最強の騎士団長の僕の弱点はヤンデレな女の子たち

しんたろう

プロローグ

王女救出!

 ラウンデル王国直轄の第三騎士団隊長ハウデル=イズマ、それが僕の肩書だ。

 小さいころは剣が大好きで、お母さんに買ってもらった小剣を持って退役した騎士様の家を回って剣を教えてもらっていたら、いつの間にかこんな地位にまでなってしまっていた。

 自分で言うのも恥ずかしいが、剣技は王国でも一、二を争うほどで平民の英雄とも呼ばれている…それほどまでに上り詰めたのだ。

 

 しかしそんな僕にも弱点がある。それは…

 

 

「あらハウデルくん?今日も剣の訓練?精が出るわね!」

「ひゃ!ひゃい!!ちょちょちょっと小一時間ひょど…」



 この女性免疫のなさだ。青春時代のすべてを剣に捧げてきた弊害だろう。仕方がない事はあるが、まさかこうやって常々悩まされることになるとは…。

 

 ちなみに今話しかけてくれたのは第一騎士団長のフウラさん。同じ騎士団長のよしみでこうやって毎度僕に話しかけてくれるのだがいつまでたっても慣れない。

 そんな彼女は僕のことなどどこ吹く風、すぐに距離を詰めてくる。

 

「やっぱり日々の訓練があの綺麗な太刀筋を生み出してるのね!」

「い…いへぇいえ」

「良かったら今度私に個人稽古をつけてくれないかしら?」


 そして、いつも通り僕に稽古をねだる。


「えぇ!?僕なんかが…その、大した事できませんし…」

「え!?駄目…なの?」

「い…いや…フウラさんはすごく強いですし…僕なんかがいなくても…」

「そんなことない!!ハウデルくんにしかできない!!お願い、一回だけ!ね!?ね!?」


 そうして王国随一と呼ばれる美貌で僕に詰め寄る。

 ああ…まつ毛が長い…唇も綺麗だ…絹のような肌で………じゃなくて!!断らなきゃ!!女性と一緒に剣の稽古だなんて心臓が破裂してしまう。

 

「ご…ごめんなさい!!時間が無いので!!すみませーーーん!!!」


 そんな、捨て台詞を吐きながら走って立ち去る!



 ……

 

 …

 

 

「ハァッ…ハァッ…」

 

 ガチャン

 全速力で騎士庁舎に飛び込んで、扉を閉めてへたり込む。

 そんな僕にすっと水が差し出される。

 

「はい、どうぞです!ハウデル様!」

「ああ…ありがとう…」


 水を渡してくれたのは僕の騎士団で治癒係を務めてくれているアーニャ。

 騎士団に入った時からの付き合いという経緯があり、僕が普通に話すことのできる唯一の女性といっても過言ではない。だがこのアーニャには一つ致命的にやばいところがあるんだよな。

 

 それは…彼女がヤンデレだということだ。

 そしてその件のアーニャは僕にしなだれかかりながら、耳元で囁いてくる。

 

「今日もフウラ様とお話しされたのですか?」

「ああ…といっても…僕はふにゃふにゃ言ってただけなんだけどね…我ながら情けないよ」

「うふふ…そうなんですか」


 そう言うと彼女は僧衣から瓶詰の聖水を取り出して、扉にこれでもかというほどぶっかけ始める。

 バシャア!バシャア!あっという間にびしょ濡れ扉の完成だ。

 そして、微かに残った聖水を僕の持っているに水に…トプトプットプトプ!

