断罪の会議

「それではこれより命令違反者ハウデル・イズマの処遇を議論する。みなのもの静粛に誇りをもって議論に参加するように」


 僕は円形に広がった会議場のど真ん中でもっとも低い位置に立たされている。偉い人は周りの席に座り、僕の一挙手一投足から目を離そうとしない。

 

「それでは今日の議題の経緯をお願いする。第一騎士団長フウラ前へ!」


 議長に呼び出され、フウラさんが発言席の前に立つ。

 

「ええ!では私から一連の流れを説明させていただくわ。一昨日の夜間、王城にて第四皇女ホロロウタマさまが剣国の手のものによってかどわかされてしまう。そして昨日朝、そのことに気付いた第三皇女レイラ様が対策本部を設置して、敵勢力や背後関係などの調査を行いました」


 議場からは流石レイラ様だ!お仕事が早い!などと称賛の声があがる。

 

「しかし、問題はここから!第三騎士団長ハウデル・イズマがパーシヴァル・レイモンドを勧誘後、独断でホロロウタマ様を救出。その行動は結果によってはホロロウタマ様を危険に陥らせるもので大変危険なものである。よって、この議場にて彼の処遇を決めなければいけないわ!」


 フウラさんが芯の通った声で会場に宣言し、空気が張り詰める。

 俺は横にいるパーシヴァルに小声で話しかける。

 

「なあパーシヴァル…今の話だと僕から誘ったみたいになってたけど誘ってきたのお前だよな?」

「てへ!ごめんねハウデル?なんか君に押し付けた方が丸く収まりそうだったから」


 パーシヴァルがおどけながら謝ってくる。こいつ、あとで絶対泣かす。

 てか、この状況何気にやばい。俺の命とか処遇がやばいとかって言うよりは『俺に対する処遇で王族の権力争いが激化する可能性』があるのがやばい。

 俺は今まで力により中立を保ってきた、それによって動きにくかった貴族諸侯もいたはずだ。その俺の抑止力が無くなるのは国としても危ないはず。

 

「パーシヴァル…この状況どうすんだよ。俺が騎士団長を降格させられたらどうなるか分かってるよな」

「まあまあ…なるようになりますよ。それよりも静かにしましょう。フウラさんが見てますよ」


 パーシヴァルは問い詰めをのらりくらりとかわし、壇上に目を向ける。それに倣って僕も壇上に目を向けると、フウラさんと目が合った。

 

「ご、ごみぇんなしゃい…つ…続けてください」

「そう、では第一騎士団の総意としての一つ提案させてもらうわ。ハウデルを第一騎士団の副団長に左降したいと思っているの。」


 会場は再びざわつく。

 

「第一騎士団の副団長!?実質栄転じゃないのか?」

「賛成だ!ハウデルとフウラ!これで第一騎士団を最高戦力としよう!」

「いやいや!ハウデルは重い罪を犯したのだ!大事な仕事を任せる第一騎士団になんか入れられるか!!」


 賛否の色んな声が響く。議長が「静粛に~!!」と叫んでいるが誰も聞かない様なヒートアップっぷりだ。

 しかし、この状況はフウラさんの一言により静まり返る。

 

「静粛に!!私の話を聞いて!!」

「「「…!?っっぅ………。」」」

「ハウデルはこの国最強の剣の使い手よ!!それは私が保証する。今回、剣帝ロウレンを討つこともハウデルでなくてはできなかったわ。いくら、対策本部を置いて救出をしたとしてもここまでの結果は得られなかったと思うし」


 皆がフウラさんの説明に聞き入っているが一人が反対の声をあげる。

 

「なら!規律違反は無視するという事ですか!?」

「そんなことは言っていない!!!!!」

「うぉ!?」

「規律違反は規律違反として扱うわ。ただ今回は対策本部不手際があったことも確かなので、刑はそれなりで良いと思うの。今後は副団長として私の身の回りにずっとついてもらって一生私を補佐してもらうわ。もうそれはじっくりねっとりとね。その中で規律について私から直々にしっかり教え込むつもり。彼の体にね?」


 フウラさんの美しい黄金の目が真っ黒に染まっていくように感じる。そのどす黒いオーラに反対していた人も何も言えなくなってしまった。

 そして、そのフウラさんは真っ黒の目を僕に向けて舌なめずりをペロリ。そして口をパクパクと動かしている。何かを言っているようなので読唇術で読み取る。

 

「えーと、なになに…ベ・ッ・ド・ノ・ウ・エ・デ・シ・ッ・カ・リ・オ・シ・エ・テ・ア・ゲ・ル…ひぃいい!?」

「どうかしました!?ハウデル」

「いや、今フウラさんが…」

「フウラさん?彼女は今、上訴しているところですよ?」

「いやでも、今確かに…」


 フウラさんを見ると凜と壇上に立っていた。僕の見間違いだったのか?

