第36話 わからないけど。

「俺が英雄の子孫!?ふざけるな、俺に限ってそんなことがあるか!」

「ふん、わかるであろう、それなら家系図でも見るが良い。書いてあるだろうよ」

威圧感が周囲を埋め尽くす。まるで無数の目に睨まれているような。かつてこれほどまでに圧力を感じたことはあっただろうか。

店長ナツキさんのとこで受けたやつの倍、くらいかそれ以上・・)

毛穴から冷や汗でも吹き出しそうな。

どこかで破裂するような音が鳴り、空が急にクリアになる。

「・・・おい、どういうことだ」

「私の魔力ちからに耐えきれず、<離脱結界リーヴエリア>が解除された。これからは戦線離脱なんてものはない。あるのは死亡終わりだけだ」

「・・・ここで、死ねるかよ」

「いやだ・・俺はまだ死ねない!」

「う、うわああああああ!!」

生徒達は散り散り、悲鳴をあげて校舎へ逃げ込む。

「くっそ、・・・おい!」

通信魔道具を持たせた一年一組の友人達に叫ぶ。

「もしいける奴がいれば、校舎内の哨戒にあたれ!無理なら構わん、無理するなよ!」

『おう!』

『ちょっとくらいなら・・・!!』

『使い魔を出します!ちょっとくらいならなんとか!』

「・・・すまねぇ、任せた!!」

「・・・くくく、無駄なことを」

「何が無駄だ!!」

「私の部下が、校舎内を巡っている。・・・遭遇するも時間の問題よ」

「俺の友達を舐めるな」

一瞬で空気が押しつぶされる。悪鬼アスモの放った威圧と同じ程度の張り詰めた空気が、外にいる者を苛む。

「・・・キバ!いけるの!?」

「・・・やりますよ、やらなきゃいけない。俺は全力で倒しにいきます」

決意の光を宿した目で、キバは言い放った。





「うおおお!!!やるぞ、第二班!!」

「・・・おー」

「あはは、やるしかないよねー・・・」


「アルロくん、やりますよ!」

「・・・まったく、お前ってやつは・・」


「キバ様にこの手柄を持ってけば、きっと褒めて・・・」

「キバに見せないとね、いいところ・・・」

「・・・邪魔しないでください」

「・・・こっちこそ」


「ノアさん、あなたの動物を少し貸して貰えないですか?」

「いいですけど、メイルーさんそのポーズは何ですか・・・?」

「かっこいいでしょう!!!」

「・・・どこがですかぁ・・」


一年一組、教室にて。生徒達は班員、あるいはタッグを組んだ相手との最終調整にかかっていた。

「・・・いいかい皆、僕達は今、危機に直面している訳だ」

重々しい口調の中、アイギスが口を開いた。

「その中でキバが、先陣をきって最強あいつと戦っているんだ」

学級委員長のメイソンが続く。

「なら、俺達もやるしかねぇだろ!!」

ゲインが力強く宣言し、クラスが沸く。

「油断するな!」

「されど緊張しすぎるな!」

「俺達ならできる!」

「キバに負けるな!」

「俺達にできることを!」

叫び、喚き、走り出す生徒達。その声は他のクラスの生徒達にも届けられ、少しだけだが気力を湧かせる。

「いいか!発見次第即交戦!負けたら承知しねえぞ!」

「ばかやろー!」

「俺達を舐めるなー!」

彼らの顔には少し笑顔が浮かび、気合いに満ちあふれていた。

まるで、青春を楽しむかのように、命のかかった戦場を走り回る。軽い気持ちで踏み込めない場所を、友達の家のように駆けずり回る。

「じゃー一旦解散!報告あれば魔道具で!」

「さーいえっさー!」

「まかせろー!」




「・・・なんだよ、こいつ」

「ははは!お主はこの速さについてこれるまいて!」

キバVSアスモ。戦況はアスモに傾きつつある。

攻撃が速すぎて耐えられないキバは、回避も受け身も、防御もままならず、苦戦を強いられる。

(・・・あの時みたいに隙は見えない、どこにも空きがない、そもそもあまり動かない・・・)