 

「さぁ…飲んでください…」


 満面の笑みで僕を見つめる。

 

「アーニャ!?聖水は飲み物じゃないけど!?」

「大丈夫ですよ…聖水を飲んで悪魔を払った例があるらしいですから…いつもは扉だけなんですが、こうまで払えないとなると飲んでもらうしかないですね…お願いします。」

「い…いや…これを?」


 手元のカップのお水はキラキラと眩く輝いている。明らかに人が飲んでおいしいと思えるようなものではない。

 

「ささ!ぐぐっとどうぞ!!」

「う…に…においが…」


 アーニャは笑顔で僕に詰め寄ってくる。さらに、カップを持つ僕の手の甲にそっと両手を重ねてぐぐっと押し込んでくる。

 その瞬間、扉が開く。

 騎士庁舎の中に声が響く。

 

「ハウデルは居ますか!?緊急事態です!!うわ!?なんだこれ?なんで扉が濡れているんですか!?」


 扉の先にいたのは僕の友、文官のパーシヴァルだ。

 聖水を胃に流し込まれる寸前だった僕には渡りに船だ。コップを机に置きすぐさま赤髪の青年へ駆け寄る。

 

「パーシヴァル!!!よく来てくれた!!」

「お…おお!ハウデル」


 いつもの数倍反応の良い僕の対応にパーシヴァルはたじろぐ。

 


「パーシヴァル!今日は何の用だ?何しに来た?お前が来るぐらいだ!よっぽど重要な話なんだろう!?」

「お…おお、今日はやけぐいぐい来ますね…どうしたんですか?」

「いやいや…何言ってるんだ!!いつも通りだろ?さあ、行こう!今すぐ行こう!こんな庁舎だと壁に耳ありって言うだろ?さあ、行くぞ!!」


「ちょ…ちょっと…押さないでください…」


「アーニャ?ごめんね?これから僕は仕事だから、またあとで!!」


 たじろぐパーシヴァル、聖水の小瓶を持ちながらにこやかなアーニャ、逃げようと焦りに焦る僕、結果はぐちゃぐちゃだがなんとか逃げ出すことに成功した。

 




 アーニャから逃げ出した僕とパーシヴァルの二人で王城のレンガ道を歩く。

 つらつらと話題を先延ばしにするのもあれだから単刀直入に質問をぶつける。

 

「それで?パーシヴァル今日は何の用で僕に会いに来たんだ?」


 そんな僕の様子にパーシヴァルは不思議そうな顔を浮かべる。

 

「いやいや…!?重要そうな話だからって庁舎から抜け出してきたのはあなたですよ!!こんな往来で大丈夫なんですか?少し先の薔薇園まで行きましょうよ!」


 かなり先に行ったところに貴族がお忍びの逢引き場所として利用する薔薇園があり、パーシヴァルはそこで話題を切り出すようだった。

 僕としては、そんなリア充が眩しいところに男と二人で行く気はない。それに、庁舎を脱出した時点で僕の目標は達成されているのだ。

 

「僕とパーシヴァルで薔薇園って…それはちょっときついよ…もう面倒くさいからここで話していいよ」


 どうでも良くなって話してと言い放つ僕を見て、パーシヴァルはすべてを察しました!というような顔をした。

 

「ん?もしかして…アーニャちゃんと痴話喧嘩またはそれに類することをしたから気まずくなって逃げたっていう事?それで僕を巻き込んだってわけですか?」

「ちがうよ…喧嘩じゃない。アーニャが勝手に怒りだすんだ。それで今日は無理やり聖水飲まされそうになって…逃げなきゃって思っただけ」


 そういった瞬間、パーシヴァルは豪胆に笑い出した。


「あっはっははあ!!なに言ってんだ?あの聖女って呼ばれるアーニャちゃんがそんな拷問じみたことをするわけないですよ。ほんとにハウデルさんは冗談がお上手ですね!あっはっは!!」


 そしていつも通りのこれだ。アーニャは傷ついた騎士を癒す存在。周りからは聖女だと崇められている。だから、僕に行う病的な行為を信じる人なんて一人もいない。そんな親友の態度にいら立ちを感じざるを得ない。

 

「信じないならいいよ…いいから本題を早くして」


「あっはは!そんなにすねないでください!でも、本当に喧嘩は男から謝ると自然と収束は速くなりますからね!参考までに伝えておきます!ハウデルは女性と話すのが下手くそですから!」


「そんなのはいいから早く本題に行けって…」


 そんな親友の面倒くさい絡みにイライラしながらも、本題の話を急かす。

 そんな僕の様子を感じ取り、パーシヴァルもすぐさま真剣な顔へ戻る。

 

