第20話 剣の圧力

「うぅ、怖かった・・・」

「ごめんね!本当にごめん!」

時刻は13時、奥様も帰り、今は少し休み、みたいなものだ。

「そういえば店長、さっきやったは何なんですか?」

「あ、あれはね、・・・いろんな呼び方があるけど、僕は「剣圧」って呼んでる」

「剣圧・・・!」

「うん。ヤマトの方ではこれを使いこなせれば一流、って考えもあるほど。これの習得には普通の人なら10年は」

「嘘だろぉ・・・」

「僕は3年で習得できたよ」

「えぇ・・・」

他愛もない話に花を咲かせていると、

カランコロン・・・

「いらっしゃいませ」

一瞬で営業モードに切り替わるキバ。入ってきたのは帽子を目深に被った中背の男性。

「ご注文は」

「とにかく、この店の甘い物を、全種類・・・」

血走った目、少し掠れていながらもどこか聞いた事ある声で言われる。

「かしこまりました」

ただし、無闇に詮索はしない。注文を伝え、少し待つ。

「・・・あぁ・・・やっと」

(な、何なんだ・・・・?)

「ようやく、悲願が・・・!」

「おいちょっと待てぇ!!」

うっかり大きな声でつっこんでしまう。

「ちょ、いきなりなんだよキバ!」

男がキバの名を呼ぶ。

「誰だお前!?!?」

「俺だ、ゲイン」

「・・・は?」



「ゲイン、仕事は?」

店長に許可を取って個室を使わせて貰う。

「・・・ノーコメントで」

「そうはいかねえ!お前、俺の手にある物が何か、分かっているな?」

「そ、それは・・・!」

「そう、通信魔石だ。これに念じればいつでも先生やポート、ソバーに連絡が」

「やめろお!やめてくれぇ!」

「やめて欲しければ今すぐ事情を吐け!」

「わかったよぉ!・・・俺達、配属されたのが商店街マーケットなんだよ」

「ほう、それで?」

「エプロンを着て、様々な店へ素材や商品を運ぶんだ」

「ふむふむ」

「そしたらな、朝ご飯や軽食をくれるんだ」

「いいじゃねえか」

「甘い物が何一つ無えんだよぉ!!」

「そりゃてめえの好みなだけじゃねえか!!」

「おまたせしました!」

「お!・・・あぁ、甘い・・・!」

「食ったらさっさと戻れよ」



あの後、一人で凄まじい量の甘物を食べたゲインは、凄まじい額をなんとか払い、財布が軽くなった。

「で、剣圧って俺でも習得できますか?」

「できるよ。というか、剣士は誰でも習得できる」

「・・・本当ですか」

「ええ。何なら稽古もしてあげる」

「お、お願いします!」

「じゃあこのお店が終わる5時までがんばってねえ!」

「はい!」

俄然やる気が湧いてきた、キバ。この後アフタヌーンティーに来たお客さんに凄く気に入られていた。



「お疲れ様でした~」

「では、また明日」

「うん、よろしくね!」

午後5時。店も終わり、アイギスとレイナは寮へ戻る。

「じゃ、僕たちも始めよっか!」

「はい!」



店の少し奥の通りに、大きな屋内鍛錬場がある。公共施設で、国が運営しているのだ。

「まず、剣圧って言うのは、【武器】と心で繋がらなきゃなの」

「心で、ですか・・・」

「うん、【武器】の声が聞こえれば、通じてるね」

「声・・・」

「僕の【武器】はこの『酒呑童子』と、もう一本。この酒呑童子とは、凄く仲が良いの。だから、僕が怒れば酒呑童子も怒る」

「凄い、信頼関係ができあがってる・・・」

「君も、これから構築していかないと」

「ですね・・・!」

両手で『ウロボロス』を持ち、語りかける。


『初めまして、かな・・・?俺はキバ、君の持ち主だよ。もしよければ、話してくれないかな』

どこか広い空間にいるような感じがする。

キバの声はむなしく反響するばかり。

一方通行の声。

『ウロボロス、いるのか?』

『・・・ぁ、・・・』

『!!ウロボロス!』

『ぃ・・・、・・ぃ・・・ゃ』


「・・・くん!」

徐々に覚醒していく。

「キバくん!」

「・・・うぉ!?」

眼前にナツキの顔があり、驚いて顔を上げる。

がっつり頭突きをかましてしまう。

「いでっ!」

「あだっ!」

しばし無言でもだえる二人。

「・・・すんません、ナツキさん」

「いや大丈夫だよ~!それより、話せた!?」

「それが、最初は一方通行だったけど、最後は少しだけ聞こえました」

「ほほう、それなら習得も近いかも!」

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