第23話 「絶対音感」と「絶対平凡」

「これが私の『第二段階』、<楽聖の譜面マエストロ・ノーツ>!!」

辺りに交響曲のような、重厚な音が生まれる。

『キバ、私の指揮に合わせて!』

頭の中に直接語りかけてくる。

「・・・了解!!」

『まずは、三重の盾!』

「<摂理セオリー三重トリニティ>、<三重の盾トリプルシールド>!」

瞬間、短剣が飛んで来る。

「ありゃ、防がれたか・・・おかしいな、障壁破壊属性を付与したはずだが」

「三重になりゃあ、そう簡単にゃ割れねえよ」

「・・・面白い」

『次、剣と加速を利用して横に蹴り!』

「〔延びろ〕、<延長ロング>、おらぁ!」

延ばした剣を軸に空中で加速、横蹴りをかます。

「ここまで楽しめるのは、貴様らが初めてだ!」

迫り来る拳。しかし、遅く、見切れている。

「はっ!!」

同じように拳で対応する。相手の拳から、小枝が折れたような音が鳴る。

「・・・なるほど、貴様、よほど修練を積んだな。俺も全力で相手をしよう」

「・・・今ので何割だ?」

『3割ね』

「3割だ」

当たってる。

「なら、俺も全力でいかねえとな」

(でも、仮面はよほどの事が無いかぎり使いたくない、なら、摂理セオリーで攻めるしかないな)

『ふふん、絶対音感は当たった時の音で見分けれるのよ!キバ、六重にして、威力上昇を五回、そして居合いを使いなさい』

「おけ、<摂理セオリー六重ヘキサ>、<五枚威力上昇フィフスブースト>、<居合い・狼追上橋ろうついじょうきょう>!」

弓なりの軌道を描く居合いを選択。間違い無く当たる攻撃で、相手の持っている短刀を砕く。

『そのまま突っ込んで、一回横に斬る』

「お、らぁ!!」

「む・・・!!」

男は腕で受ける。

斬れていない。

「まったく、私の魔法属性が『鋼』だったからよかったものの・・・」

「なるほど、『鋼化こうか』したのか」

「ああ・・・」

「だけど、俺の剣、鋼も斬るぞ」

「・・・!!」

腕から血が流れる。

隙を見逃さず、一閃。

今度は火花が散る程激しく斬るも、斬れてはいない。

『・・・キバ、一旦、独奏ソロしてもらっていい?』

「おけ、任せろ」

言うが早いか、動き出す。

「〔踊れ、踊り狂え!〕<常闇の社交場>!!!!」

黒魔術強化の領域を展開し、独奏の開始。

地を蹴り、宙を蹴る。跳弾の如き反発と速度で、相手を斬り付ける。

「<摂理セオリー二重デュオ>、<速度超過オーバードライブ>、<浸食毒エリジオンポイズン>!」

神速で切り傷を付け、そこから毒を流す。

これも黒魔術の一種なので強化がかかっている。

「・・・毒か、こんなの初めてだ」

『よし、今からもど・・・左に飛んで!』

「・・・!わかった!」

すぐに飛ぶ。


今居た地点が深くえぐれていた。


「まったく、店長は・・・」

「いや~ごめんねキバくん!調整ミスった!」

「店長ほんと気をつけてくださいよ!!!!」

「久々にやると、なかなか大変だね~、<居合い・鬼腕おにかいな>」

「・・・なんすか、居合いの基本って止まって、抜くんじゃぁ・・・」

「私が使う<鬼道流きどうりゅう>は『使えるものは何でも使う』が信条!動きのエネルギーも一撃のエネルギーに変えるのさ!」

「・・・私の存在を忘れてはいけないな」

「・・・こりゃ強そうだね、二人でなんとかってレベルか」

「そんなレベルっすか」

「うん、多分、相当な手練れだね・・・」

「・・・お前らには分かるまい、に強制的に訓練された、あの日々を」

一瞬、とてつもない闇、憎悪がこちらにひしひしと感じた。

「それでも、俺はお前を倒す」

「・・・できるものなら、やってみろ!」

一瞬で駆け、鋼の硬度を持つ拳が眼前に迫る。

「ちっ、堅いな・・・」

「これ、斬れないのかねぇ・・・」

「多分、俺の仮面を使えばいけるだろうけど・・・」

『ナツキさん、キバ!あの腕、真ん中が弱点!少し脆くなってる!』

「・・・狙えねえ・・・」

「あ、任せて。<居合い・鬼合きあい>!」

一撃に重きをおいた一閃。狙った腕の真ん中に当てる。

「・・・ほう、斬るか、腕を」

「ええ、これでも「鬼」の血を引いてる一族でね」

「東方の国か・・・より面白い奴だ」

鉄のように溶接され、腕が再生する。

「・・・店長、今ならいける気がする」

「ほんと!?・・・それなら、僕頑張っちゃうよー!!!!」

「・・・お願いします!」


「さ、という訳で君にはちょっとまってもらうよ!」

乱杙の刃で攻めるナツキ。

「ほう、これはなかなかの痛み。おもしろい、私を斬ってみろ!!」

「まだまだ本調子じゃあないけど、あと数分はね!」

「・・・白けた。お前じゃ満足できなそうだ」

「経験なくてごめんね!夜の相手は無理なのさ!」

「・・・そういうことではないが・・・」

「あーもう考えるのやめた!くらえ!<鬼道流剣術・豆潰し>!」

正確な一点を貫く刀、しかし貫通しない。

「店長、できました!!!!」


『また会ったな、小僧』

『小僧じゃねえ、キバだ』

『・・・ははは!ここまで面白いのは初めてだ!おいキバ、お前、よほど俺の力が欲しいか!?』

『・・・お前がそう言うなら、いらない』

『・・・は!?』

『そういうタイプの奴は嫌いだ。そんなことをするくらいなら自分でやる』

『・・・く、くく、はははははは!!!!面白い!あれほど平凡だったお前が、それを言うとは!』

『個性のようにも思えてくるけどな』

『お前は今まで絶対平凡だった。それがここまで成長したんだ。手を貸さない訳がない』

『そうか。・・・なら、頼む』

『任せな』


「やるぞ、ウロボロス!」

『おう!呪力と魔力を剣に流せ!』

今つぎ込めるのを、ありったけ。全部流す。

『練り上げた、いけるぞ!』

角度上方三十五度かくどじょうほうさんじゅうごど、静止完了、・・・」

刹那の静寂、数瞬の後――

「『放つ!<居合い・理崩しの刃ことわりくずしのせんげき>!!』」

鞘からも、斬撃に触れた相手の腕からも火花が散る。

振り抜いた腕は空気摩擦で少し焦げ、煙をあげる。


相手の腕が、斬れた。

断面は平ら、痛みすら感じない切れ味。

「ここまで成長するか、面白い・・・!」


「あーあー、これは派手にやられたねぇ、イアン」

「!!!!誰だ!?」

近くの屋根に、少女が腰掛けていた。

「あ、私~?私は、キリ。<時と傾国の儕オールデリーターズ>の一員さ」

(聞いた事も無い組織。まさか、あの組織って、これか・・・?)

「とにかく、イアンはもらうよ~、大事なだもんね」

その「仲間」という響きは、歪で、どこか暗い所があった。

「あ・・・!おい、待て!」

「ダメだキバくん!今の君じゃ、勝てない・・・!」

「でも・・・」

「いいんだ、今はレイナちゃんが帰ってきたんだ。さぁ、お店に戻ろう」


職場体験二日目、波乱はあったものの、被害は無し、強いて言うなら、この後キバが魔力不足で倒れたくらだった。

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