「分かりました…伝えます…って言いたいところなんですけど、敵の密偵がいるかもしれませんし移動しますか?」


「いいよ…どうせこの手の仕事って荒事でしょ。誰に何聞かれようと、僕の剣技の対策なんかしようがないからここで話せって、僕はアーニャから逃げられればどこでもいいんだから」


「女性の扱いは散々ですけど、相変わらずその剣技への自信はかっこいいですね…分かりました、お伝えしましょう」


 僕がこう発言するということは今後の被害についてすべての責任を僕が負うという証左である。

 この言葉を聞いて少し安心したのか、パーシヴァルは瞼を閉じ一呼吸置き、その後ゆっくりと話し始める。

 

「まずは依頼から…王位継承権末席の第七位、『第四皇女ホロロウタマさま』が誘拐されました。相手は隣の剣国の精鋭と見られています。要求は『姫様を返す代わりに、我が王国の宝剣をよこせと』それだけです…」


「それで、お前たちは宝剣を渡すこともできない、でもお姫様を返してもらいたい、そういう理由か?」


「その通りです…他にもいろいろ理由があって、助けが得られなくて八方ふさがりの状況なんです…」


 急に神妙な顔をするパーシヴァル。その様子はかなり追い詰められているようだった。

 

「他の理由って…?」


「ああ…ここからは僕の推測になりますが、誘拐犯は我が王国の王族のどなたかとグルになっていると考えられます…」


「その根拠は?」


「誘拐の手口が王城内の警備状況を知り尽くしていて、手際が良すぎたこと。そして、この誘拐事件に対して王城全体で救助命令を出し渋っている状況ですね…」


 なるほど…、権力争いのために誘拐犯を利用して、兄弟を殺させよう…そういう作戦だと言いたいわけか。そして、対策会議を混乱させることによって、宝剣の交換も騎士団の救助も差し止め自分の目的である妹殺しを果たしたい…『そういう王族がいる』とそう言いたいわけか。

 

「それって、僕たちが勝手に救助行っちゃまずいんじゃないか?最悪の場合、誘拐犯とグルの王族が僕らに罪を着せようとしてくるんじゃないか?」


「ええ、もちろんです。命令違反で厳罰があるかもしれませんし、僕たちの事を誘拐犯とグルだという嫌疑をかけてくるかもしれません…」


「なるほどな…」


「それでどうでしょうか…できますか?負ければ死、勝っても厳罰かもしれませんがこのウマに乗れますか?」


 試すような瞳で僕を見つめるパーシヴァル。瞳の奥に恐怖を隠しながらだけど…。

 恐らく、僕が断っても一人で行くという決心をしているのだろう。そんなこと友人にはさせられない。

 それに…

 

「15,6の女の子が助け待ってんだろ?行くに決まってる。それに負けは無い、お前は勝った時の準備だけしとけ」


 そう言ってニカッと笑顔を向けてやった。


 ▲▽▲▽

 

 取引場所に指定されている森林の古代遺跡を目指し歩を進める

 長い草を愛剣で刈り取りながら横にいるパーシヴァルに声をかける。

 

「あのさーパーシヴァル…」


「どうしました?」


「マジで僕たち二人なんだな」


 流石に王族の救出だ。もう少し義勇軍がいると思ったが…マジで二人かよ。あんだけ大見え切っといてなんだが、普通に相手が師団単位で来てたら負けるかもしれないぞって言ってやりたい。

 しかし、パーシヴァルは何言ってんだこいつというような顔を僕に向けてくる。

 

「二人…?そりゃそうですよ」


「…?なんで…?そのホロロウタマって人よっぽど人望ないの?だから人が集まんなかったとか?」


「はぁ!?めったなこと言わないでください!!姫様はその可愛らしさで多くの貴族諸侯から大人気なんです!!助けたいと思う人はたくさんいるに違いありません!!ハウデルはもうちょっと宮状を勉強してください」


 ものすごい剣幕で説教を垂れてくる。そして最後に自信満々に言い放った。

 

「二人なのは、当たり前ですよ!ハウデルにしか言ってないんですから!」


「はぁ!?お前、他の騎士にも声かけてねーの!?フウラさんとか!?あの人優しいから絶対協力してくれたぞ!!」


「ああ…フウラ様ですか?そんな…僕なんかが声をかけるなんて恐れ多い…」


 照れたように鼻を掻きだす。いや、何照れてんだよ!!人数は僕たちにとって死活問題だぞ!!