【武器】は魔道書、魔術師はあまり動かず遠距離から攻めるのが一般的。

アスモもこの定石を守って攻撃する。

「・・お前の魔法、いちいち眩しいんだよ!」

「ふん、当たり前だ。光魔導ひかりまどうだからな」

魔導、魔法や魔術とは一線を画す別物。太古に失われた魔法。それが魔導だ。

「・・・光、か。ならなんとか防げるかもな」

「・・・防ぐ、だと?おもしろい、ならば防いでみよ!!」

無数の光刃が生成され、キバに向け射出される。

「・・・放射」

キバが無色透明の波動を放つと、光刃は消滅する。

「光は所詮粒子、結合を解けばいいだけだ・・・」

「ほう!なかなかに奇っ怪な事をする!・・・しかし、貴様の級友はどうかな?」

「・・・あいつらなら大丈夫さ、俺のクラスメイトなんだからな」





「・・・おいタマモ、この辺生体反応ってあんの?」

「まぁ一応教室近辺ですから当然ありますよ。・・・廊下、曲がり角から一名確認、臨戦態勢に」

「・・・来たか」

北校舎三階、タマモとアルロペア、敵影を確認。



「・・・ソバー、いる?」

「いる、それも二人だ」

「・・・これは避けられないね」

東校舎一階、ゲイン率いる第二班、敵影を確認。



「ノア君、これ私達来ちゃったんじゃないですか?」

「いやだよ!?僕会いたくないよ!?」

ノア&メイルー、敵と遭遇。



「邪魔しないでください!」

「だからこっちのセリフでしょう!」

「うるさい女ですね!!!!」

「そっちこそ!!・・・あ」

敵に位置を特定され、レイレイコンビ、遭遇。



「アイギス、いたぞ!」

「おけメイソン!絶対倒すよ!」

メイソンとアイギス、敵を発見。


主要5グループ、全隊敵と遭遇。交戦を開始する。




「発動、『迅雷』!!」

電気の速さで敵に攻撃をたたき込む。一秒間に48回食らわせる斬撃は、敵の体力を容赦無く削る、筈だった。

「・・・おいおい、全然回避できるんだけど?」

「まだまだかもね、第二段階かもしれないけどね」

「なんだよこいつら、速すぎるだろ」

「・・・間違い無い」

「ゲイン、これはもうやるしかないね」


「あぁあ!!カーバンクルちゃんがしんだー!」

「ちょ、僕のラヴィが!!」

「いやああああああ!!」

動物組ノア&メイルー。虫使いの相手の前に使い魔が二匹瀕死。

「・・・弱い、何故なにゆえそこまで貴様らの使い魔は弱いのか」

「うるさいうるさいうるさい!私達だって本気になったらこのぐらい!」

「メイルーちゃん落ち着いてぇ!!」

一番焦っているノア、取り乱すメイルー。この二人には速く限界が訪れそうだ。


「ああああ!!うざったらしいわね!」

「それはこっちのセリフです!邪魔しないでと言ったでしょう!」

戦闘そっちのけ、口喧嘩に夢中の二人は敵など気にしない。

「あ!そこの銀髪はあの時の!」

「・・・邪魔しないでくださいまし」

「うるさいんだけど・・・?」

眼光が恐ろしすぎる。敵は攻めるに攻めれない。


「うおおお!!なにこいつ強すぎるんだけどぉ!?」

「作ったそばから腐食されるぅぅぅぅ!!」

真面目に戦う二人メイソンとアイギス、腐食魔法を使う相手にどんどん腐らせられる。

「ああああもおおおやるしかねえええええ!!」




「くっそ、避けられるのは想定外だ・・・」

「まぁでもやるしかないよね」

「・・・がんばろう、ゲイン」

全員のスイッチが入る。眼光が変わった。

「・・・こいつらただ者じゃなさそうだな」

「まぁでも、勝てるでしょ」

二人の男はニヤニヤしながら三人の方を見る。そして、片方の目つきが優しい方が飛び出る。

「<惑星の領域プラネットフィールド>、<衛星壁サテライトウォール>」

ポートが珍しく本気だ。近くにあった瓦礫を周回軌道上に含め、攻撃を防ぐ。

「・・・ふむ、なかなかだね」

