俺には色鮮やかに写る。


 後ろ向きのようでいて、今ある生を否定しなかった伊吹の、確かな心の変化。

 出会ったばかりの頃は、自分の存在意義すら見出せずにいたのに。


 いつでも俺は、その背をそっと押すだけだった。


「伊吹に少しだけマウント取って、背中押すため、とか?」


「……。ばあかっ、そんなこと思ってないくせにっ」


「ははっ。なんてな」


「言っとくけど、大和くんに図書館誘われて断る日本人なんていないだから、さっさと誘いなよっ」


「いや、普通にいるだろ……」

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