 僕がほっと胸を撫でおろすと誰かが声をあげる。

 

「異議あり!!!」


 輝く赤色の髪を揺らしながら立ち上がったのは僕の騎士団で治癒係兼副団長を務めているアーニャだった。

 白いローブを身に纏い神々しいオーラを体から発している。美人というのはそれだけで絵になるものだ。

 だが、そんな彼女も目だけはどす黒く濁っている。

 

「ねえ…フウラ団長さん?あなた公私混同していませんか?」

「いいえ、私はしっかりと理由も述べたわ」

「おかしいですね…なら、副団長である私と団長であるハウデルの立場を入れ替えるのが一番普通のはずですよ?なんで第一騎士団がしゃしゃり出てくるんですか?」

「ふふふ、墓穴を掘ったわね?あなた自分が昇格したいだけじゃない」

「いいえ?私自身は功績と規律違反を合わせて不問にして今まで通りで良いと思っています。そもそも対策本部が早々に解決していれば怒らない問題でしたしね。けど、それでもハウデルに罰を与えて降格させたいなら私とハウデルを入れ替えるのが自然と言ってるだけです?」


 アーニャとフウラさんの間にバチバチと火花が散る。

 僕はそれを見ておどおどするしかできない。

 そしてそこに新たな燃料が投下される。

 

「さっきから聞いていれば、ズケズケと対策本部に好き勝手言いおって。その言い方はこの第三皇女レイラに失礼だと思わないか?」


 出てきたのは厳格で落ち着いたドレスを着た女性。第三皇女レイラ様だ。美しい黒髪の先をクルクルといじりながらフウラさんとアーニャに食ってかかる。

 

「ねえ…、この一連の流れで一番迷惑を被ったのは誰だ?対策本部が練っていた救出計画を無に帰されて、グダグダと文句を言われた私じゃないのか?だから私が罰を決めるってのが筋ってもんじゃないのか?外野から出てきて好き勝手を言うな!」

「私は根拠ある主張をしているだけよ?」

「私もそうです!納得いかないのなら皇女様自信でも意見を出したらどうですか?」


 ヒートアップしたアーニャとフウラさんは皇女相手でも一歩も引く気はない。

 その態度にレイラ様はニヤリと美しい顔を破顔させる。

 

「ならわたくしからも言わせてもらうか。ハウデルあなたわたくしの護衛兼執事に成れ。期限は一年で構わない。毎朝ベッドから起こすところから、毎夜ベッドで寝かすところまで担当してもらう。ちゃんと執事服で給仕のやり方も覚えてもらうから覚悟しなさい」


 レイラ様が僕に向けて軽くウィンクする。それだけで僕の胸はドキドキとしてはちきれそうになってしまう。

 う、心臓が…

 しかし、そんな様子のレイラ様にフウラさんはおもしろくない様だ。


「なにそれうらやま…じゃなくて!!ハウデルの剣を給仕で遊ばせておくなんてもったいないわ!!」

「ん?給仕も大事な仕事だが。それに、ハウデルの苦手なことをやらせないと罰にならないではないか?これは処遇を決める会議なのだぞ?」

「処遇なら、このままにするという選択もあるはずです!」


 三人は周りを置いてけぼりにして議論を白熱させてしまう。まるで、大事なものを奪い合うように。

 僕としてはアーニャ以外の選択肢は緊張する女性との仕事なのでなんとかアーニャに勝って欲しいと思っているが。

 

「第一騎士団しかない!」

「執事だ!」

「第三騎士団のまま!!」


 そんな中、また場の空気を変える鶴の一声が発される。



「静粛に!!お姉さまも他のみんなも黙って!!」



 立ち上がったのはホロロウタマ様だ。皇位継承権も低く、いつも議論を端っこで聞いているホロロウタマ様の大きな声に聴衆は戸惑いを隠せない。

 先程まで議論を交わしあっていた三人も同様に言葉を失っている。

 

「ハウデルはあたし付きの護衛にするわ!第三騎士団ごとわたしの近衛騎士団にするの!!」


 透き通って美しい声が議会場に響く。


「あたしは誘拐された時…怖くって、怖くって…いつまでたっても助けが来なくて…でも、そんな時に助けてくれたのがハウデルなの!危険を顧みず…それに、規律違反でも来てくれたハウデルに私は恩返しがしたい!」


 意志のこもった声、誰にも簡単には否定させないという意気込みが感じられる。

 

「それにね…私がハウデルに守って欲しいってのもあったりして…あはは」


 ホロロウタマ様が自嘲気味に笑う。その姿に議場の皆は言葉を忘れてどうしようもなく見とれてしまった。

 そんななか、一番初めに口を開いたのはアーニャだった。

 

「ホロロウタマ様!私もそれに賛成します!私としてはハウデルの立場が変わらなければ良いので」


 フウラさんとレイラ様は口を噛んで意見を押しとどめている。議場はホロロウタマ様の意見を完全に押す流れだ。

 こうして僕はホロロの護衛となったのだ。

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