 一回殴ってやろうか?そんな気持ちさえ沸いてくる。こいつ、事態を軽く考えてないか!?

 でも、そんな僕が見てパーシヴァルが言葉を付け足す。

 

「でも、ハウデルがいるなら十分ですよ…今までだってそれで不足だった事態なんて無かったんですから…さぁ、待ち合わせ場所が見えてきましたよ。気を引き締め直しましょうか?」


 こいつ…こういう所が巧いんだよなぁ…さすが文官…。怒りは少し収まり、僕の心は戦いに向け集中を繰り返す。

 

 

 待ち合わせの古代遺跡の前には武装をした七人…と縄でぐるぐる巻きになったお姫様がいた。

 あ、僕知ってる…あいつ、西の拳闘場で今年100人殺し達成した奴だ。他にも蛇剣で有名な男とか、二刀流を極めたとかいう男とか二つ名持ちがいっぱいいる。

 そしてその中の一人、リーダー格の男だろうか?目に大きな傷を持った男がツカツカと前へ出てくる。

 

 

「貴殿らは王国の使者か?私は剣国の剣帝を賜っているロウレンと申す」



 威厳たっぷりに鋭い剣幕でねめつけてくる剣の怪物。その姿にパーシヴァルは微かに震えている。

 それもそのはず…剣帝と言えば、『剣国の三剣』と呼ばれる称号の内の一つだ。一文官が修羅場で会うような人物ではない。

 しかし、それでも応対をしようというパーシヴァル。震える足で一歩を踏み出そうとする。



「いい…パーシヴァル…僕が話をする。お前は後ろで魔法の準備をしておいてくれ」


 

 そんな、パーシヴァルを手で制し僕が一歩前へ出る。

 

 

「そうだ、僕はラウンデル王国直轄の第三騎士団隊長ハウデル=イズマだ。」

「ほぉ?貴殿があの『剣の芸術』のハウデルか?」


「そのダサい二つ名は知らないが、たぶん僕だな…」

「そうか!そうか!あのハウデルが来たか!!かっかっっか!!これは愉快だ!!」


 僕との会話に笑い、膝を叩くロウレン。

 そしてその瞬間、場に殺気が飛び交う。

 

「それで…、貴様が来たということは武力でどうにかするつもりだと…そう言いたいわけだ」


「……」


「二人で…私たち七人を相手取るそう言いたいわけだ。」


 瞬間、僕の横を風が切る。大剣が僕を越えてパーシヴァルの喉元に向かう。

 剣を抜きその剣線を僕の愛剣の剣腹で受け流す。

 

「わぁあああ!!とと…ありがとうございます!!ハウデル!!」

「パーシヴァル!!開戦だ!!死なないことを優先に動け!!」


 その剣劇を合図として、他六人も同時に剣を抜き僕を取り囲む。

 

「どらぁああ!!!しねやああぁああ!!」

「しっぃい…すらぁああ!!」


 刹那に十数回の剣線が僕の体をなぞろうと向かってくる。

 しかし…いつも通り平常心。


 右足を引き、体を翻し、肩を下げ、首をすくめる。ただ何千何万と練習した動きを繰り返すだけ。

 

「なんだこいつ!?一撃も当たんねえ!!」


 剣で防ぐまでもない。肌で風を感じる程の髪の毛一本の距離で避けるだけだ。

 そうしていれば…僅かに、連携が崩れるのを見つける。

 

 

 一閃!!!

