第39話 ありがとうを
「・・・」
「・・・」
気まずい沈黙が二人の間で生じる。
今夜はあの決戦の夜。両腕が折れている事が判明したキバは、がっつりギプス。
本来なら自呪で再生するところだが、必要な呪力も回復していないため暫くはこの状態。
南方士官学校は「あのように他人の為に自分の命を賭けるような人材を、我々は勘違いしていた」と謝罪の意を示し、和解合意がされた。
その祝勝会の中、豪勢な料理が振る舞われるも、キバはロクに食べられない。
腕が使えないから。
「おいおい、英雄さんが随分と情けねえじゃねえか」
「しょうがねえだろ、俺だって折りたくて折ってるわけじゃねえんだ」
ゲインと軽口をたたき合う。
周りを見渡せば、皆が笑顔。
(・・・これを守れたのか・・・よかった)
笑い声が響き合うこの場所を守れた。その達成感が、キバの涙腺を刺激する。
「あ、やべ涙出そう・・・」
「キバ~、泣いたらダメだって~」
「ほら、飲め飲め!!」
「おい馬鹿!!」
口から酒を流し込まれる。よく分からない苦いような味に、驚く。
和気藹々、楽しい時間が過ぎゆく。
「あー、俺もなんか食べてえ・・」
「ほら、口開けて!あーん!」
「やめろポート!俺は野郎にあーんされて喜ぶ趣味はねえよ!!」
「じゃあ!」
「私が!!」
レイナとレイラが恐ろしい速さで手を挙げ、こちらへと駆け出す。
「ではキバ様、あーん♡」
「お、おう・・・ありがとうな」
口に入れられたのは、芋を焼いた物。ほどよい塩気とほくほくの食感がたまらない。
(あー・・・なんか普通に塩気あるものが旨い・・・)
ぼんやりと咀嚼し、飲み込む。飲み物はストローを刺してあるので飲める。
「口、開けなさいよ!!」
「・・・お!?」
「開けて!!」
「ああ、分かった分かった」
今度は肉。溢れ出る肉汁と、暖かさが嬉しい。噛めば噛むほどに旨味が出てくる。
(よほど腕がいいんだろうな・・・)
人心地ついたのか、今度は眠気が襲う。
(うあ~、眠~・・・)
本気で眠くなり、船を漕いだ瞬間――
ドォン!どぉん!!
「おわぁ!?敵襲!?」
「んな訳あるか!!花火だ花火!!」
見れば、空が彩られてる。赤、青、緑。様々な色で黒い空を染め上げる。
「おー恐、いつ襲撃されるかわからねえ時期だったもんで」
「馬鹿、警戒くらいといとけよ」
花火の音が、響き渡る。
光に照らされ、見えたレイナの顔。
花火のせいか、別の理由か。顔がほのかに紅く染まっていて。
不覚にもドキリとする。
「やっちまえよー」
「ほらほらぁ」
酒に酔ったクラスメイトが、早く早くとせかす。
(・・・いいのか?俺が)
逡巡する。それでも、答えはただ一つ。
「・・・レイナ」
「・・・はい」
意を決する。しっかりと、相手を見据えて。
「・・・こんな俺だけど、付き合ってくれますか!?」
「もちろん!!・・・こちらからも、よろしくお願いします」
観衆が、どっと沸く。
「やーい!!お似合いめー!」
「ひゅーひゅー!!」
「レイナ!私のキバ取ったんだから、幸せになりなさいよ!!」
「キバー!お前は処刑だー!」
ヤジも声援も。
皆が笑って過ごせる。
こんな日々に。日常に。
顔を真っ赤にしながら、叫ぶ。
「ほんっと、ありがとう!!!」
平凡学生と呪いの剣 白楼 遵 @11963232
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