第2話 Yamazonはなんでも売っている

「Yamazonプライムでお急ぎで取り寄せたから。見たことないのは当然だ」


 夫は戸惑ったように私が差し出した靴をまだ受け取らずにいる。


「どう見てもごついというか、ローラースケートにエンジンみたいなのが付いている履物だよね?」


 やれやれ、説明しないとならないか。このメタボ……いや、マイダーリンに説明しよう。


「あのさ、リョウタはここまでどうやってきたの?」


「覚えてない。うとうとしてたらなんか真っ黒い霧が出てきて、意識が遠くなって」


「なるほど。恐らくここはブラジルのマフィアが密かに掘った洞窟だ。理由は知らんが、貴様は恐らく現場を見たから薬品を嗅がされて拐われたのだ。いつテロリストが来るかわからんから一刻も早く脱出せねばならん」


「何気に貴様呼びされているのは置いといて、裸足だから靴を持ってきてくれたのはわかるけど、なんでローラースケート?」


「そのメタボな腹と太い足でどのくらい走れると思ってるのだ? 自分がアスリートと思ってるのか? 」


 ローラースケートの先っちょでリョウタのぽよんぽよんな腹をぐりぐりと突っつく。


「う、うん。全然走れないと思うよ」


「手を引いて走るとただでさえスピードが落ちる。だから楽に登れるようにと、このエンジン付きローラースケートをYamazonで取り寄せた」


「な、ならばバイクとか、電動アシスト自転車でくれば良かったじゃん」


「そんなもん値段が高いから買えんわ。その点、このローラースケートは一足おまけに付いてきて二足で税抜き一万五千円だ」


「うわ、めちゃくちゃ怪しい値段設定」


「どことは言わんが爆発しやすい国製だ。その国では暴走して事故ったらしいがな」


「……現世に戻る前にまたここへ戻りそうな気しかしない。それにユウさん、ここはブラジルじゃなくて多分黄泉……」


「ガタガタ抜かす前にとっとと履け。脱出するぞ」


 こうして、夫と私は特製ローラースケートを履き、準備を始めた。アイテムもすぐに投げられるようにリュックは前抱きに直すのも忘れなかった。


「はい」


 夫は私に手を出してきた。


「はぐれないように手を繋ご……」


「繋ぐだなんてぬるいっ!」


 私はリュックから手錠を出して互いの手にかけた。


「安心しなさい、同じくYamazonで買った安物だが、外れなくてガッチリしてるというのがレビューの多数意見だった」


「なんでそんなものを買ってるんだよっ!」


「行くぞっ」


 そしてローラースケートの電源を入れた。Yamazonレビューによればかなりの出力とスピードだが、連続稼働すると過熱、そして爆発する恐れがあるとか書かれてた。


 まあ、なんとか途中まで距離を稼いでおけばあとは普通に走っても行けるだろう。


「武器としてこれを持て。追手が来たら撃て」


 私はエアガンを夫に渡した。


「追手って、結局は悪鬼でしょ? 効果あるの?」


「悪鬼だろうがテロリストだろうが、とにかく撃て」


「あのさあ、突然俺が黄泉の国に……」


「だから黄泉の国なんかじゃない。かなり潜ったからブラジルに繋がってる! ここはブラジルマフィアの拠点だ」


「君って人は……」


「歯を食いしばれ! 悪路だから舌を噛むぞ!」


 そうして、稼働した電動ローラースケートで坂を登り始めた。かなりでこぼこしている道だから轟音が響き、バランスを取るのが難しい。奴らにバレなければいいのだが。そう懸念した時、背後から恐ろしげな声がした。

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