 

 

「がぁああああああ!!!」

 

 

 一人の体を袈裟切りにする。

 一人少なくなればこちらのものだ。量が少なくなった剣士たちを斬り伏せるのはそう難しい事ではない。

 

「おらぁ!!」

「ぐわぁああ!!」


「しぃ!!」

「ぐぅう…」


 すべてを一刀の元に斬り伏せる。斬っているこいつらとて全くの無錬者というわけではない。むしろ逆、練度で言えば百人剣士を集めて一人いるかいないかという程だ。


 そしてまた一人、僕の剣の範囲内に足を踏み込み、片手剣を振り翳す。

 

「でも少し足りない…そのレベルではまだ足りないよ」


 相手の横凪ぎをのけ反り鼻先で躱し、空いた胴を斬り上げる。

 

「ぐぁあああああああ!!!!」

 

 また一人減った。そして一人ずつ減るごとにその集中力を先に立ち尽くしている剣帝に向けていく。

 そんな僕の背後に…

 

「何よそ見をしてんだああ!!しねやああああ!!」


 敵の一人が逆胴に切り込んでくる。

 それをよける暇はない。

 ――否、避ける必要はない。

 

「ハウデル!!危ない!!アイシクルランス!!!」


 僕の背後を氷の槍が貫いていく。

 当然、切りかかってきていた男も串刺しだ。

 

「ナイス!!パーシヴァル!」

「ハウデル!!僕を信じてくれるのはいいのですが、避けるそぶりはしてください!!魔術が失敗したらどうしてたのですか!?」


「いいや…大丈夫だよ、パーシヴァルがミスするわけないから」


 そんな軽口をたたきながらハイタッチをする。しかし、これで終わりな訳が無い…むしろ勝負はこれからだ。

 そして僕たちは先にいる化け物に目を向ける。

 

「すごい威圧感ですね…これたぶん僕かハウデルか、どっちかは死ぬかもしれませんね」

「ははは、冗談はやめろよ…確かに、化け物だけどね」


 他六人に混ざることなく仁王立ちの剣帝。そんな姿に思わず僕とパーシヴァルは軽口を叩いてしまう。

 

「流石だな…ハウデル…貴殿の剣、まさに傑物よ」


 その剣帝が一歩、また一歩と僕へ距離を詰めてくる。

 大剣をまるでナイフのようにぐるり…頭の上で回し、上段で構える。

 

「ふふふ、さて…これで貴公らは二人、私は一人…算学で言えば私の方が不利なのかも知れぬな?だが…」

 

 瞬間に訪れる剣戟!!ズガァアアアンと両腕にビリビリと稲妻が弾けるような感触が走る。


「っつっぅう~!!!」


 稲妻が走るような?手にはまだ痺れが残っている…おかしい!

 剣帝を見ればその鎧にはバチバチと電撃が纏われていた。

 

「だが私とて剣帝の名を継いでいる。だから貴公を倒して箔をつけさせてもらおう!!」


 バチィバチィバチチ!!凄まじい電撃音と共に剣帝の体全体が青白く光り始める。

 

「まじかよ…剣帝ってその成りで魔法剣士なのかよ…」

「ふふふ…では始めようか…怪獣大決戦だ…」


「ぐぅおおおおおおお!!」

「おっとぉ!?…つぅ!?」


 剣帝の一閃を紙一重で躱したかと思えば痺れが体を貫く。

 

「かはは…その程度の躱しでは私の電撃が貴様を貫くぞ…そらぁ!!さらぁ!!!」

「ひぃ!!…いてぇ!!!」


 剣帝の攻撃に少しずつ体力が奪われていく。この電撃思ったより厄介だ。何か手を考えないと!!

 

「パーシヴァル!!あの電撃どうにかできない!?」

「いや!!無理です!!無理ですって!!僕だって逃げるのに精一杯なんですから!!」


「まじかよ!!おまえ魔法使いだろ!!魔法はお手の物なんじゃないの!!?」

「いやいや…!!あれって雷の上級魔法ですよ!!それをあんなに体にまとわれて使われたら解呪《ディスペル》も難しいですって、ほら!!また来ますよ!!」


 会話に割り込んで、剣帝は斬りこんでくる!!


