第15話 1ヶ月の成果、目覚め

「おいおい、1ヶ月粘ってまだ攻略できねーの?」

「残念、今日は俺も勝てる策を持ってきた!」

6月24日。5月24日からずっと負け続きのキバも、今日は秘策を持ってきた。

「じゃあ、始め!」



合図が響き、スタート。

「今日もまた一人分・・・あれ、動かねえ・・・」

キバが、微塵の動かない。

「・・・怪しい、〔四手から放たれよ、熱風〕、<フォースヒート>」

遠距離から四本、熱風を放つ。

それでもキバは、剣を構えたまま動かない。


(まだ、まだ・・・)

キバは、熱風が放たれても動じなかった。普段なら騒ぎ、喚いて逃げるところを、逃げなかった。

(あと少し、脚に・・・)

靴の底に仕込んだ魔方陣に、ひたすら魔力を送る。

「・・今!」


キバが、地面を思いっきり蹴る。

少し体が浮き、落ちる前にもう一度蹴り、さらに蹴り、ずっと蹴る。

熱風を避け、宙に舞う。

「よし、成功!」

最後にもう一度蹴る。

「・・・空、んだ・・・」


属性魔法を苦手とするキバだが、風属性の魔法は少しできた。それを応用したのが今回の戦法だ。


「ここなら、俺の独壇場だ!」

「それはどうかな!?」

手に乗って空を飛ぶツルギ。まさに空戦だ。

「〔放たれよ〕、<熱波>!」

魔術の短縮詠唱。一直線に放たれる熱。

「おっと、と!」

風の魔法で空中の動きを制限し、体をひねる。熱波が掠って服が焦げる。

そしてキバは背中に付けていたウロボロスの鞘を持つ。

剣を入れ、腰に構える。

「・・・マサヒロから習って正解だったな」

腰をおとし、姿勢を低く。より感覚を鋭敏に。

「<居合い・円龍>!」

円状の居合い。一回転を加え、再び入れ、もう一度。

「・・・!くっ、三人分!」

ツルギも三人分の手を生み出し、迎撃。舞い踊る手は、鳥のようにひらひらと。

「まだ!」

宙を蹴り、さらに加速。

「<摂理セオリー二重デュオ>!<威力上昇>、<剛剣>!」

威力を上げ、より強靱な刃に。加速を加えながら、さらに剣を突き出す。

「<ピアッシング・ニア・ビー>!」

空気を裂きながら走る突き。ツルギを肩を貫く。

「<僧流袈裟斬り>!」

東方の国の聖職者が生み出した剣技。斜めに斬り付ける。

「くっ・・・」

手で防ぐツルギ。手にも感覚があるのでツルギの集中が途切れた。

「あ、やべ・・・!」

「・・・師匠!」

宙を蹴り、一瞬でツルギの元へ翔ぶキバ。うっかり助けた際の姿勢がお姫様抱っこのようになる。ただキバは、助けられたことの方が重要で。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ・・・」


一方、地上では。

「グ腐腐・・・いける、ツルギさんとキバくん・・・あり!」

「ナ、ナギさーん、落ち着いてぇ・・・」

ナギさんの本性が少し出ていた。完全に出てしまうと誰も抑えられなくなる。


「・・・これで、修行も終了か」

「ですね・・・」

突如、山が揺れた。

「は・・・!?」

山に風穴が開く。そこに現われたのは、真っ黒な体に、白く大きな仮面をつけた、鯨だった。

「まっず、呪鯨じゅげい!」

呪鯨は凄まじい速さで王都へ向かう。

「呪鯨はより魔力の高い方向へ向かう!」

「ナギさんの魔力量だとだめなの!?」

「私の魔力は大体100人分だけど、向こうにはそれ以上の人間がいるからまかないきれないよ」

「くっそ、今から山下りて」

「いやお前だと二時間かかるぞ」

「・・・なんで?」

「早い奴で一時間、遅い奴で三時間。だったらお前を空から行くほうが早い」

「う、平凡が憎い・・・お先します!」

「私達も向かう!」



同時刻、王都士官学校。

「あ~、キバが来ないと職場体験の場所が決まんないよ~」

「・・・キバ、無事かな・・・」

途端、急に晴れてた空が暗くなる。

「・・・!皆、外へ!」

先生の叫び、全員が外に出る。

「・・・何だよ、こいつ」

アイギスすら驚く大きさ、そして禍々しさ。勝てる気がしない。

「うそぉーん・・・」

呪鯨が口を開き、何かが溜まる。

ここで死ぬ。そう直感した皆は凍り付いた。

「全員、横に跳べぇぇぇーー!!!!!」

慟哭。突き動かされ、横に跳ぶ。

黒い衝撃波が地を割る。

「きゃあああ!!!」

「い、いやああああ!!!」

逃げ遅れたレイナとレイラが飛ばされる。

浮遊感。この高さから落ちれば、ただでは済まないだろう。

ぎゅっと目を瞑り、死を覚悟する。


不自然に、飛翔が止まる。

「無事か!?レイナ、レイラ」

「遅いのよ、バカ・・・」

「キバさまぁ・・・」

レイナもレイラも、キバの恋心を抱いている。天国のような心地なのだ。

学園の敷地に到着。

「・・・ただいま戻りました、先生」

「・・・心配したぞコノヤロー!」

「いてて!・・・よし、皆、いくぞ!」

「おお!!!!!!!!!」




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