第26話 くろいもや が あらわれた !

「それでキバ、何かわかる事はあるか?」

「えーと、主犯を回収しに来た奴がいたんですよ。<時と傾国の儕オールデリーターズ>って名乗ってましたね」

「・・・!・・・最悪の事態になりかねねぇ・・・」

「・・・どういう事、ですか?」

「奴らは、お前らみたいな「呪い」を持った人を誘拐しては、実験や拷問を繰り返す、いわば『反呪組織はんじゅそしき』だな。一応<三部隊>にもあるが」

「その<三部隊>って、なんですか?」

「これは軍事機密だから教えられないが・・・まぁその反呪組織は基本呪いをよしとしない組織でな」

「つまり、俺は・・・」

「あぁ、そう言う事になる・・・嫌な思いさせちまったな、飯でも食うか!」

気づけば時間は七時、通信魔道具でアイギスに連絡し、ご飯を食べることにする。

「・・・俺のおごりだから、遠慮するなよ」

そう言って、フラーが連れていったのは――――




「・・・え、えぇ!?」

まるで御殿の如きレストランだった。それはもう光り輝く王城のように荘厳なたたずまいで。

「・・・先生、ここって」

「黙って入るぞ」

「サーイエッサー」

これはもう、行くしかあるまい。ビクビクオドオドしながら廊下を進む。

「おや、フラー様、本日は・・・?」

「奥の個室を」

「承りました」

慣れた様子で言うフラー。

「・・・えーと先生?冗談じゃ」

「ないけど」

「嘘でしょ?!」

「嘘な訳あるか」

「嘘だそんなこと」

煌びやか過ぎて気が引ける。

「これもう何を頼めばいいんだ・・・」

「好きなの頼め」

「無理無理無理ぃ!!!!」

メニューを見たが、どれもこれも普段見てる桁に3つ足さなければいけない。キバは胃が収縮し、今すぐ学食のサンドイッチを貪りたくなる。

というか公務員の薄給でこんなの食べられるのか。

「・・・せ、先生?俺ここちょっと下ったとこに美味しい飯屋があるのを」

「面倒くさいからここで食え」

「何を食えと!?」

「いやあるだろそこにファイアーコースとかハイパーコースとか」

「高すぎるんですよぉ!?」

「どこがだ。こんなの全然安いぞ」

「あなたの金銭感覚どうなってんの!?」

「そんな普段の飯より二桁高いくらいで物怖じするな」

「あんたふざけてるだろ!?」

「ふざけてない、大真面目だ」

「何食べればいいんだ・・・!?」

「あ、すいません。このウルトラコース二人分」

「・・・え」

「かしこまりました」

「そ、そんなぁ・・」




「どうした、食べないのか?」

「いや、緊張して食べれないだけです」

「おいおい、今のうちに食っとけよキバ、お前今育ち盛りなんだから」

「そうですかねぇ・・・」

「やぁ、お二方」

「貴方は?」

気のよさそうな青年が、こちらに向かってやってくる。

「お名前をお伺いしても?」

「フラー・チョッパーだ」

「キバ・ロンギです」

「キバくん・・・!まさか、士官学校に通ってる?」

「はい、そうですが・・・」

「やっぱり、君か」

「ええ、何故、ご存じで?」

「そりゃあ、僕のいる組織でも有名だからさ」

「組織・・・!?」

「名乗り遅れましたね・・・私はアマガ・ザイ。<時と傾国のオールデリーターズ>の一員です」

「ッ、<ターズ>かよ!?」

反射神経は一流、一瞬で逃げる。

「えぇ、その略し方は不服ですが、認めましょう」

「くっそ、なんで飯まで邪魔されるしぃ!?!!?」

「それはあなたがキバ君だからですよ!」

「俺の存在意義とはぁぁぁぁ!!!!」

「ありますよ、我々の研究材料としてね!」

「こいつ爽やかな顔面しながら何言ってんだ!」

気づけば店の外だ。

「キバ、お前はここにいろ」

先生が包丁を構え、静かになる。アマガも細剣レイピアを構えて、臨戦態勢。

そして次の瞬間、攻防が始まった。

火花が散り、剣戟が響き、刃が交差する。

(お、俺も参戦するべきなのか・・・!?)

立ち入る隙もないような戦い。

(せめて、呪縛だけでも・・・)

しかし、縛れるほどの速さではない。早すぎる。


いきなり、レイピアが目の前に飛んできた。


「ひ、うおわあああ!?」

あ、目潰れたわ。

そう予感したキバ。咄嗟にめを閉じた。

しかし、いつまで経っても痛みは訪れない。

「・・・あれ?」

恐る恐る、目を開ける。


自分から出た黒いもやが、自分を守っていた。

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