平凡学生と呪いの剣

白楼 遵

第1話 俺と、――。

「俺が、何をしたって言うんだーーー!!!」

絶叫しながら走る少年。誰にも当たっていないのが奇跡と言えるほどの滅茶苦茶な走り方。彼が叫ぶのには、理由があった。



「ああ、よく寝れなかった・・・。なんで今日、選定の儀なんだ・・・」

キバ・ロンギ、13才。彼はこの日を待ち望んでいた。

ここギルシュ帝国では、13才になる年、それぞれの【武器】が授けられる。

魔術に秀でた者には魔道書を、剣術に秀でた者には唯一の一振りを。

これが、選定の儀なのだ。

「よし、行くぞ!」


「ではこれより、選定の儀を始める。」

「おお!俺にはこの剣か!」

「すごい!この魔道書、私の知らない魔術が載ってる!」

他の皆には様々な【武器】が授けられている。

そして、キバのもとへ・・・

「来ねぇ!」

いつまで経っても現われる気配が無い。

「儀長!俺のだけ来てないんですけど!?」

「・・・お主、よほど嫌われておるな。わしゃ知らん!!」

「そんな~!」

「はい、皆貰ったな!?じゃあ閉めるから出て行けー」

「お、俺のは!?」

「無い!はい出た!」

「う、嘘だろぉぉぉぉぉ!!??」



「俺は何も悪くないんだぁぁぁぁぁ!!!」

彼は叫んだ。力の限り叫んだ。そして走った。しかも涙と鼻水をまき散らしながら走るから迷惑極まりない。

「はぁ、はぁ・・・なんで、俺は・・・」

分からなかった。魔術が使えない訳でも、動きが鈍い訳でもない。平均的なだけだ。

成績も、運動も、魔術も。全てにおいて平凡だった。

100点満点のテストで、必ず平均ぴったりの点数を取り、15人で持久走をすれば8着になる。そのうえ体は中肉中背、最近は反抗期に入りかけの、ほとんど奇跡に等しい程の平凡。

だから彼は憧れていた。

誰よりも剣を振り、魔術を行使した。誰よりも勉強した。学校へ一番早く登校し、一番遅く下校した。毎日の鍛練も欠かさなかった。

非凡になりたいがために。

それなのに、彼は選ばれなかった。

その事実が、彼を傷つけていた。

「う・・・。喉痛ぇな・・・。飴買うか・・・。おい財布学校に置いて来ちまってる・・・」

どうやら朝学校に行った時に置いてきたらしい。

「・・・仕方ない。」



ギルシュ帝国立士官学校。キバ達が通う学校。ここには初等部、中等部、高等部があり、初等部で基本を、中等部で応用と己の【武器】の扱い方、高等部で全てを使い実戦といったカリキュラムが組まれる。

キバは中等部。応用はできるが【武器】が無いから、扱い方の授業は実質休憩みたいな物になる。

「・・・あったあった」

財布を入れた鞄を見つける。

その時、彼は後ろに気配を感じた。

「誰だ!?」

居たのは、同級生のフォルト。緑色の髪が綺麗な同級生の手には魔道書があった。

「お前は魔道書か。・・・見た感じ、風の魔法か?」

努めて明るく話す。しかし、返答が無い。むしろ、様子がおかしい。

「どうしたんだよ・・・。フォルト、お前・・・」

「〔大気よ、彼の者を呑み込め〕・・・<ゲイル・イーター>」

突如として、爆風がキバを襲う。

「なんで、なんで!?」

事態が飲み込めず、困惑して問いかけるキバ。

「・・・・・・」

数瞬の沈黙。途端、教室の扉が開き、大量の生徒が流れ込む。

「んな!?」

(全員目が虚だ・・・。多分精神操作系の魔術。術者はかなり高位。おそらく、この中等部に存在する教師の誰か。・・・アロム先生か!!)

精神攻撃系の魔術を得意とするアロム先生ならやりそうだ。

というか、先生以前「俺は校長になる!」って言ってたから間違い無く先生の謀反だ。

しかし、持ってる武器は短剣と、魔術触媒の手袋のみ。

迫り来る生徒。

(・・・どないせえっちゅうんじゃああああ!!)

