ダムディエンドジョーク

エリー.ファー

ダムディエンドジョーク

 冗談みたいな話だけれど。

 あたしに彼氏ができた。

 人間じゃなかったけれど。

 彼は首がない。

 その代わりのように、凄く優しい。

 名前は。

 ダムディエンド。

 家族が誰だとか、どういう所に住んでいるのかもあたしは良く知らない。

 でも、会いたいな、と思うとダムディエンドはいつの間にあたしのそばにやって来て話をしてくれる。そして、それが終わったら今度はあたしの話を聞いてくれるのだ。

 首がないだけで、ダムディエンドは尊敬したくなるような存在だ。

 ある日の夜、家のベランダで煙草を吸っているとダムディエンドが現れた。

「ダムディエンドどうしたの。」

「もう、やめた方が良いよ。」

「何が。」

「不登校だよ。」

 あたしは夜空に向かって煙を吐きながらダムディエンドを見つめた。

「学校に行っても別に話す人とかいないし。」

「いなくてもいいんだよ、学校には行っておいた方がいいよ。」

「それは、大人とかが作ったよく分からないルールの中で決まったことでしょ。あたしは自分であの場所には行きたくなって決めたの。」

「でも、学校に行かないと、後々大変だって聞くよ。」

「ダムディエンドはそうやって、他の人から聞いたことを私に向かって話すんだね。あたしが言ってることとか信用しないのに。」

「そういうつもりじゃないよ。」

「じゃあ、どういうこと。」

「いじめられて、学校で君が自殺したことは知ってる。そうやって成仏できずに、自宅にこうやって引きこもっているのも。でも、それじゃあ何も変わらないよ。」

 朝。

 誰もいない教室で、一人首を吊った。

 後のことは知らない。

「いいじゃん、別に。」

「自分が死んでどうなったのか。学校が変わったのかを知りたいんでしょ。」

「思ってないよ、別に。」

「分かるよ、君が成仏できてない理由はそこだもんね。」

 気にはなる。

 確かに。

「何も変わらなかったよ。」

 あたしは二本目の煙草に火を付ける。

 少し。

 泣けた。

「そ。」

「他のいじめの標的が生まれた。」

「そう。」

「誰も反省しなかったよ。」

「へえ。」

 あたしは気が付くとダムディエンドのことを視界に映せなくなっていた。

「僕は、君が彼氏が欲しいと言ったから彼氏にもなったけれど、その役目を仰せつかったうえで言わせてもらえるなら、今の君は不幸だよ。」

「なんで。」

「なんでだと思う。」

 あたしは体育座りをして少し考えた。

 夜風が心地いい。

「わかんない。」

「でも、そうやって考えてる。」

「屁理屈みたい。」

「でも、前進はしたよ。」

「下らないよ。」

「無駄だったことを一つ一つ分析して、意味を見つけるんだよ。」

「それで、何か変わるの。」

「状況は変わらないけれど、君が変わるよ。」

「あたしが変わったら何が変わるの。」

「状況が変わるよ。」

「どう変わるの。」

「少しだけ時間を巻き戻して生き返らせてもいいと、僕は思ってる。」

 満月だった。

 夜の光はとても優しいと思う。

 依存したくなる。

「あたしは、別にもういい。ここでずっと煙草を吸っていたい。」

「分かった。でも、それは今の君がする決断だと僕は信じてる。明日の夜もまた来るからね。」

「夜だけじゃなくて。」

「うん、なあに。」

「昼間でも、なんでも、いつでもいいから、あたしに会いに来て。お願い。」

 足音がした。

「お安い御用さ。」

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