第1話
『ようこそ! NewBaseballOnlineの世界へ!』
「うわっ!」
VR用のゲーム機をセットし、慣れない動作をしてゲームを立ち上げたら、いきなり目の前に野球ボールの形をした頭のキャラが現れ、声が聞こえたものだから驚いてしまった。
どうやらこれが最初の説明をしてくれるナビゲーターのようだ。
『NewBaseballOnline、NBOはヴァーチャルな世界で野球を楽しむためのVRMMOゲームです! 野球のことを全く知らない人でも問題ないようチュートリアルが2種類あります。経験者用のチュートリアルか、未経験者用のチュートリアルどちらを選びますか?』
目の前にどちらを選ぶのか選択する項目が出てくる。当然俺は経験者用を選んだ。
『それでは経験者用のチュートリアルを開始します。まずはあなたの外見を教えてください。』
視界が切り替わり、いろいろな項目が出ている画面となる。これがキャラメイクというやつか。
性別や利き腕、身長や体重など顔以外にもかなり項目が多い。NBOの宣伝文句として推されている『どんな人も理想の選手になれる』というキャッチコピーに違わず、自由にキャラメイクできるようだ。
とりあえず現実の自分と同じように数字を入力していく。名前はカミシロ。性別は男性。利き腕は右。外見も適当に。兎にも角にもゲームを始めたい気持ちが強かった。
「これでよしっと」
『入力を確認しました。それでは今から動作確認を行います。よろしいですか?』
「動作確認?」
『VRゲーム上の仮想現実でアバターを動かす場合生じる誤差を無くすための確認です。ゲームを開始するためにこの工程は必須となっています』
周りが大きなフィールドに変化し、陸上競技場のような形態に変化する。見た感じとてもリアルだ。最近のゲームは凄いな。
そこで指示された動作確認。VRゲームで体を動かすに当たっての誤差の確認などを一通りこなしていく。走りの確認なんかは本当に現実に走っているみたいで驚いた。
『お疲れさまでした。ここからはNBOを始めるに当たって野球動作の確認を行います。これは経験者用チュートリアルだけで行う内容です。バッティング、ピッチング、守備の順番で行います。希望するポジションを教えてください。そこがあなたのメインポジションとなります』
「ん? これ野手を選んでもピッチングするのか?」
『NBOでは全プレイヤーが全ポジションで遊ぶことができます。例え最初に投手を選んだとしても野手としてゲームに参加することも可能です。なので両方の能力を測最初に測らせていただきます』
「あーなるほど。全員二刀流みたいなものか」
投手と野手、両方でプレイする選手を二刀流という。元々アマチュアレベルなら多くいたが、日本ではプロでも二刀流を続ける選手が現れたことで一躍有名になった。
「んじゃショート、遊撃手で」
俺は高校までは投手で大学から野手転向したが、その時もショートとして野球をやっていた。やっぱり慣れ親しんだポジションでやりたい。それにショートは守備機会も多い野球の花形だしな。
『遊撃手で登録しました。それではまずはバッティングからお願いします。10球投げますので、それを打ってください』
地面にマウンドとバッターボックスが現れ、マウンドにはピッチャーグローブを付けた人が現れた。多分あのアバターが投げるのだろう。それにしてもすげぇリアルだ。てか見たことある。アレ多分有名なプロ選手をモデルに使ってんだな。
バッターボックスの前にバットが置いてある。これを使えってことか。
「おお......」
バットを持った時、ちゃんと重さがあったから驚いた。何故かVRのバットは軽いと考えていたけど、現実と同じくらい重くて、少し気が入る。
何回か素振りをする。ブンブンとバットが風を切る音が聞こえる。怪我をする前の、まだ思う存分野球ができていたころの感覚が戻ってきたみたいだ。
これなら......とバッターボックスに入った。
「お願いします!」
アバターが1球目を投げる。スピードは100キロくらいか。
タイミングを合わせてスイングすると、気持ちいい音と共にボールが飛んだ。センター前くらいか。
2球目、3球目と同じように打つ。自然に顔から笑みが零れていた。このNBOの世界なら、思い切り体を動かせる。痛みなんてない。仮想空間なんだから当たり前なのだが、実際にやってみてもう一度野球を体験できているというのがとてもうれしかった。
9球目を打ち返す。途中からは変化球も混ざり、球速も上がってきたから、ジャストミートするのは難しくなってきてる。
10球目。真ん中高めの剛速球。150は出てるか。それをフルスイング。
もう現実では出来ない、そう思っていた。
──あぁ、やっぱり好きだなぁ。
あの頃と全く変わらない感覚。
体を思い切り引き絞り、バットを振りぬく。
ボールが潰れる音がグシャと響き、フェンスを越えていった。
「ホームラン、また打てるなんてな」
感覚も現実とほとんど同じ。正直仮想現実を舐めていた。ここでなら、また野球を楽しめる。それが確信に変わった瞬間だった。
◇ ◇ ◇ ◇
『お疲れさまでした。測定は終了です』
バッティングのあと、守備とピッチングのテストも行ったが、守備は単純なノック、ピッチングは好きなように10球投げるだけだったので割かしすぐに終わった。
「これでチュートリアルは終了ってことでいいんだよな?」
『はい。こちらが測定をもとにしたあなたの選手ステータスになります」
─────────────────
name:カミシロ
性別:男性
身長:183cm
体重:80kg
右投げ左打ち
メインポジション:遊撃手
Contact(ミート):C
Power(力):B
Baserunning(走塁):C
Fielding(守備):D
Pitching Attributes(投球能力):D
野手特殊技能
・アーチストスイング
─────────────────
ミート、力、走塁、守備、投球、と上から目を通していく。投球の能力が随分大雑把なのは気になったがとりあえずそこは流して、一番気になった項目はその下。特殊技能と記された欄だ。
アーチストスイングと表記された場所をタップすると、詳細らしきものが出てきた。
『バッティング時に発動。打ち上げた打球の伸びに補正が加わる。同時にライン際の打球が切れにくくなる(フライボールのみ)』
「打ち上げた打球の伸びが良くなる、か。ホームランが出やすくなる能力ってことでいいのか? 野球ゲームだし、こういうのもあるのか」
子供のころにやった野球のTVゲームでも似たようなシステムを見たことがある。懐かしいなぁ。あの頃は自分の名前を付けた最強選手を作って、好きな球団に入れて遊んでいた。
『これでNBOをプレイするための準備は全て完了しました。こちらからNBO内での中心地になる拠点に行くことができます」
目の前に白いゲートのようなものが出てきた。どうやらこれでその拠点にワープできるようだ。
何故か少し緊張しながら、それをくぐる。
何だか初めて野球道具を買った時の感覚と似ているな、と思いながら俺の心はこれから何をするかに向かっていた。
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