草刈りスタートぉおお!!!
集まったのは王城から街道沿いに移動した森の中。森の中とは言えども街道沿いなので道は通っている。結構草木に侵食されているが……
どうやらその草刈りを知ろという事らしい。
「草刈り頑張るぞー!!!」
「おー!!」
僕が気合を入れて呼びかけても返事をしてくれるのはアーニャだけ、その他の奴らは一言も返事すらしない。
そりゃそう、ここにいる奴は剣で敵をぶったたけるって聞いたから入って来た荒くれ者が多い。こんな慈善団体みたいな事をやりたい奴はいないだろう。
だからこそ喝を入れる。
「おい!お前ら!気合が入らないのは分かるけど、適当な仕事はするなよ。完璧な騎士ってのは気合が無くとも十全な仕事をする者のことを言う!腑抜けになるなよ!!」
「「うーーっす……」」
反応はイマイチ、皮を張り替える前の太鼓といったところだろうか。まあ最低限の効果は得られたしいいか……。
その時、僕の横にアーニャがすっと並ぶ。
「みなさ~~ん!!草刈りは今日一日だけで~~~す!!頑張りましょう!仕事終わりにスープ作って待ってますから」
「なに!?アーニャさんの手作りスープ!?」
「聖女の……スープ!!?」
「これは……まじもんのまじか!?」
「が……頑張れるでごわす!!」
「みんな!!やるぞおおおーー!!!!」
「「「「おおおおおおぉおおお!!!!!!」」」」
アーニャは僕に向かってニッコリと微笑んで、頭を差し出してきた。「ほめて、ほめてー」とでも言いたがりだ。
だが僕はそれに気づかないふりをする。団長として負けた気がして悔しいからだ。
それでもアーニャはつむじを僕の方へ向ける。
「ハウデル……どうぞ!!ん!!ん!!」
「ほら、アーニャも変なことしないで!あいつらも仕事にとりかかったようだし、僕たちも行こうか」
「あ~ん、待ってくださ~い!!あ、ハウデル!!分かりました!!ご褒美は頭ナデナデじゃないってことですね!!そういった事ならば……ムフフ」
アーニャは髪を耳にかけ、目を瞑って唇を軽く突き出している。
「苦節八年……ようやくここまで漕ぎつけることができました。神様、わたし今から大人になります」
そう言って、いつまでも目を瞑ってそこから動こうとしない。いくら僕でもこれが何をしろという事なのかはわかる。この野郎、僕の事を完全に舐めてやがる。
人望の違いを見せつけてきて、女の子の苦手な僕にき……きっす…を迫って格の違いをはっきりさせるという事だろう。
いくらアーニャとはいえ、こうして迫られると僕はくそ雑魚だ。だから、無視をして先へ向かうことにした。
………
……
「もうハウデル!!勝手にわたしを置いて行って!!そんなことしてると、また聖水飲ませますからね!!」
「悪かったって……」
「もう!本当に反省してますか!?」
置いていったことによってさらなるピンチに追い込まれていた。アーニャにかなりの剣幕で詰め寄られている。
そんな時、アーニャの言った言葉のある一点が引っかかる。
「って……いま、また飲ませるって言った?」
「ええ、言いましたけど。聖水はご利益があって効能もすごいんですよ!肌荒れ、関節痛、冷え性!何でも効きますから!飲んだ方が良いです!!」
「そうじゃなくて……いや、今言った事もツッコミどころ満載なんだけど、それどころじゃなくて。今!!『また飲ませる』って言ったよね!!つまり、前にも……」
「ああ……そのことですか、前にハウデルが庁舎で眠っている時に唇に直接」
「はぁああああああ!?眠ってるとき!?直接!?」
起こったことを想像して、心臓が止まりそうになる。ちょ…直接ってことは……あのこの前の黄金の聖水ができたてほやほやのまま、チョロチョロと流し込まれたってことだよな。
僕はキスはおろか、手を繋いだこともないのに……一足飛びどころの話じゃねーぞ!!!
勘違い、どうか勘違いであってくれ!!