瓦礫がずれたかと思うと、二つに別れる。分断されたかのように真っ平らな断面だ。

「この『裂断剣』の切れ味にかなう物かな?」

「・・・かなわせてやるよ」

ゲインが全身に電気を纏い、神速で廊下の壁や天井をボールのように反射、跳弾の速度で烈断剣の持ち主へと斬りかかるも、回避される。

「・・・僕の超感覚と共鳴リンクしてるからね。回避はできるよ」

「・・・なるほど、魔法属性がそれか・・・」

もう一人の長身の男の魔法属性がわかり、全力で作戦を組み直す。

「・・・ならこれは?」

気配を完全に消す『第二段階』を使用したソバーが超感覚の男の首筋を狙ってしかける。

しかしそれすらも感知していたかのように回避される。

「・・・極小の足音さえ聞き取られたか」

「まぁね、聴覚もするどいのさ」

余裕のしたり顔で言われた三人は、とうとう頭に血が上る。

「おうやってやろうじゃねえか」

「ちょっとこればっかりはね、やらないと気が済まない」

「・・・よし殺す」

三人の目に殺意が宿り、臨戦態勢を取る。

「<迅雷>、<閃放電フラッシュディスチャージ>ッ!!」

またしても反射を始める、と同時に足下に凄まじい速さで放電を行う。

「っく、あああああ!!!!!!」

「ぐぅうう!!」

「へっ、感覚が優れてるってんなら光と痛みにも鋭いよなぁ!!」

瞬間、ポートが近くの壁を破壊する。そしてその瓦礫の破片から破片へとゲインが飛び移り、砂煙と轟音をおこす。

「なら轟音と土煙で聴覚も嗅覚も視覚も塞ぐ!」

何も感じなくなった二人の男の首筋にナイフの峰を引くと、熱い感覚が二人の肌を焼く。

「あああ!!」

「くぅがああ!!」

瞬間、崩れ落ちそうになる二人に、とどめとばかりにゲインが剣の腹で頭を思いっきり殴る。

二人は気絶し、崩れ落ちた。


「よし、拘束完了。・・・それにしても、よく勝てたな俺達」

「・・・ほんとだな、昔の俺達なら間違いなく負けてた」

「きっとキバに頼まれたからだよ。わからないけど」




「この蟲は、すべてを食い尽くす。貴様らの使い魔など、秒さえあれば食い尽くす」

「うるさいです!私の使い魔は最強なんです!」

「ぼ、僕のラヴィをよくも!!」

犬を可愛くしたような使い魔と兎型モンスターを骨にされた二人は憤慨、涙目二人組が全力で抗議し、さらに召喚を重ねる。

「<召喚コール生屍グール>!!」

「きて・・・<粘土人形クレイドール>・・・!!!!!!」

床に魔方陣を展開し、どっちもほとんど死ぬ事も食べる事もないような使い魔を召喚、攻撃に向かわせる。

生屍は腕を振り上げて蟲使いに攻撃、粘土人形はノア達の防御に徹するも・・・

「・・・醜い、脆い」

一瞬にして蟲の奔流に飲まれ、残るのは少しの肉片と粘土のかけらのみ。

「わ、私達の使い魔がぁ!?」

「う、うわぁぁあ!!クレイドールぅ!!」

涙目どころではない、本気で泣いている。

「なぜ、貴様らは抵抗する。どうせ我らに食い尽くされる」

見下されるような発言に、二人の堪忍袋は限界を迎える。

「おとなしく受け入れればよいものを」

「あ・・・!?」

「ふざけないでよ・・・?」

割とふざけてることが多いメイルーも、気弱なノアも、怒った。

そしてこの二人は、人間だった。

「本当に、気に障る人ですね・・・!!」

「もう怒った、僕怒ったよ・・・!!」

二人の目は瞳孔全開、殺意と憎悪が滲み出て、溢れ出る魔力で髪が逆立つ。

「もういいですよやってやりましょう、<召喚コール宿り木の聖剣ミストルティン>ッ!!」

「おいで、僕の忠実な友達♪<抱擁せし黄金龍ファフニール>!!」

メイルーは、細い枝が複雑に絡まって生まれた大樹の空の中に眠る聖剣を召喚、ノアは地の底から黄金を抱いて眠る龍を召喚。蟲使いにもこの二匹には勝てないと分かり、戦慄する。そして逃げようと走り出した瞬間――

