近衛騎士団の結成
初仕事!!
「フウラさん!?」
「ハウデルくん議場以来ね!」
僕が声をかけると、フウラさんはパァアっと花のような笑顔を浮かべこちらに歩み寄ってきた。
うぅ、声をかけたは良いものの、そんな簡単に近付かないで!まだ話す一言目も思い浮かんでないから!!具体的には二日ぐらい待って欲しい!
「ちょっといきなりなんですか!今は私とハウデルの取り込み中です!!」
「ごめんねぇ~私も用事があって来てるのよね」
フウラさんはアーニャを軽くいなし、僕達の間にずいッと体を割り込ませる。
「ハウデルくん……私、残念だわ」
「んひぃ、ち、ちかい……」
いつも通りの距離感…フウラさんいつも近いんだよ!良い匂いするし、たまに胸が当たりそうだし。この触れるか触れないかのギリギリの距離が気になり過ぎて会話どころではない。
「ハウデルくんなら第一騎士団の副団長を選んでくれると思ったのに…」
「ふ、フウラさん!ちょっとちか……」
「近衛騎士団なんて役職……向いてないと思うな」
「向いてないって言われましても……もう、なっちゃったので……」
「今からでも遅くないわ、第一騎士団においで♡」
「しょ、しょんな事言われましても……」
「ほーら……やめて、第一騎士団入ろ。ハウデルくんの剣捌き見たいなぁ。二人っきりでみたいなぁ~、ハウデルくんのケ・ン・サ・バ・キ♡」
甘ったるい声で僕を勧誘する。
近い!近い!オーバーヒートしそうになる頭をかき回すようにフウラさんが詰め寄る。
「ここはハウデルくんの剣技が活かせる場所じゃないわよ!ホロロウタマ様の護衛も大事だけど、それにハウデルは勿体ない……正直言ってホロロウタマ様なんかには宝の持ち腐れだわ」
だが、かろうじて聞き取れた「ホロロウタマ様なんか」。その言葉が僕の熱くなった頭を急速に冷やす。
僕が主と定め仕えると決めた相手。まだ出会って短いが、天真爛漫で心優しく聡明なことは一緒にいればすぐ分かった。だからこそ僕だってこの人に命を捧げるって決めたのだ。
「そういう言い方はやめてください」
「え、ハウデルくん?」
思ったことが口をついて出る。
「ホロロウタマ様は僕の主です、彼女はこれから大人になって間違いなく多くの功績を残します。その時に彼女の右に構えているのは僕だ。」
「え、あ、いや……そういうつもりじゃなくて……」
「今後一切、ホロロウタマ様なんかという言葉を使わないでください!僕にはもったいない人ですから!!」
はっきりと言い放つ。
結構な声量で言ってしまったため、教会内に響き渡りみんなが会話を辞めてこちらを向く。
やべぇ……声大きすぎた。しかもあのフウラさんにこんな生意気な口聞いちゃったしどうしよう。言い終わってから気付くこのやっちまった感。どうしよう。
フウラさんも顔を赤くしてプルプルしてるし。
「やっば……この一途な感じがマジでかっこいい……。まじで惚れるわ。今のセリフをラスクの上に乗せて蜂蜜かけて頂きたいわ……。」
なんかぶつぶつ言ってるみたいだし、かなり怒ってるみたいだ。
途端に再び緊張が僕を支配し始める。ああ……あの、フウラさんになんてことを……や、やばい。どうしようどうしよう、謝らなきゃ。
「や、い、いみゃのは違くて……その、そのぉ…あ、いや違わないんですけど……えとえっと」
いつもの口調が戻ってくる。あ、やばいこれ…
そんな僕を見てフウラさんがまたブツブツと言葉を漏らす。
「や、やば…その後に普段のおたおたハウデルくんのコンボだと。やばいって……ギャップで萌え死ぬって……」
すごい表情でこっち見てるし、フウラさんごめんなさい、フウラさんごめんなさい、フウラさんごめんなさい。心の中ではこんな簡単に言えるのになんで口から出せないんだーーーーーーー!!!