「それって、本当に聖水で間違いないの?」
「ええ、聖水で間違いないですよ?ハウデルは熱烈にちゅぱちゅぱ吸ってくれてましたし、いや~~あのハウデルは可愛かったですね!!」
はい、アウトォオオーーーー!!!!
この言い方!!アーニャの表情!!これもう大人の関係じゃん!!え?え?僕の初めての恋愛は?交換日記から初めて、デート行って、100回目の記念デートで僕から頑張って手を繋いで、1000回目のデートでが…頑張って、き…キッスをして大人になっていくつもりだったのに!!
ああ、僕の人生設計が崩れて行く。
その時、アーニャからフォローが入る。
「ああ!!聖水って言ってもあの黄色の奴じゃないですよ。普通に教会が配ってる透明の奴です。あれって保湿効果あるから、ハウデルの唇が乾燥しない様に直接ぬっただけです。」
「え?ふ…ふつうの、聖水?ちゅぱちゅぱ吸ったってのは?」
「ん?聖水をぬったわたしの薬指を吸ったってだけですよ。赤ちゃんみたいで可愛かったです!」
ゆ、指を吸った?う…うーん…セーフ!!というかノーカン!!ということにしておこう。取り合えず僕の純愛ロードは守られたという事だ。
しかし、う~ん指を吸ったか……アーニャの顔が直視できない。顔から火が出そうになる。くそ!こんなヤンデレ部下に照れてしまうとは!アーニャは三年前に克服したと思ったのに…。
「あら?もしかしてハウデル!照れてます?」
「照れてない!!」
「うふふ、わたしとの結婚も秒読みですね?」
「しないから!!とは言わないけど、今のところ予定は無いから!!」
「そんなこと言って~♡」
アーニャが僕を突っつきながらからかってくる。さすが、八年のつきあい……僕の弱いところをしっかり分かってるよ。
そんなことをしていると急に後ろから声がかかる。
「あ!!アーニャ先生!!会いたかった!!」
声をかけたのは第一騎士団の白銀の軽鎧をまとった青年であった。傷の無いその鎧はどうやら新兵であることを示している。
短く切りそろえられた髪は少し軽そうな印象で、アーニャに気軽に声をかける様子も僕とは正反対だ。僕はアーニャと話すまでに3ヵ月かかったからな。
「アーニャ先生!!久しぶりだ!!俺第一騎士団に配属されたんだ!!」
「お久しぶりですね、ラムサーくん」
アーニャは完全にこの一瞬で外行きの顔に変え、その男の人に対応する。
「アーニャ?この男の人は?」
「ああ、ハウデルは知らなくて無理ないですよね。新兵訓練の時に私が担当した生徒の一人なんです。名前はラムサー、先代の第二騎士団の副団長さんの息子さんです」
「へー、新兵訓練ね……」
そういえば、そんなもんあったな。各騎士団のベテランが新兵を受け持ち、適性を測るという名前で扱きを行うという毎年の恒例行事。僕は女の子の対応が下手すぎるという理由で数年前から参加禁止になっているが、アーニャはその限りではない。
「その節には本当に世話になった!!おかげで花形で名高い第一騎士団だ!」
「そうなんですね!教えた私も鼻が高いです!」
「まあ、俺としては当然の事?ってか、第一騎士団以外ならやめてたけどな!第一騎士団以外にはいる意味ねーし!」
その言い方に少しイラっと来る。口のきき方も一応こっちが上官だぞ。だが、アーニャも我慢しているようだし、僕も抑えておこう。
「アーニャ先生もはやくうちに来ればいいのに、大変だけどアーニャ先生なら何とかやれると思うぜ!俺もサポートするからよ!!」
「あははーそうですねー、でも今の騎士団が気に入っているので」
ラムサーの舐めた言葉にアーニャもから返事を返す。
だが、会話を辞める様子は見られない。
「全く分かんねーぜ…第一騎士団以外なんてよー!俺が第一騎士団の団長になって、アーニャ先生を副団長にしてやろうって思ったのにな!」
そういいながらアーニャの肩に手を回し気軽に肩を抱く。
