第25話 記憶に触れた。そしてもう一度。

夢を見た。

それも、あの日の回廊での夢。

奇妙な浮遊感と共に訪れるあれは、本当に記憶なのだろうか。

『あと少し、触れられれば・・・』

焦燥感がキバを焦がす。

『この記憶さえ見れれば・・・』

もどかしさがキバを苦しめる。

『そして、何なんだ、最後のあの記憶は・・・』

どこか懐かしい声音で、悪鬼を叫ぶ。

あれは、まさか・・・

『・・・また、時間切れか』




「おはよ~」

「ああ、おはよう」

男子寮のおかんこと、アイギスが今日も美味しい朝食を用意してくれている。

「今日、ほんと鍛錬の日じゃなくてよか」

突如、通信魔道具がけたたましく鳴る。

「は、はいどちら様で」

『あ?俺だけど』

「・・・人違いです」

切る。直後、けたたましさアゲイン。

「なんなんですか先生!?」

『今から演習場へ来い』

「・・・はい」

有無を言わせぬ口調だったので、従うことにした。




「お前はこれから、自分で自分の身を守らねばならない時が来る」

「はぁ・・・」

「という訳で今から組み手やるぞ」

「意味が分からないです」

「いや分かるだろ」

「何で今までの文脈から読み取れません」

「まあいいや・・・よし、準備いいか?」

「いいですけど」

「既に臨戦態勢じゃねぇか」

「それとこれとは別です」

鞘を繋ぐベルトを、腰に巻いて剣を体側へ持ってくる。

「さ、いつでも来いよ」

「・・・」

大きく息を吸い、吐く。隙だらけの筈が、逆に恐ろしくて近づけない。

「<黒居合くろいあい龍流りゅうりゅう>!」

剣を抜き、振り抜く。鞘から火花が散るほどのスピードで抜くが、抜ききる直前に領域<常闇の社交場>を展開、魔力を流した剣術に強化をかける。

「同時並行でそこまで出来るか・・・お前もう平凡じゃねぇな!」

「戦闘に関しては、ね!」

空を蹴って加速、蹴りを入れる。

「お、俺の剣が震えた。いい蹴りだ」

「喋ってる暇、ありますか!?」

風の魔術の応用、<風蹴リヴァント>。ある程度の距離から空を蹴って弾き、弾丸のような軌道を描きながら、空を駆ける。

不規則な軌道で、次の攻撃の方向が読めない。

「<風蹴リヴァント烈脚プロード>!!」

普通の大岩なら砕くほどの蹴りをフラーの剣に入れるが、ヒビ一つ入らない。

「もう少し、威力が出れば・・・!」

言いながらも宙を舞い、スピードを上げる。

「<黒魔道砲ダークキャノン直線ストレート>!!」

黒い太線が、フラーに向かって延びる。

「・・・!『第二段階』、<リッパー・チョッパー>!!!!」

刀身を大きくするだけの『第二段階』、しかし一振りで魔法なんて人参のように斬れる。

「まったく、俺じゃ無かったら間違い無く死んでたな・・・」

「畜生先生無傷じゃん!?」

嘘だろ!?と叫びたくなるのを堪え、また加速するキバ。

「<魔力放出・硬化>!」

蹴る瞬間に魔力を放出、一瞬で硬化させる。

「面白いな、でも甘いな・・・」

先生の空気が、一変する。

「<断包丁ノ壱タチボウチョウノイチ地断チダン>」

地を這い、うねるような斬撃。地面を裂きながらこちらへ来る。

「くっそ・・・<呪縛術・鎹柱かすがいばしら>!」

なんとか裂ける地面を繋いだものの、上手く調整できない。

「<断包丁ノ弐タチボウチョウノニ空断ソラダチ>」

「今度は空ですかぁぁぁ!!!!」

一直線に空中に伸びる斬撃。これはもう止めるとかいうレベルじゃない。

「もうこんなの倒せるかぁぁぁ!!!!」

逃げても逃げても斬撃は追ってくる。

キバは走った。

汗と涙と涎を振りまきながら逃げた。

面白いくらい無様だった。

「でも!逃げてちゃ!始まんないもんな!!!!」

自分で顔を張りながら、気合いを入れ直す。

「絶対に、勝ってやる!!!!」

決意のもとに、剣を構え直す。

「<剣圧術・睥睨へいげい>!!」

一点集中の剣圧、一瞬だけでもいい、動きを止められれば。

その一瞬、まさに秒を超えた速度フレームたんいの攻防。

到底その速さに、人間の体は耐えきれず、悲鳴を上げる。その悲鳴すら、呪いの力で強引に麻痺させる。

「もう今日の授業放棄しちゃってもいいですよねぇ!?」

「好きにしなぁぁ!!<断包丁ノ参タチボウチョウノサン時断トキダチ>!!」

「もう時間すら斬るんですねぇわかります!!!!」

もうテンションがありえない程あがったキバは、ありえない事を考えた。

「<呪縛術・時楔ときくさび>ッ!!!!」

時間を呪い、縛る。まともな人間ならたどり着かない思考。

「時間を縛る、か!!そりゃあ断てねぇな!!」

やはり時間を斬る、なんて技を使った後には反動が訪れる。フラーは硬直、キバは駆ける。

「失礼します!!<黒剣術こっけんじゅつ・月光>!!!!」

月光の如き素早い突き技。

「・・・肩の、それも服の部分だけを狙って、か」

「さすがに怪我させて授業に支障が出たら困りますし」

「戦場では、その甘さが命取りになるんだが・・・まぁいい。強くなったな!」

「ふふん!だって俺ですよ!!」

今回は、キバの勝ち。

次は負けない、そう思いながらフラーは演習場を後にした。




「・・・そういえば、レイナが誘拐された時の話を聞いてなかったな」

先生、うっかり忘れていた。


「ね、眠い・・・」

授業中、船を漕ぐ程眠かったキバ。それでも成績をなんとか非凡に。

もうすぐある期末テストに向けて、寝ずにがんばるキバだった。





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