「逃がさないよ、やっちゃえファフ!」

ファフニールは金のかけらを射出、打ち込まれた蟲使いは動けない。

「はは!どうだい、僕のファフは!これがファフの力だよ!」

「後はお任せ、動いて下さい、ミストルティン!」

空を飛び出し、メイルーの横に突き刺さったミストルティン。

「自立思考状態起動、標的、あの気持ち悪い蟲とその主人!!」

鍔の木の葉が一枚剥がれ、残像を残して消え去る。

指先にも満たないような細かな蟲達が、ミストルティンが通ると一匹残らず消滅する。

「・・・く、こんな奴らに負けるだと・・・!!!!!!」

「敗因は私達を怒らせた事ですね」

「そうだね・・・じゃあ、ファフ!」

「ミストルティン!決めますよ!!!!!!」

ファフニールの口からは黄金の吐息、ミストルティンの刃の嵐に飲まれた蟲使いは、無惨な姿となった。服が破け、顔が打撲でボコボコだ。

「・・・ここで生かしておくのが、情けですか」

「・・・さすがに、殺したら僕達はキバに顔向けできないもん」

しゅんとした顔でうなだれる二人。その後、きっちり治癒の魔法をかけて帰って来た。




「くっ、なんですかこの人!?死んじゃいます!」

「まったくだ!何なんだよこいつ!!!」

アルロとタマモペア。普段は冷静沈着なアルロが思いっきり叫ぶ。

「こいつの能力、ほんっと厄介!」

「まったくです!!この人ほんと嫌いです!」

二人が相手にしているのは衝撃波を砲弾にして腕でもてるくらいの小型大砲から放ってくるごつい大男。アルロの氷の矢は届く前に砕かれ、タマモの波動は相殺される。

「こいっつ、ほんとに!!」

氷をナイフ状に生成、斬りかかる。

「はっはっは!遅い遅い!」

衝撃波で砕かれる。そしてそこにアルロも巻き込まれ、アルロが気絶する。脳が揺らされた為、正常な意識を保てなかった。

「ちょっとアルロくん!?ここで気絶とか許さないですよ!?」

タマモ、とてつもなく焦る。手汗も冷や汗も滝のように出る。

「安心しな、俺はお嬢ちゃんみたいな小さな女の子が好きなんだ」

ごつい手を差し伸べられたかと思えば、気色の悪い笑顔を輝かせる男。

「い、やああああああ!!」

確かにタマモは体の起伏が少ないうえに上背もない。一見すれば13歳だなんて誰も思わないだろう。

そしてこの男は、俗に言う幼女大好きおじさんロリコンだったのだ!!

「いやですよ!こんなの絶対いやですからぁ!!」

必死の抵抗、反射的に体から波動が出る。


『魂は池のようなもの、揺らせば倒れる』


がっつり揺らされた男はふらつき、アルロは目覚める。

「・・・お前さっき、タマモに何したの?」

にーっこり笑顔でアルロが尋ねる。

「あ、いや、え・・・」

「タマモに意地悪していいのは俺だけなんだよぉ!!」

「ちょっと!?アルロくんそれって」

ガン無視を決め込むアルロ。途端、氷の弓があおく光る。『第二段階』、覚醒の兆しだ。

「<碧氷破弓へきひょうはきゅう>、起動!!」

タマモの身の丈153センチ程の大きさの巨大な氷の弓が生成され、冷気が辺りを埋め尽くす。

「お前は、血も心臓も凍結させてやる」

目も蒼く輝かせ、頬に霜が付き、息を白くしながら呟く。

弦を引き、離す。放たれた氷の矢は流星の如く空中を駆け、男の大砲の発射口に突き刺さる。

「こんな矢、砕いて・・・!!?」

「悪いな、それは万年氷。融けるとか砕けるとか思うなよ?」

挑発的にその鋭い目を細め、ニヤリと笑う。

「タマモ、付与して」

「それよりアルロくん、さっきの」

「早くしろ」

鋭い目で睨まれたタマモは渋々波動を付与する。

「さっきの、後で説明してもらいますからね」

「気が向けばな」

力強く弦を引き絞る。左目を閉じて、照準を合わせる。

(中心地点に奴が来た、放つ!!)