平凡な頭脳を回転させ、打開策を考える。

唯一残った活路、窓。ここは三階、跳べば死ぬかもしれない。

「・・・ええいもうなるようになれ!」

意を決して飛び降りる。それに続いて生徒達も飛び降りようとするが、やはり躊躇が混じっている。

「う・・・やっぱ着地痛い・・うおわ!?」

いきなり地面に大穴ができ、キバを地下へ送る。



「・・・結局、地下かよ・・・え、地下!?」

地下。この士官学校の地下は、校舎に行くための扉こそあるが、校則で立ち入り禁止になっている。そして、その地下には、最上級呪術物品オーバー・カース・アーツが眠っていると聞く。

「うっわあ校則違反かよ・・・」

そこで、キバの目の前に剣が立ってた。

両刃で、漆黒の刀身。赤い紋章が入っている。鍔には魔力の流れをよくする魔鉱が嵌められ、柄は握りやすく、滑らない。

「この刀身、龍鱗製りゅうりんせい!?」

父が魔術触媒に使っていた。しなやかで、傷が付きにくい。

「しかし、何故こんな剣が・・・あ!」

今更ながらに気づく。これが最上級呪術物品オーバー・カース・アーツなのだ。

しかし時すでに遅し。もう握っちゃっている。

「あー、これ、俺退学確定だ・・・」

でも、ある意味唯一の【武器】じゃないか。

瞬間、右目に鋭い痛みが走る。

「つっ・・・、うあ・・・?」

視界が、やたら明瞭だ。

「ああ、てかあいつらは!?」

急いで地上に上がるが、その時には穴を中心に操られた生徒が立っていた。

「くっそ、こいつら全員倒すしかないのか!?」

逃げ切るのは不可能。そうなると、自然とその結論に至る。

襲い来る生徒達。濁った声をあげながらこちらへ向かう。

「ああもう!〔全員、止まれ〕!!」

一瞬、右目が痛む。

そして、全員が黒い電撃に襲われ、止まった。

「これは、呪術!?」

本来良い目的で使われない呪術。その発動には長ったらしい呪文と、入念な準備がいる。それをノータイムでやってのけるのは明らかに異常だ。

しかし、奥からの魔法。どうやら、後ろの方には呪術は届かないらしい。

「くっそ、・・!?」

気づくと、魔力を流す、体内の魔力回路が広がっている。

(今なら・・!)

「〔黒き盾、我を護れ〕!」

手袋の上に出来ていた魔方陣が広がり、魔法を防ぐ。

「マジか、書物で読んだだけの“黒魔術”<暗夜の盾>、成功・・・」

俺、黒魔術に適正あるの?

そうキバは思った。実を言うと、剣の属性が“黒魔術”だったからだ。

「今ならいける気がする・・・。いくよ、【ウロボロス】!」

自然と、その名を口にする。呼応するように、力が溢れる。

「〔彼の者の元へ至らん〕、<空間短縮ショートカット>!」

一気に首謀者がいると思しき奥へ。短縮できるのは僅か数秒、しかし相手の意表を突くのには十分だ。

「な、キバ!?」

「どうも、アロム先生!」

長身の先生にご挨拶、刹那の振り抜き。きっちり躱される。

「先生、こういうのやめてもらえません?」

「うるさい!俺は今から校長になるのだ!」

「・・・うるせえええ!!」

よくわからない怒りがキバを突き動かす。

「は!?」

「〔光無き月に一条の光刃を〕。“魔剣術”<新月閃光>!!」

剣を縦に振っても、自分の右下から斬撃が訪れる。

魔術によって空間を転移する、予測不能の一撃。

この一撃こそ、彼の力が誰にも真似できない<魔法剣士>としての称号だ。



結局、この一連の事件は敵国の精神攻撃ということに落ち着き、アロム先生は秘密裏に懲戒処分となった。

そして、俺は退学・・・かと思いきやこの事件最大の功労者として停学三日となった。

何はともあれ、【武器】は手に入った。

これから、俺の楽しい学校生活が始まる!・・・はずだったんだ。

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