「私を無視してお喋りはいただけないなぁ!!すらぁ!!だらぁあああ!!」

「ぐぅうううう!!!!」


 そしてその剣を思いっきり両手剣で受けてしまった。体中に激痛が走る。

 そのまま、剣帝は体を入れ渾身の切り上げ!!

 

「ウウウゥゥウウラァアアアアアア!!!」


 重量で負ける僕の体は空中に放り投げられる!!

 

「ぐわははは!!!ハウデル討ち取ったりいいいい!!!!!」


 剣帝は左腕に力を込め、夥しい量の電撃を纏う。そして剣を捨て上段突きの構え。

 僕の体は自由落下中だ。拳を避ける術はない。当たれば致命傷!!

 

「グワハハハハハアアアアアア!!!!」

 

 高笑いが耳に響く。このまま行けば感電死だろう!!そうはさせじと何とか剣を突き出す。しかし、剣帝もそんな足掻きにやられるわけはない。

 

「クラエエエエエエ!!電光雷拳!!!!」


 僕の腹を狙いすましして放たれる拳…

 

 しかし…その拳は空をきった!!!僕の真下をすさまじい電撃が走り抜けていく!!

 

「…なぁっ!!?」

「ほら…隙だらけだよ」

 

 必殺技を外した剣帝の隙を逃さず、全身の体重をかけ鎧ごと貫く。先ほどの攻撃のせいで電撃もきれ…無防備な腹を両手剣が貫く。

 

「グゥオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」


 ドッシーーーーーーーーン!!!!轟音と共にその巨体が倒れ伏す。

 その巨体はピクリとも動かない…。

 

「強かったけどなんとか…かんとか…って感じか」


 その言葉と共に後ろから親友が駆けつけてくる。

 

「ハウデル!!ハウデル!!やりましたね!!」

「ああ…ギリギリだったよ…」


「あの、拳当たるんじゃないかと思ってひやひやしましたよ!!もう逃げだす準備寸前でした!!」

「おい!!そこは、魔法で援護しろよ!!」


 パーシヴァルの軽口に突っ込みを入れる。これが冗談だということは分かる。だってパーシヴァルも剣帝の隙ができた瞬間に魔法をぶち込もうと詠唱準備をしていたことを僕は知っているから。

 

「それにしても…剣帝が偶然に拳を外してくれて命拾いしましたね…当たってたら即死でしたよ!!」

「ああ…それなんだけど、あれは狙って外させた」

「ええ!?どうやって!?空中で身動き取れなかったですよね!!どうやって!!ねえどうやって!??」

「いや…あんまり言いたくない…」

「ええ!!けち!!教えてくださいよ!!ねえ!!ねえ!!」


 文官で勉強好きのパーシヴァルは僕の回避の原理が気になるようで、何度もしつこく聞いてくる。そんなパーシヴァルがめんどくさいので教えてやることにした。

 

「仕方ないな…でも口外はするなよ…このテクニックばれると弱いから」

「ええ!!ええ!!」


「まずは一つは、あの発光を剣で反射することだ。ほら…剣帝はかなり光ってたろ、あれを目に向けて剣で反射したってわけ」

「へぇー!!すごいですねえ!!でもそんなことであの剣帝が必中の拳を外すものなんですか?たかだか眩しいくらい対策していませんかね?」


「そうだ…だから二つ目…それは超電導のクリップ現象だ。」

「え…?くりっぷ…げん…しょう…?」


「超電導ってのは物質のことだ。そしてこれには僅かに電気を通す穴が空いてるんだよ…そして電気を通してやると…」


 簡易の電気魔法を唱え、愛剣に電気を通す。すると…愛剣がふわふわと宙に浮く。

 

「わぁ!!浮きました!!」

「そうだ、穴に電気が引っかかって浮くんだよ…そして、剣帝のあの電量…僕が落ちるまでの軌道を変えるぐらい簡単だったってわけ」


 簡単なことだ…電気さえあれば浮けるのだから避けるのも簡単。そして電気を使い切った後は剣術で押し勝てばよい。それだけのことだ。


「すごい!!すごいです!!ハウデル!!やっぱりあなたは最強だ!!連れてきてよかったあああああ!!」


 そんなことを言いながら僕に抱き着いてくるハウデル。

 嬉しいの分かるがうっとおしい。

 