「やるぞ!!!!!!」

「はい!準備オーケーです!」

「「<蒼天氷矢そうてんひょうし永久凍結とわとうけつ>ッ!!!!!!」」

霹靂さえ断ち切るような蒼い矢、風を斬る音は彗星のよう。

「こんな矢、俺の体に刺さる訳がハッ・・・・!?!?」

胸元に、矢が突き刺さる。貫通はしないが、男の体が凍り始める。

「お、俺が凍ル!?ありえ、ありえナ・・・」

足先から毛先まで凍り、物言わぬ氷と化す。

「悪いな、これも仕事だ」

「・・・ところでアルロくん、さっきの」

「いい加減にしろよ?」

「・・・ふふっ、ごめんなさい」

一応男は融かせば元通りらしい。




「だああもう腐食とか嫌いいい!!」

「ほんとだよもううんざり!」

メイソンとアイギスは腐食魔法を使う相手に苦戦中。地面や岩を生成しても腐らせられ、ならばとばかりに金属を生み出しても腐食される。

「・・・こいつ、勝てるの俺達」

「・・・何はともあれ、勝つしかないよ」

暢気なアイギスの声からは微塵も暢気さを感じさせない。その眼はまさに戦闘前の野獣の如し。

見えない何かに合図するかのように腕を振り、指を動かし、魔力を振りまく。

「<大地の願いホープオブガイア>、諸手を挙げて食らいつけ、大地」

地面に大穴が空き、その上をさらに土砂が埋め尽くす。腐食魔法使いの男は呑まれ、穴に落ちる――かと思われた。

「・・・さすがに堪えた。中々の腕前に驚いたよ」

「あの穴から出てこられるとは思わなかったよ、クソが」

穴の中の壁を蹴り、上がってきたところを土砂を腐食、開けた脱出口から穴から出るという寸法だ。身体能力が高くなければ出来ない技。感嘆の息さえ漏らす。

「ならこっちはどうだよ!」

大量の短刀を創成したメイソン、男の周囲に浮遊させ、発射。

しかしやはり腐食され、ドロドロの液体にされる。

「金属を液化とか、もう常識通じねえことがわかった」

「こればっかりは、どう勝てばいいのかね」

冷や汗もかきすぎて涸れた。作戦など何も無い。

「・・・はい四面楚歌ー」

「自暴自棄にならないでよ」

清々しい笑顔で「あ、これもうダメだ」と隠喩したメイソン。もう呆れたアイギス。

「・・・もう終わりか?ならば、消え失せろ」

全てを腐らせ、蝕む風がアイギス達の元へと吹き寄せる。

「・・・なんてね、僕達はまだ終わってない」

地面から壁がせり上がる。腐食はされても、分厚い為全ては腐らない。

「はぁ、全く・・・無茶するのはキバ譲りか・・・」

「でも、この演技力は無いでしょ~、あいつ面白いくらい愚直だから」

ニヤニヤするアイギス、ため息をつき、額を押さえるメイソン。

(・・・不気味、こいつらは底知れぬ腹黒さがある)

