第24話 最後の一日
「おはよ、ござます・・・・」
「キバくん!もー、別に休んでいいのに・・・」
「キバ!!あんた寝てなさいよ!」
「無理、禁物だよ~」
「いや、最終日だし、俺は全力でがんばる!・・・ぞぉ・・・」
「魔力、足りないんでしょ・・・」
「キバ~、分けるよ~」
アイギスの魔力がキバに流れ込む。
「お前、魔力量多いな・・・」
「キバの魔力、全快の八割くらいだしね~、軽いよ~」
「・・・平凡を恨む・・・」
「まぁ、昨日はキバのおかげで、ね?」
「・・・頭いたーい・・・」
「まぁ、お菓子作りは休んでいいから、ウエイターだけおねがい!」
「わかりましたー・・・」
「いらっしゃいませ」
「あらキバくん、顔がお疲れよ?はい、クッキーどうぞ」
「ありがとうございます」
「いいのよ、普段頑張ってるもの」
善意は人を良い気持ちにさせるものだ。
たとえそれが偽善であっても。
「ご注文は?」
「いつものを」
「かしこまりました」
3日も経てば、顔も覚えられる。
お気に入りのメニューも覚える。
「お待たせしました、カフェラテです」
「そうそうこれよ!」
ただ名前が出なかっただけらしい。
「ごゆっくりどうぞ」
毎日これを繰り返せば自然と身につく。
「いらっしゃいませ・・・あぅ」
急に足下がふらつき、倒れる。
「き、キバ・・・」
「・・・じょ・・・」
薄れゆく意識、キバは眠りにつくように意識を失った。
『眠りにつけ!悪鬼!』
『己が罪を数えよ』
『ここに、お前の居場所はない』
『お前ならやれるだろ?なぁ、――・・・』
(ここは・・・)
様々な映像や音声が入り乱れる回廊へと脚を踏み入れたキバ。ここがどこか、どんな場所かすら分からない。
ただ一つ分かるのは、途方も無く長い、ただそれだけだ。
(何故だろう、このまま進みたい)
何かに魅了されたかのように足を進める。
(どこか、見たことあるような・・・でも、こんなの俺は経験してない・・・)
既視感を覚えながら進む。進めば進む程映像は朧気に、次第に色彩も薄れ、音も雑音や途切れている事も増えた。
(一体、これはなんだ、ここはどこなんだ・・・?)
白と黒以外の色が無くなった世界、その中で唯一異彩を放つ、いや色彩を持つ映像。
『ここは我の領地とする』
『それは余りに身勝手だ』
『その地は我々が支配した筈だ』
『貴様、我の前で狼藉を働くか!?』
『そもそも貴様がこの地に無断で立ち入る等と言う暴挙を――』
『貴様ら、我を―――』
『――――よ、貴様は――』
音が掠れ、消え始め・・・
ついに、何も聞こえなくなった。
それでも最後、一瞬だけ見えた。黒い龍。あれはきっと、
『もし、いるのなら・・・』
『この「原初の記憶」に立ち入る者がいるのなら・・・』
『この無数の「記憶」に触れられる者がいるのなら・・・』
『後世の者に伝えて欲しい・・・』
『まだ、奴は――』
『悪鬼は、まだ生きている』
『奴は
『もし、「来たるべき時」が来たのなら・・・』
『我々は、汝に力を貸そう』
『この命、いやたとえ概念のみの存在になろうとも――』
『『『我々は、汝の味方である』』』
『そして、最後に――』
『「呪い」は、悪鬼が原因だ――』
「な、・・・おい待て!俺はまだ・・・!!!!」
言葉は途切れ、回廊は崩れ――
「待て!!」
「うわぁ!?き、キバ!?」
「・・・あれ?」
見慣れた、浪漫亭の仮眠室だったのだ。
「あ、起きた?いけそうなら、仕事に戻ってくれると嬉しいな!」
そしてまた、仕事に戻るのだった。
激動のランチタイム、怒濤のアフタヌーンティーを切り抜け、迎えた午後5時。
別れの時が、訪れた。
「店長、ありがとうございました!」
「店長の淹れてくれた紅茶、美味しかったです!」
「今度、是非一緒にお菓子作りましょうね~!」
「うん・・・!」
ナツキは名残惜しいのか、少し泣いていて。
「店長、泣かないでくださいよ」
「泣いてないもん!!・・・あ、これ」
差し出されたのは、小さな袋。
「少しだけだけど、これお菓子!皆で一緒に食べてね!」
「はい!」
「そしてキバくん!」
「何ですか!」
「これ、通信の魔道具。何かあったらいつでも連絡してね!」
「分かりました!・・・本当に、ありがとうございました!」
「うん!皆元気でね!またここにおいで!」
姿が見えなくなるまで手を振ってくれていたナツキの姿は、キバ達の目に焼き付いた。
場所は変わって、中級区中通り。
(さて、今日で職場体験も終わり、また多忙な日々か~)
フラーは次の授業はどのような物にしようかと考えながら、一人歩いていた。
後ろに気配を感じ、一瞬歩みを止める。
「フラー・チョッパー、話がある」
「・・・誰だ」
「お前が軍に属していた頃の、知り合いだ」
「・・・!お前、ほんとに何者だよ」
「お前なら分かるだろう・・・、それより、<
「・・・何だと!?あの部隊が!?」
「そうだ。<
「つまり、何が言いたい・・・?」
「貴様が願った『平凡な平穏』はすぐに崩れる、それだけだ・・・」
「・・・おい、待・・・」
咄嗟に後ろを振り向くが、誰もいなかった。
(おい、これは、まずいのでは・・・!?)
「我々がキバを守るのよ、どんな手を使おうと・・・!」
「部隊長、素性がある程度掘り出せました」
「あら、ありがとう。・・・絶対に、守るわよ」
<
「呪いに、粛正を」
「呪いに、裁きを」
「我々が、奴に正義と言う名の鉄槌を」
<
本来なら動くはずも無い運命の歯車が、動き始めた。
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