囚われの図書館 主役:月野

 普段、図書室に引きこもることが多く、部員である伊東に任せっきりである。


「ぼくは病気だから」


 を理由にサボりだと部員に疑われるのが怖くて、ぼくは真実を言えずに太陽も電気の灯りさえない暗い倉庫で本を読み続けている。


「目、悪くなるよ」


 図書室の先生から注意されたことがある。

 でも、ぼくは「暗くても見えるから大丈夫。それに、光りある場所は病気が進行するから」と理由を告げ、先生は仕方なく見逃してもらっている。


 そんな生活が終わりを告げるようになった。


 図書室の改装が5月から始まるそうだ。

 隣の教室が使われていないのを理由に図書室の広さを増やすそうだ。大がかりな作業のため、図書室は一時的に使用不可能になってしまうらしい。


「悪いけど、校長とPTAの案なの」


 先生から言われ、ぼくがいることが許された空間は長らく封印されることになった。

 前から指摘されていたようで、窓が少なく、常にカーテンを閉めていては空気が悪い。人も少なく、テーブル数も少ないことが原因で、人が寄り付きにくいとPTAから文句を言われていたらしい。


 カーテンが閉め切りなのはぼくを守ってくれると校長は言っていたが、PTAの判断には逆らえないと言い、結局はぼくを守るよりもPTAに従うしかなかったということだ。


 ぼくは安心して時間を潰す場所を失ってしまった。


 悩みに悩んで部室に来た。

 少なからずカーテンを閉めれば多少は光が入ってこないことをぼくは知っていたが、部室の扉を開けると隙間風か古い建物のせいかカーテンが揺れることがある。そのときに差し込む光がぼくを追い出そうと言わんばかりに光が差し込んでくる。


 そういう経由もあってくることを拒んでいたが、つい先日、面白い場所を見つけ、ぼくはそこへ赴くことにした。


 その場所は時刻が決まっており、夕方5時きっかりでしかつながない場所だ。

 人気がなく寂しい場所だが、本が地下から天井へ駆けて上るように本棚が建てられている。


 まるで大樹のようだ。まっすぐ伸び、所々枝分かれしている。枝にも本棚のように本がきれいに整頓され、タイトルからして面白そうなものばかり。

 地上(入ってきた場所)から地下、天井と目を細くしても見えないところ、本棚の樹は長年成長し続けたことが分かる。


「すごい、見たことがない本ばかりだ」


 ぼくは、本を手に取り、一冊ずつ見ていく。

 時間が浪費することが激しく後悔しないほど面白く、次の本を手に取っても苦痛にならないほどすらすらと読める。


 こんな世界があるなんて驚きだ。

 扉の先の世界はランダムで、行きたい場所に行けないことが多い。時間を指定して入っても前回とは違っていたりする。


 扉の気まぐれだと思っていたが、どうやらこの場所だけはそうではないらしい。

 夕方5時0秒から2秒の間に隙間でも空ければこの世界に着くことが分かった。


 あれから調べて、三日ほど経過したが、この世界にある本は、どうやら持ち主が関係しているようで、眼で見ただけ素通りしていった本が形となって現れたものらしい。


 地下に行くほど古く、幼いころ見つけた物がほとんどだった。

 地下に行くまで最短のエレベータを使って五時間ほどかかったが、収穫は十分だった。


 小さいころから今に至るまで、たとえ素通りして言ったものでさえも自分に合った本として文章が変わり、読めるようになっているらしい。


 試しに本屋で買ったラノベも、この世界に来る前と持ってきたものと比べると、本がまるで生まれ変わったかのように著者の筆記よりわかりやすく変わったほどだ。


 この世界は、”個人が見てきた本が本となる世界”。つまり、現実で見てきたものが、いずれ本になることもわかるという予言めいた場所でもあったということだ。


 ネット「カキヨメ」で公開中のものでもすでに完結した状態で置かれているなど、未来から取り寄せた感がある。

 作者が未完成になったものでもちゃんと完結した状態でこの世界に復元もされている。


 つまり、いずれ作者が未完になるだろうか完結しようか、この世界ですべてわかるということだ。


「これはすごい発見だ! でも・・・」


 まだ発売されていないものが事前にわかってしまうのは、なんだか卑怯だ。作者が必死で書いているものを事前に先読みしてしまうのは、なんだかやるせない気持ちになる。


 でも、この世界は答えてくれる。


 選択肢を与えてくれているのだ。


 嫌なら、本を読まなければいい。読みたい本だけ読めばいい。

 現実で失ったものや、価値が高く買えないもの、本になっていないものすべてが手に入る。


 そんな選択肢があるのに、ぼくは否定している心がある。心が否定しているのだ。目の前の壁を梯子を使って簡単に上っていく未来の自分と地道に壁を削って階段を作っている自分と区別しているかのようだ。


「・・・それでも、この世界が好きだ。ぼくを歓迎しているようで、招待してくれている」


 なんだか言って、現実とは違い、謎の発光物のおかげか、室内は明るく、なぜか病気は悪化しないし痛みもない。


 こんな場所を放っておくのはどうかしている。考えすぎだ。ばかばかしい。


 時間はあるだけある。

 これ以上、追及や考えることをやめ、今日も本の世界に溶け込む。


 この世界は時間の流れが違う。現実で10分がこの世界では2時間。時間の進み具合を考えずにゆっくりと読書することができる。


 ぼくは、この世界のことを誰にも見られず、誰にも渡さない。

 なぜなら、ここは囚われの図書館(ユートピア)なのだから。

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