少し後退する、と同時に脚が止まる。

「・・・トラバサミッ!」

仕掛けた罠に綺麗にはまる。脚を挟まれた相手は腐食しようとするが――

「その魔法、手からしか出せないんでしょ。だからそれを腐らせると自分まで巻き込む」

「それ狙いだもん、俺ら」

「・・・くっ、こいつらに負けるとは」

「おじさんのくっ殺とか萌えないわ、まあいいけど」

メイソンはオタク、その手の本なら大量にある。

「でもこれも、僕達に頼まれたんだ。ごめんね、気絶してくれ」

そう言って、岩で後頭部を殴る。男は気絶、後に障害が残りそうだがそんなことは無かった。




勝ち星を挙げていたのは一組全体。

「お姉ちゃん!!こっちこっち!!」

「え!?また!?」

ミリウノ姉妹が近くの敵を一掃していたり。


「はっはあ!まだまだこんなもんじゃ準備運動にもなりゃしねえ!」

「まだまだ跳べるアルヨー!」

脳筋コンビが空の敵を木々を跳び移って倒したり。


「ああああ!また討ち漏らしたぁああああ!!!!!!」

「何やってんだアホ!倒すの俺だぞ考えろ!」

糸人形の討ち漏らし掃討に精を出したり。



そんな中、大勢が負けに傾くグループがあった。

西校舎一階、空き教室にて。

「・・・ほんと、あんた嫌いよ、キリ!」

「・・・私はそれ以上に貴方が嫌いですが」

「うるさいわね、少し黙りなさいよ」

憎まれ口にもキレがなく、動きにも速さがない。

「あはは!こんなものだっけ?レイナ!」

子供っぽく笑うキリ。かつて彼女を誘拐しようとした男の仲間。因縁の相手との再戦に、血湧き肉踊ったのもつかの間、レイラとレイナのコンビネーションなどあるはずもなく、それぞれが戦うという形式となる。

それは、キリの思い通りであり、手の中で踊る結果になった。

キリの【武器】は片刃大剣バスタードソード。一撃の威力を重視するその剣は、一撃で岩も容易く砕く。

レイラの脆弱な体はもちろん、レイラさえ切り裂けるような力を持ちながら、キリは生かさず殺さずの状態にする。

「できるだけ長く楽しみたいもの、リーダーからもいいよって言われたし」

絶望的な一言。私達はもう終わるのかという不安が脳裏をよぎる。

「まだ、終わりじゃないのです!」

地に臥せりながらもなお攻撃を続けるレイラ。血を触媒にした毒は、魔獣さえも死に至らしめる、筈だった。

「やだなぁ、私に流れてるのはレックスフォードの血だよ?」

「な・・・!?」

レックスフォード、それはこのギルシュ帝国における有力貴族が一つ。かつての戦争で武勲を取りまくった貴族として、その名は帝国中に広まっている。


力を使い果たしたレイラは、気絶する。

「・・・まさか、あの5年前の娘の失踪事件、その失踪したのは」

「そう、あたし。あたしはあんなつまらない家とっとと出たかったもの」

5年前に、レックスフォード家から失踪者が出るという事件があり、多額の賞金がかけられたものの発見できず、その失踪者は闇に葬り去られた。

「あはは、おかげで今、こんな風に楽しいもの!唯一あの家に感謝するとすれば、こういう風に毒とかが効きにくいとことかくらいかしら!」

狂喜。ただ蹂躙を、殺戮を求めるだけの狂人。レイナとレイラの眼には、キリは狂人にしか見えない。

「・・・本当に、それでいいの?」

「なぁに?今度は情に訴えるの?つまらないよそういうの」

キリの目から光が消え、姿がかき消える。

レイナの眼前に現われたキリから放たれる剛閃を、レイナはギリギリのところで防ぐ。

「あなたは、それでいいの?好きな人がいて、その人にそんな汚れた手で触れていいの?」

切実、それを具現化したような声でレイナが問う。倒れ、眠ってしまったレイラを休ませるために、自分が引き受ける。その一心で恐怖に耐えきるレイナ。

(あんな嫌いな奴だけど、絶対に殺させない!!)

