第19話 喫茶 浪漫亭
「ここかぁ」
「なんか、良い感じのお店だね~!」
「すごく雰囲気いいし、香りも・・・」
中級区、少し込み入った路地。そこにある「喫茶 浪漫亭」がキバ達一班の職場体験場所だ。
木製のドアを開け、店に入る。
「・・・すいませーん」
・・・
「誰もいねえじゃねえか!!!!」
「お、落ち着いて~!、キバ~」
「し、静かになさい!ここ一応職場体験受け入れてくれたのよ!?」
「一応ってなんだ一応って!」
結局全員騒いでるが、誰一人として気づいていない。
カウンターからむくりと起き上がった人の事を。
「・・・あ!ごめんなさい!さっきまで寝てました」
「イヤァァァカウンターカライキナリヒトデテキタアアアア!!!!!」
「ごめんなさいね!ほんとごめんなさい!」
だいぶ、いやとてつもなく騒いでいる。時刻は9時。まだ寝ている人も多いのだ。
「先ほどはすいませんでした・・・」
「ああ、驚かせた僕も悪かったから・・・」
一人称こそ「僕」だが、出てきたのは物腰柔らかなお姉さんだった。
「本当にすみません・・・俺は、キバ・ロンギ。ここの班長?です」
「アイギス・フォートレスです~」
「レイナ・シンフォニーです」
「丁寧にどうもありがとう。僕はナツキ・キサラギ。ちゃんと言うと
「よろしくお願いします。ナツキさん、もしかしてヤマトの出身ですか?」
「お!正解!よくわかったねえ」
「同級生に同じヤマト出身の奴がいるんで」
「なるほどねぇ・・・あ!ちょっと手伝ってほしいんだけど!」
「はい!」
「えっとね、このお店は11時開店なんだけど、それまでにお茶菓子を作るの」
「なるほど」
「でね、君たちにはクッキーを作ってほしいの!あとね、レイナちゃんは私のほうを手伝ってくれる?」
「はーい!」
「クッキー組、そこにレシピあるから、マスクとエプロンして、手洗って作ってね!」
「うす!」
「はーい!」
「レイナちゃん、私と一緒にタルト作るよ」
「え、タルトですか!?」
「ええ。今日はリンゴかな」
「私にできるかな・・・」
レイナは半端ない不器用なのである。
「大丈夫!僕が手伝うからなんとかなるよ!」
「・・・はい!」
「よーし、じゃあクッキー作るか」
「任せて~」
机の上には小麦粉、卵、バター、砂糖。また作るのに必要な道具も揃っている。
「えーと、混ぜ合わせて・・・?」
「・・・どけ」
「・・・・え、今なんて?」
「どけって言ったんだ」
「ひっ」
鬼気迫る形相でアイギスが言ってくるものだからさしものキバもひるむ。
「アタタタタタタタアタァ!」
凄まじい速度と手際でクッキー生地と型抜きを終わらせる。
「・・・キバ、リュックの中の茶葉と粉末リョクチャ、あとコーヒー取って」
「あ、アイサー」
何をするのか知らないが、ビクビクしながら手渡すキバ。
一瞬見えたアイギスの顔は、修羅のようだった。
「お、良い匂い・・・」
「あ!クッキーできたみたいね!・・・これ、誰作ったの?」
「あ、僕で~す」
いつものアイギス。
「これ、すごいね・・・あとで作り方教えて?」
「いいですよ~」
午前11時。喫茶 浪漫亭開店の時間だ。
「いらっしゃいませ」
奥様一名ご来店。
「お好きなお席へどうぞ」
無駄に話さない。大きな声を出さない。落ち着ける喫茶店の鉄則だ。
「何になさいますか?」
「あ、コーヒーと、そうですね、クッキーを」
「クッキーは本日4種類ございます」
そう言ってメニューを差し出すキバ。
「あら、迷うわね・・・でしたら全て一枚ずつ」
「かしこまりました」
なんだか自分の気持ちも落ち着いてきた。
アイギスは中で紅茶や料理、店長もコーヒーを淹れるのだけは譲れないというのでキバとレイナがウエイトレス、ウエイターだ。
カランとドアのベルが鳴り、お客さんが入る。
「いらっしゃいませ」
入ってきたのはガラの悪い大男。
「ご注文は?」
レイナが聞きに行く。
「そうだなぁ・・・紅茶、コーヒーを一つずつかな」
そう言って、レイナが帰ろうとすると、下卑た笑みを浮かべてさらっと尻を触る。
「・・・ころ」
「落ち着けレイナ」
耳打ちする。
「今ここで刺激すればろくな事にならねえ、落ち着け、後は俺が」
「ちょっと!何うちの店員に痴漢行為はたらいてんの!」
「ちょ、店長!?」
俺が何とか沈めてたのに!!そう思うキバを放っておいて、ナツキはずかずか進む。
「お、あんたも中々美人じゃねえか・・・どうだい、今からちょっと」
「あんた達、二度と僕の店に入んないで」
一瞬だった。さっきまで熱くなっていたナツキの声は、急に冷え切った。
「お客様、少しこちらへ・・・」
先に来ていた奥様を奥の個室へ送り、店長のもとへ。
「あ、なんだ?俺達に喧嘩うろうっての?」
「へっ、どうせ弱いくせに俺達と喧嘩して、んで負けるんだろ」
「・・・キバ君、アイギス君、レイナちゃん」
「・・・何ですか」
「失神しないでね」
そしていつの間にか腰のあたりに装備されていた刀の柄に右手を添える。
そして、鍔を少しだけ押し上げた。
「あっ・・・・」
「ひっ・・・」
男達の表情が畏怖に染まり、失神する。
あのツルギの本気の殺意と同レベル、もしくはそれ以上の圧力。
冷や汗があふれ出た。
アイギスの腰は抜け、レイナは半泣き。
店長が二人を縛り、店の外へ。
「ごめんね!ほんとごめん!」
いつの間にか素に戻っていた店長が、非常に恐ろしかった。
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