そうこうしている内に僕の左手に柔らかい感触が走る。
「ハウデル!!あたし……嬉しい!!ハウデルがそんなに私のを思ってくれてたなんて!!」
「ほりょりょうちゃましゃまぁ!?う…うでは止めてって前かりゃ…」
「あたしのそばでずっと守ってくれる私だけの騎士様だね!ああ…もう好き好きぃ!」
僕の腕に頬ずりをする。ほっぺがぷにぷにと僕の腕につぶれて可愛らしい。……ってそれどころじゃなくて!!!早くフウラさんに謝らなくちゃ!!
ホロロウタマ様とフウラさんに見つめられて子音の発音が上手くいかない。
そうこうしている内に話は女性陣たちで勝手に進んでいく。
「ところでフウラ……だったよね?あたしたちに何の用?まさか第一騎士団長というものがこんな所で油を売ってるわけ無いよね」
「ええ、お久しぶりですホロロウタマ様。この度は近衛騎士団成立大変におめでたく…」
「あーあーそういう口上はいいから、早く用件だけ伝えてくれるかな?」
「そうですか…。では用件だけお伝えするとしましょう。この度、近衛騎士団の初仕事が決まりました。」
「お仕事?」
そう…元々第三騎士団は第一騎士団の手が回らない部分を請け負うという目的で作られた団体だ。その役目上、フウラさんから仕事を振られるということも多々ある。
ただ今回の場合は近衛騎士団の仕事って言うくらいだし少し事情が変わってくるのか……?
「あたしの近衛騎士団なんだけど……なんで仕事の内容を勝手に決めるの!」
「申し訳ありません、ホロロウタマ様……この仕事の振り方は大臣から認められている事なんです」
「むぅ…なら仕方ないか……それで仕事内容は?」
「仕事は草刈りです」
ん?魔物狩りじゃなくて?聞き間違えたかな?
ホロロウタマ様も僕と同じように訝し気な顔をしている。
「ん?聞き間違えたかな?今なんて言ったの?」
「草刈りです」
「え?」
「草刈りです」
草刈りか…なるほど。って草刈り!?
「「「えええええぇえええええええ!?」」」
みんなの驚く声が教会に響き渡る。
アーニャが嘆息を漏らしながら、フウラさんに詰め寄る。
「あの、私たちは騎士団なんですけど。草刈りって明らかに庭師の仕事じゃないですか?」
「まあアーニャちゃんが、そういいたい気持も分かるわ。でもこれはもう決まったことなの、断ることはできないわ。断った場合は……覚悟しておいた方が良いかもね。」
「それは脅しですか?」
「そうとってもらっても構わないわ。それじゃ、私は次の仕事があるからもう行くわね!それじゃハウデルくん!気持ちが変わったらいつでも私の所に来てね!」
そう言い残し、フウラさんは流麗な歩きで教会を去っていく。その姿はいつも通りのフウラさんの立ち振る舞いだが、どうにも違和感を覚えた。まあ、これは武人としての直観みたいなものだが。
そんなことを考えているとアーニャから声がかかる。
「ハウデル良いんですか?あんなに好き勝手言われて!草刈りなんて舐められてますよ!」
「ハウデル!あたしもちょっとあの言い方はちょっとイラっとしちゃった!あたしのハウデル取ろうとして!」
「まあまあ…決まったことだし仕方がないよ。」
「「むぅ~~~!!」」
二人はほっぺを膨らまして起こるが僕はそれどころではなかった。
「あわわわ…やっぱり僕の言葉でフウラさんを怒らせてたんだ。だからなんか雰囲気変わってたんだ…あわわわ…どうしよう」
こうして僕とホロロウタマ様の騎士団は始まったのだ。
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