「ええい!!うっとおしい!それよりもお姫様が捉えられてるんだろ、さっさと救出するぞ」

「あ…そうでした!!ではいきましょう!!」


 すぐさま顔を切り替え、あたりを捜索し始めるパーシヴァル…現金な奴だ。

 

 

 

 

 

 

 捜索し始めてからはお姫様はすぐに見つかった。両手両足を縄で縛られて、口に猿轡をはめられている状態で座っていた。

 

「だ…だいじょうびゅでしゅか!?」

 

 そして、僕がその縛りを外しにかかる。相手は女性だ…さっきまでとは打って変わって緊張が体を支配する。

 

「い…いみゃ…今…外しますからね!!」


 噛みまくる挙動不審の僕の顔を透き通った瑠璃色の瞳で見つめてくる。う…恥ずかしい…思わず顔が真っ赤に染まってしまう…。お姫様はいくつも僕の下なんだぞ…何緊張してるんだ!!と自分を叱咤しても緊張はほぐれない。

 

「くふ…ふっ…」


 そんな、僕の顔を見てお姫様は顔を綻ばせる。少し緊張がほぐれ何とか両手両足、猿轡の縛りを切る。これではれて自由の身だ。

 お姫様は立ち上がり僕の方に微笑みかける。金色の透き通る髪、瑠璃色の瞳、薄紅の唇、どれをとっても天使かと思うほどの美しさで僕の心を緊張で支配する。

 

「あたしは第六王女ホロロウタマ…まずは第三騎士団長ハウデルに感謝をするわ…」

「ひゃ…ひゃい…ありがとうぎょ、ございます!!」


 急いで膝をたて、頭を下げる。緊張で顔は真っ赤だ。

 そんな僕にお姫様はご満悦の様子だ。

 

「くふふ…あなたが女性に免疫ないのって本当だったのね…」

「……そんにゃ…ことは…あるかもしれませんが…」


「くふふふ!まあいいわ!とにかく…私を助けてくれた礼をしないといけないわね…」

「は…ありがたく…頂戴いたします…」


 僕が返事をした瞬間、お姫様はニィイ!!と嗤う。

 

「褒美は何がいいかしら…?ええと…そうだ!!あたしが結婚してあげる!!どう?」

「はぁ!?ええ!?けっこん!?はえ!!?」


「なによ…さっきもらうって言ったじゃない!!返品は不可よ!無礼よ!打ち首よ!!」

「あ?え?そういう事じゃなくて…え?なんで?」

「だって、さっきの戦ってる姿めちゃくちゃかっこよかったんだもん!それに…こうやって照れてる姿とのギャップも…ねえ?」


 そう言いながらお姫様は僕の胸元にぴとっと頭を預けてくる。そんな姿に僕の心臓が飛び跳ねる。

 

「ひゃああ!?で…でも…その、身分とか…いろいろ…その…」

「身分?大丈夫よ!!身分差なんかどうにでもできるわ…そうだ!!まずは私の近衛騎士団の団長に就任とかどうかしら?王城に顔が利くようになるから結婚に一歩近づくわ!!」


 嬉しそうに僕に提案をして来るお姫様、近衛騎士団?…え?僕が?

 急な展開に頭がついて行かない…。目がグルグルと回る。


「え…でも…僕今、第三騎士団長ですし…」

「え?なによ!!あたしとの結婚が嫌だっての?」


 お姫様は頬をぷくっと膨らませて抗議をしてくる。

 

「い…いえ!!しょんなことは…!…えと…でも…」

「じゃあ結婚ね!!でもはもう無しね!!さ!行きましょ!」


 そう言って僕の腕に両腕を絡ませて歩き出そうとする。

 

「ひ…姫様!??う…うでが…!?」

「腕?これくらい良いじゃない…どうせ結婚するんだし!それに私の事はホロロって呼び捨てにして!!っね?」


 満面の笑みで僕の顔を覗き込むお姫様…僕の心臓は持ちそうにない…。

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