第1話大ダメージ
今、『貴方の性別は何ですか?』と問われてしまうと確実に言いよどむ自信が私には有る。話しかけられた時にボロを出さないよう、考え事をする時ですら『私』と言いながら考えているが……それでも根は男だ。見た目なども完全な女では有るが、まあ男なのだ。
そんな事を考えながらもギルド証を受け取り、顔を隠すために一時的に外していた仮面を付け直すと、扉を勢いよく開けながら入ってきた集だ……
「香菜さん!幸久来なかった!?」
「いえ、来ておりませんが……」
あれは私とは何も関係のない集団だ。例え私の本名が幸久であろうとも、今の名前はユキ。偽名ではあるが、ギルドにもしっかりと認められている名前だから名乗っても問題ない。
「チッ。幸久なら来てると思ったん……ねぇ、そこの貴方?」
「はい?」
本来であれば関わること無く防具売り場の方まで行きたかったのだが、話しかけられたので仕方がない。嫌々では有るが、返事をしないと逆に怪しまれるので返事をする。
「……結果」
「偽装で何も見えないぞ」
「……ちょっとお姉ちゃんと良い事しない?」
柚姉!?
というか、和兄も勝手に鑑定してるけどそれって犯罪じゃ!?
「す、すみません。急いで」
「無いわよね?貴方防具売り場の方に歩こうとしてたもの」
「……いえ、そ、その」
「安心して?ちょっと確認するだけだから、ね?」
そう言いながら手をワキワキさせて近づいてくる柚姉。下手に強い所為か、周囲にいる人達に仮面越しでは有るが助けを求めても……顔をそらされる。せっかく美人な顔立ちだと言うのに今は目を爛々とさせ、涎でも垂らさんばかりに……。
「ちょ、な、何を!?」
「ふむ……貴方、”ついてない”のになんで幸久の匂いがするのかしら?」
「え゛ちょ!?」
ついてないっていつの間に確認され!?
いや、今はそれよりも此処から逃げ切る方法を考えないと……。男性と女性だと若干では有るが匂いが変わる筈だから、今残っているのは匂いの残留。恐らく、服を買った時についた物。
ならば!
「わ、分からないです!わ、私隣町からダンジョン都市と名高い此処に来たばかりなので!」
「……地下鉄?」
「は、はい!乗りました!」
「近くに可愛い子は?」
「……覚えてません」
「チッ使えないわね。貴方、何で来た?」
「衛星都市4ー3ー1です!」
「……ッ行くわよ!」
そう言い、颯爽と立ち去っていく集団。因みに、基本的に街の外は魔物が闊歩する無法地帯なので地下鉄以外での移動手段は存在しない。
1つ目の4は日本で4番目の主要都市という意味で、神話時代では埼玉とか言う所だったらしい。
2つ目の3は南西を指し、3つ目の1は南西の1番目の衛星都市という意味だ。
……柚姉達には悪い事をした。
南西には富士山や樹海が有り、高難易度ダンジョンも大量に発生している。最悪の事態を想定したくない彼女達はすぐにでも動くだろう。
あ、メール。取り敢えず、少しは余裕を持ってもらえるよう、安心できるメール……『現地の友達に街を案内してもらってる』とでも。
「はぁ……」
今後は匂いなども気にしないと。
取り敢えず、嵐は過ぎ去ったので本来の目的である防具の獲得、ギルド管轄のダンジョンに挑ませてもらおう。
「よぉ嬢ちゃん、災難だったな」
「……何ですか?」
顔をそらした人が普通に話しかけてきたのでついジト目を送り、棘の有る言葉遣いになってしまったけれども、そのぐらいは許して欲しい。
「わりぃって。流石に……辛い」
「何がですか?」
「幸久君に会えなくなるのはな……そういや譲ちゃん、幸久君に似てたけど、ちょっと酌ぐら……冗談だよ冗談。ちょっと体感温度低くなってるんだけど気の所為か?」
……え、こいつも?顔面偏差値で言うと私の姉達の方が高いと思うのだけれども。
「あの方達よりも美人なんですか?」
「いや、あのえくぼが良いんだよ!天真爛漫な裏を感じさせない笑み!あれはマジモンの天使、俺の癒やしだ!」
すみません、裏バリッバリ有るんです……。
とは言え、そんな事を言えるわけがないので、”俺の”と言った所に過剰反応した通りすがりらしき人達にも冷めた目線を送りながら軽く相槌を打つ。
「それにしても、私と似てるんですか?その…幸久、さん?」
「ああ。身長は譲ちゃんの方が若干高いし、顔も譲ちゃんの方が若干男らしいが……結構似てたぞ」
……心に多大なダメージが。
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