決意すれば、人は強くなる。それでも限度はあるし、相手の心理状態や言動によって強さは変わる。

「あなたに好きな人はいないの?触れたいとか思わないの!?」

「いるよ、リーダーが大好きだよ!触れたい、喋りたい、なんならヤってしまいたい!!」

二人は叫ぶ。互いの、思いをこめて。

「なら、どうしてその手を汚すの!?血で染め上げて、どうするの!?」

「あの人の悲願を、叶えるためなら!私は何でもするって決めた!あの人の悲願に必要な、大事なことなの!!!」

鍔迫り合いへと持ち込まれ、さらに至近距離で叫び続ける。

「終わった後!!その悲願が叶ったら!あなたはどうするの!?」

「まだ続けるよ!こんな楽しい事、他にないもの!!」

心なしか、キリの力が弱まる。好機とばかりにレイナが押し切り、キリを弾き飛ばす。

「・・・うるさいなぁ、君には関係ないでしょう!!!」

大上段から振りおろされる一撃は衝撃波を伴ってレイラとレイナの元へと突き進む。床を、壁をたたき割って迫り来る斬撃は、恐怖を通り越した恐ろしさを帯びる。

砂煙を巻き上げて、襲い来る――


「さ、これで死んだでしょ。・・・目障りなのよ」

大技の反動か、息を荒くし、ふらつきながら最愛の人アスモの元へと急ごうとするキリ。

「・・・まだ、終わってないのよ・・・!!!!!!」

砂煙がはれ、頭から血を流したレイナが立ち上がる。

「・・・あの中で、生きてたの?」

「・・・ふん、技を防御して受け流したのよ」

防御音楽ブロックメロディー流水フォローイング>。攻撃を受け流す音色は、レイナとレイラの身を守った。

それでも、瓦礫や破片は防げなかったが。

「・・・レイナ!?血が」

「いいの、気にしない・・・それよりも、手伝ってくれる?」

目覚めたレイラに、真摯に向き合うレイナ。

「・・・気持ち悪いですね・・・いいですよ」

「ありがとうね」

二人の目に宿った光は、恋する乙女の光。

「・・・無駄よ、無駄無駄。私に勝てるとでも思ってる?」

「恋する女の子は最強なんですよ?」

レイラが挑発的に言い切り、レイナが剣を正眼に構える。

「――開演」

剣から音符が浮き出、剣の周りには五線譜が円となって現われる。

五線譜に載る音譜は音色を重ね、二重奏から三重奏、四重奏へと重厚な音楽となる。

「レイラ、載せてくれる?」

「ええ、すぐに」

五線譜に魔力を注ぎ込み、音符に色がつき始める。

「・・・無駄なのよッ!!!」

もう一度、振りおろす。

砂煙が晴れても――レイレイコンビは無傷。

「なんでッ・・・なんで無傷!?」

「私達は、音に守られてるんです」

「この心音が続く限り、この楽譜を展開している間は護ってくれる!」

色づいた音符が、響を大きくし、譜面を離れ行く。

「――レイナッ!!」

「ええ、やるわよ、レイラッ!!」

「無駄、無駄無駄無駄無駄!!何をしようと、私に勝てる筈がッ!!」

「勝てるんです!!私達は!!」

「なんで!?なんで勝てるって言い切れるの!!!!!!」

「わからないわよ!そんなの、私にだって!!」

「分からないけど!!それでも、私達は絶対に勝つんですっ!!」

二人の強い願いが、共鳴する――

「「<あの人へ届け、私の想い《ノンエディット・トゥルーノイズ》>ッッ!!!!」」

レイナが腕を全録で突き出し、放たれた渾身の突き。

砲撃のような一撃は、レイラによる魔法で強化され、さらに加速。

そして、二人の仲の悪さを表すかのような不協和音、恋の心拍、全ての想いを載せた一撃が、キリを襲う。

「あ、あ、あぁああぁあああぁぁぁああああああ!!!!!」

何かが外れたようなキリの雄叫び、不協和音ノイズは鳴り止み、キリが倒れる。

「・・・なんで、こうなるの」

「・・・私達の思いのほうが、強かっただけです」

「・・・どうせなら、あなたも全うに愛しなさい。それならきっと、結ばれるわよ」

「・・・ふふっ、馬鹿みたい」

辛くも勝利を収めた二人。そしてその最愛の人は――





「無様だな、貴様それでも英雄の子孫か!!」

「うるせえ、お前は黙ってろ」

切創、裂傷、痣も切り傷も無数、見るも無惨な有様のキバ。

「・・・くっそ、これ使うか・・・」

「その仮面、なるほど、使いこなすのか、それを」



















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