アーニャも困った顔で何とか返す。
「あー、でもフウラさんも優秀ですからねー、騎士団長はさすがに難しいんじゃないですか。お誘いはまた今度って事でー。」
「おいおい、何言ってんだよ。フウラさんが優秀だなんて、あんな女すぐにボロが出るに決まってるだろう。俺が騎士団長になるなんてすぐだからよ。まあ、待っててくれよ」
そう言いながらアーニャの美しい髪に手を触れようとする。アーニャは聖女を演じているから、突き放す事もできない。
だから、アーニャはラムサーの腕の中で縮こまることしか出来ない。
だから、そのおいたが過ぎる新兵の手を俺が掴んだ。
「やめときなよ、アーニャが困ってる」
「ああ?なんだてめー、てめーみたいな奴およびじゃ無いんだよ」
「アーニャから手を放せ……」
「ああ、分かったぜ。てめえ、アーニャ先生のストーカーだな?嫉妬は困るぜ!黙ってろよ!!!」
「いいから手を放せ、次は無いぞ」
アーニャへの舐めた態度もそうだが、フウラさんへの不義理も許されない。こういう新兵はしっかり教育してやらないといけないのだ。
だから、僕は掴んだラムサーの手首に少し力を入れる。
ミシミシ…と骨が軋む音が聞こえる。
「いでででええええ!!いてえ!!放す!!放すから!!」
「そうか、なら僕も放してやる」
僕が手を放すとズズズと後ずさりをして、僕の方を睨みつけてくる。
「なんだてめえ!アーニャ先生のストーカーのくせに生意気だな!!」
「そうだな、僕はプライドは一丁前に高いぞ。でも、それはお互い様じゃないか?ラムサー君も相当に生意気に見える」
「ちぃ!!全くムカつく奴だな!!こっちは第一騎士団だぞ!!てめえはなんだ?」
「僕はホロロウタマ様の近衛騎士団だ」
そう言うとラムサーは高笑いをする。こちらを見下すように。
「あっはっはあ!!近衛騎士団?歴史も何もない、即席の騎士団じゃねーか!!そんなじゃ程度も知れるってもんだぜ」
「そうか?君よりは強いつもりだけど」
「ああ?おまえそれ本気で言ってんのか?俺は新兵の中で最強だぞ?剣術訓練でもトップだ、第一騎士団の先輩にも勝ったこともある」
「そうかい、それでも君には負けないと思う」
僕は一歩も退く気はない。意地の悪いやり方かもしれないが、僕もこうやって鼻っ柱を折られた経験は何度もある。そして、それは僕にとって大事な経験になっている。
彼の事を思うなら、ここでこっぴどくやってやらないといけない。まあ、少しムカついたからって理由もあるけど。
僕は退かない。ラムサーも退かない。となればすることは一つ。
「分かったぜ、じゃあ勝負しようや」
「いいよ、勝負内容は君が決めていい」
「そうかい、大した自信だ!あとで言い訳すんなよ!!」
「しないって、いいからさっさと決めろよ」
アーニャは僕の方を心配そうに見てる。大丈夫、僕が女性以外に負けるわけ無いから。
え?僕がラムサーにやり過ぎないか心配?ま、それは大丈夫でしょ。アーニャと小声で話す。
「なに、こそこそ話してんだよ。アーニャ先生が困ってんだろ!!このストーカ野郎!!」
「ああ、ごめんね?で、勝負内容は決まった?」
「ちぃ!勝負内容はこの仕事でどれだけ魔物をぶっ倒せるかだ!!負けた方は二度とアーニャ先生に近づかないでどうだ」
提案された内容は魔物狩りだった。それは直接勝負を予期していた僕にとっては意外なものだった。
まあ、魔物は作物を荒らしたり、人を襲ったりすることも多いため、騎士団の討伐対象になっている。そういった意味あいでこの勝負を選んだのだろうか?
しかし、なんの問題もない。絶対に叩きのめしてやる。
「いいよ」
「吐いた唾飲むなよ?」
「こっちのセリフだ」
「じゃあ、今から始めようか?ヨーイ?」
「「スタートォオ!!!」」
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