第22話 崩壊するほどの圧

「ここか・・・」

「絶対に、助けるよ」

意を決し、扉を開く。

「よぉ、待ってたぜ」

「・・・早く、レイナを返せ」

「それには、俺達を倒さないとなぁ」

「ははは!こんなへなちょこ、俺達でちゃちゃっと」

「黙れ」

キバの右目が、激しく光る。


『まったく、無茶な事しやがって・・・』

「俺は、レイナを助ける」

『・・・そういうのは、嫌いじゃねえ』

「そうか・・・」

『でもな』

「俺は」

『「ああいうゲスが嫌いだ」』


たった数言しか話していないが、一瞬で対話が成立、感覚が接続リンクする。

「俺は」

『お前らを』

「全力で潰す」

そう言って、剣を少し抜く。


何かがさけんだ。


まず感じたのは、頭の芯まで届く叫び声。怒りが奔流となって流れ込み、冷酷な気配が肌を刺し、憎悪が足下をすくう。

絶望と恐怖が体の内側から染み渡り、立っているのも精一杯。

何人かは気絶し、十人程度が放心した。

「ぼ、ボス!逃げて下さい!」

「ああ!畜生、なんなんだこのバケモン!」

「逃がすか!〔待て、ボケ共〕!<呪縛術・鎹柱かすがいばしら>!!」

近くの物と、金具で止めたかのように縛る。しかし、首魁の逃げ足が速く、奴を止めれなかった。

「キバくん!行け!」

「了解です!」

キバは駆け出し、ナツキはただひたすら立つだけ。

二人の戦いが始まる。



(敵は二十名、内六名はキバくんが剣圧で気絶させた・・・)

「姉ちゃん、今なら許してやるから、素直に謝」

刹那、男の体に切り傷が走る。

「いっ、ぎゃあああ!?」

「これ以上僕に近づくな。・・・切り刻むよ?」

その手には、刀があった。それも、大きな刀身に、鋭く、乱杙になった刃がついた、凶悪な刀。

「削れ、『酒呑童子』」

呼応するように、刀身が鈍い紅に光り、刀身から出た気迫が、威圧する。

鬼のような、禍々しさを振りまく。

腕が横一文字に振り抜かれる。

腹に、一条の切り傷。

先ほどの物とは比べものにならない程えぐられ、食い散らかされたかのような傷だ。

「・・・久々だと、加減がなぁ・・・」

鬼のような凄絶な表情を浮かべながら、呟くのだった。



「あああ!速いんだよあの野郎!」

全力で空を駆けながら、キバが叫ぶ。

「いたぁ!<摂理セオリー六重ヘキサ>!<六枚使用発射方陣カタパルト>ォッ!!」

鋭角の如き鋭さで急降下する。

「レイナ!掴まれ!!」

「うん!!!!」

レイナ、救出。

「お前、絶対しばく」

「ほう若造、言うじゃないか」

「黙れ、お前は今から何も言えなくしてやる」

「・・・その足手まといを守りながらか?」

「・・・うるさい!」

言いながら斬りかかる。

「おぉ、怖い怖い。触れる物皆壊す思春期かな?」

「やかましい!絶賛思春期じゃ!」

言いながら加速し、蹴りをたたき込む。

「ほう、なかなかやるな。だが甘い!!」

一瞬の隙を突かれ、一撃を入れられる。

「く・・・」

骨にひびが入るが、再生でカバー。

「レイナは足手まといなんかじゃねえ、俺達の大事な仲間だ!」


(私は、どうすれば・・・)

レイナは考えた。自分がまったく戦わず、キバ一人に任せ、しかも防戦にさせている。自分が情けないと思った。


「レイナは足手まといなんかじゃねえ、俺達の大事な仲間だ!」


その一言で、世界が変わった。

「そう、そうよ・・・私は足手まといなんかじゃない!私は、キバ達の仲間だ!私が、皆の士気をあげ、指揮をとるの!!」

大切すきな人の、たった一言。それだけで、恋する乙女は頑張れるのだ。

「いくよ、キバ。私の演奏会を始めるの!!」

レイナの剣の形が変わる。

細く、しなやかに。しなるほど。

刀身の音符は宙に舞い、弾む。

「これが私の『第二段階』、<楽聖の譜面マエストロ・ノーツ>!!」


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