第17話 呪いの力

「〔離れろ〕、<乖離斬かいりざん>!」

口許に溜まっていた砲撃、魔力供給を断つ。砲撃は不発に終わった。

「<摂理セオリー八重オクト>、<八枚全加速オールブースト>」

弾丸の如きスピードで鯨に近づく。

「お前じゃ、俺にゃ勝てねえよ。<アサルトエッジ>」

剣を横向きにし、突く。縦方向の斬撃で、仮面に切れ込みが入る。



(火力が違えな・・・)

理由は、あの仮面。あの異形の呪いは『筋力異常』。超人的な筋力を使える。しかし、当然筋繊維はどんどんちぎれる。それを再生する。仮面で暴走は抑えられるからある意味無限に戦える。しかし、問題があった。

(右目が、やばいんだよ・・・)

痛い。痛すぎる。この状態、一時的に「ウロボロス」と同じような体質になっているようなのだが、どうも痛みは変わらないらしい。

(まあ、頑丈になれるのと『法則』をガン無視できんのはいいけどな・・・)

まわことわりを崩す龍』。それこそがウロボロスなのだ。

故に、本来地に落ちるはずの体は空にとどまり、通常なら速すぎて腕も焦げるような速さの突きも関係無く無傷で行える。

ただし時間制限も在り、体質になれる時間は最大4分。つまり、4分で決着をつけなければならないのだ。



「くっそ、もう30秒経っちまった・・・」

もう八分の一の時間が経っている。

「〔噛み砕け〕、<バイト・ドラグニア>!」

下に向けた剣で刺す。しかし、刺した場所は弱点では無かったらしい。

「飛べ、<黒龍鱗ノアール>!」

周りに浮いた黒い小刀が凄まじい勢いで飛び交い、仮面を刺す。

「集合!<黒龍剣ノアールジョイン崩廻理龍ウロボロス>!」

龍のような大剣が生成され、気迫も段違いになる。

(しかし、もう二分経った。次で決める!)

一瞬にして呪力、魔力共に一点に集中。

「〔止まれ〕、<呪縛術・くさび>!」

鯨の体のど真ん中に楔が打ち込まれる。

「決めてやる。<摂理崩壊セオリーブレイク十二重の龍牙ウロボロス・ファンギング>!」

円環龍の摂理ウロボロス・セオリー>の上位互換、<摂理崩壊セオリーブレイク>。本来、八重までしか詠唱できない術式を、十二重にする。いわば、摂理に反する、もしくは崩壊させる。それこそがこの仮面を使う最大のメリットなのだ。

「全部、斬ってやらぁ!!!」

斬撃を放つ。軌道を見て取れるのは先生と師匠のみ。

「おらぁぁぁぁぁぁ!!!!」

縦横横横縦斜め斜め突き縦縦横刺し突き縦横回転突き縦横縦縦縦斜め切り上げ切り下げ横縦斜め突き横薙ぎ唐竹割りにするも失敗しかしそれでも縦下切り上げ突き突き横縦縦斜め切り下げ細かく横縦突き突き回転斜め切り上げ縦横縦横横渾身の縦一閃!!


キィンッ!!


仮面が割れ、黒い本体と弱点である宝石が現われる。

残り5秒。

「うおおお!!!間に合え!」

残り4秒。

「<摂理崩壊セオリーブレイク崩廻理龍の慟哭咆吼シューキングロア>!!!」

残り3秒。突進するような突き。伴う音は、龍が泣き叫ぶような轟音。

「俺が全部守るんだぁぁぁぁ!!!!」

残り2秒。宝石に振れ――

「砕けろぉぉぉ!!!!」

残り、1秒・・・


ピシッ、ガキィィィィンッ!!!!!


残り0.002秒、呪鯨、崩壊。


残り0秒。キバの仮面が外れ、落下する。

(あ、やべ・・・)

魔法を構築するほどの魔力は無く、再生するための呪力もない。

(ここで、終わりか・・・)

突如、落下が止まった。

「・・・ぇ」

「まったく!お姉さん心配したんだからね!!」

「え、ちょ・・・ナギさん!?」

「もう!悪い子は嫌い!」

「わ、分かりましたから!む、胸が・・・!ガクッ」

英雄は、鼻血を噴いて気絶したのだった。



「いや~、あそこまでいけたか・・・」

「ツルギ、俺あいつと違うんだな・・・」

「大丈夫、カインも頑張ればできる。私が言うんだから間違い無いよ」

そう言って、師匠ツルギは向こうを向いた。

その目には、少し涙が浮かんでいた。

「・・・さあ、帰ろうか」

その涙を隠すように、彼は明るく言い放ったのだった。

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