第2話 組み手。

「えー、では、これで始業式を終わります」

約一時間に及ぶ校長の話(主に春休みの感想)も終わり、今日から新学期。

なんでも停学って言っても登校禁止ってだけらしく、始業式には出席できた。

一応中等部に進級した、という事で今日は顔合わせと同時にレクリエーションも行うらしい。

「ああ、これで楽しい学校生活が始まる・・・!」

でも、それは幻想に過ぎなかったのだ。



「こんにちは。キバ・ロンギです。一応【武器】は『ウロボロス』。趣味は・・・読書かな。よろしく」

この上無い無難すぎる挨拶。

しかし、悲劇はここから始まった。

「おい!俺の『カラドボルグ』が怯えてるんだが!?」

「本当だよ。僕の『ピカトリクス』も震えてる」

「ねぇ、あいつ、もしかして魔物の手先とか・・・」

(あらぬ誤解すぎる・・・)

かなり理不尽だ。まず自分は魔物の手先などではない。確かに呪われてはいるが。

「はい、じゃあ次の奴ー!皆、失礼な事は言うなよ」

担任のフラー先生の一喝。この人の一言には重力魔術もかなわないような重圧がかかっている。

「先生、ありがとうございます。」

「いいんだよ。失礼な事言った方が悪い。」



「はいじゃあレクリエーションだな。一応ここは士官学校。つーわけで組み手をとってもらいます」

(組み手かあ・・・)

「ああ、あと今回は3人一組だから」

クラスは30人、詰まるところ10チームで戦うって訳だ。

「キバ~、一緒にやろ~」

「オッケー!アイギス、やるか!」

「ちょっと!私置いてかないでよ!」

「ごめんごめん、レイナもだね」

間延びした声が特徴の大柄くせっ毛少年、アイギス・フォートレス。

青みがかった長い銀髪と青い眼の勝ち気な少女、レイナ・シンフォニー。

俺達は幼なじみだ。

「そういえば、二人はどんな【武器】?」

「俺は~、なんか地面系の魔道書~」

「私は楽譜と剣が一体化した【武器】ね。」

「いいじゃん。勝算あるよ。」

「はい組めたな?じゃあ2分後に転送するぞー」



「うお、転送先はここか」

送られたのは荒野。もしかすればアイギスの魔法を一番活用できるかもしれない。

「相手は誰かしら・・・あ、あそこ!!」

「げ、さっきの魔物の手先じゃん!」

「ああ!?」

さっきの『カラドボルグ』と『ピカトリクス』、あとおまけの一人。

カラドボルグは逆立った金髪、ピカトリクスは白いショートヘアの女みたいな子、オマケは目立たない黒い眼と髪。

『はい皆移動したな?1分後に始めるぞ』

「ちっ、嫌な奴と当たった!」

彼の言葉と共に、3人の姿が消える。

「くそ、『迷彩剣カモフラージュ』か!」

「うわ~、これはきっつい・・・」

「まったくね。・・・隠れてないで、出てくれば!」

『はい、始め!』

「鬱陶しい!〔音よ、刃よ、全て断て〕!<シンフォニースラッシュ>!」

「ぐ!〔星々よ、瞬け〕!<常夜の誘い>!!」

ピカトリクスは星占術などを記した魔道書。故に夜こそ本領を発揮する。

「〔啼け、雷〕!<サンダーピアッシング>!」

(たとえ魔力を流して、スキルを出そうと、魔法は使えない!)

「〔黒き盾、我を護れ〕!<暗夜の盾>!!」

黒魔術は周囲が暗ければ暗いほど力を引き出す。

そのため、周囲の複数展開も可能となる。

「な!?剣をもっているのに、魔術だと!?」

「悪いな、俺は魔法剣士なんだよ!」

「聞いた事ないよそんなの!?」

「キバ~、もっと早く言ってよ~」

「悪いな、でも今は、組み手に集中!!」

「・・・悪いけど、隠れさせてもらう」

「言ってろ。〔何処だ、コラ〕」

「・・・何故可視化された!?」

「呪術だよ。」

キバは停学期間中、ひたすらこの魔術、剣術、そして呪術の練習に励んだ。

呪術は制御を誤れば、人や自分を殺める術。より気をつけなければならない。

「俺の努力をなめんな!!」

「〔大地よ、憤怒を露わに〕<ラース・オブ・アース>」

人が浮くほどの地震。

「いや~、魔力の溜め時間がおもったよりながくて」

「早く撃て馬鹿」

「・・・足の骨、折れた・・・」

「おいおい、大丈夫かカラドボルグ」

「俺はカラドボルグじゃねえ!ゲインだ!」

「あと僕もピカトリクスじゃなくてポートって呼んで欲しいな」

「・・・ソバー」

「おう!改めてよろしく!」

「とは言っても、さすがに骨は治さないとでしょ!」

「ごめんね~」

「いや、俺らも酷いこと言ったし、お互い様だよ。」

「だね。〔星よ、此の者に癒やしを〕<ウィッシュトゥスター>」

「お、治った」

よし、これで一件落着!

誰もがそう思った時だった。

「・・・まずい。極めてまずい」

アイギスがぼそりと呟く。

「おい、アイギスの口調が短くなった、って事は・・・?」

「間違い無く危険!!」

そう言った時には遅かった。

地面がひび割れ、巨大な裂け目が生まれる。

そして、その真上にはゲインとポートとソバー。

「う、うわああ!!」

「アイギス!」

「間に合わない!」

「ええ!?ど、どうすれば・・・!」

「〔全てを縛れ、黒の呪い〕!<呪縛術じゅばくじゅつ黒帯くろおび>!」

空中から現われた黒い帯が、三人を縛る。

「ちょっと体力とか持ってかれるけど、少し我慢してくれ!!」

仮にも呪い、相手を傷つけることに特化している。

「触媒を<黒帯>に変換、〔彼の者へ至らん〕、<空間短縮ショートカット>!」

「うおお!?」

「は、はは・・・僕たち、戻ってこれた!?」

「・・・みたい」

「「「「よかったーーー!!」」」」

『咄嗟の判断にしては上出来だ、キバ』

「いやー、ほんとパニクってたので、あんま覚えてないです・・・」

今日最大のヒーローは、この上なくダサい台詞を吐いたのだった。




――所変わって、ギルシュ帝国、山奥の廃屋にて。

「・・・士官学校の最上級呪術物品オーバー・カース・アーツが持ち主を見つけたようだ。」

「へぇ、なら持ち主はかなり強いんでしょう」

「平凡すぎる奴だが」

「・・・いや嘘でしょ」

「事実だ。・・・いけるか?」

「やるしかないでしょ。彼にはもうその呪いがかけられたんだから。」

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