第11話

「なるほど。でもどうやってそれで死亡推定時刻を偽ったり、荷台の確認時には居なかった毛利社長が突然荷台に現れたんです?」

「死亡推定時刻ってのは万能じゃない。様々な状況から推定するんだ。特に死体の置かれた温度は重要だ。見つかった状況や死因から警察は社長が冷蔵庫と同じ温度に居たと考えて時刻を決める。しかし実際は冷凍庫の中に居たんだ。徐々に温度は下がっただろうがな」


 すでに絵梨花さんは反論できなくなったのか、ずっと黙ったままです。

 おや? 気付いたら横尾さんが居ません。見ると向こう側の扉が少し開いたままになっています。メモと先生の話に夢中になって気付きませんでした。


「社長の出現は見事な綱渡りだ。私だったら怖くてとてもじゃないが真似出来ないな。不確定要素が多すぎる」

「どういうことです?」


「社長は折りたたみ式の箱に入れられたまま、荷台に既に積んであったんだ。リストでは『空』と書かれた箱だ。折りたたみ式の箱は一部が内側に折り込めるようになっている。お前は扉と反対側、そっちを一つだけ内側に折り込んでいたんだ。下り坂で社長の体が箱から滑りでるようにな」


 なるほど。そういえば荷台は大きかったですが、荷物が少なかったって笹山さん言ってましたね。十分な空きスペースができてたんでしょう。


「そうしてからお前はその足で空港に向かった。アリバイにもならない無駄な時間を作りにな」

「やっぱり台北に行ったのは計画的だったんですね?」


「そうじゃなかったら、わざわざ帰りに何時間もかかる乗り換えのあるチケットなどとらんだろう。お前はとにかく海外にいること、それを証明する必要があった。安い海外ならどこでも良かったんだろうが、運がなかったな。この時期は日本人も外国人も海外旅行が多い季節なんだ」

「でも! 私がやったって言う証拠はないじゃない!! あなたが言っているのは全部机上の空論よ!!」


 突然黙っていた絵梨花さんがヒステリックに叫びました。僕はびっくりして思わずペンを落としてしまいました。


「そうだな。お前が事前に車の手配をいじったのも、どうせ無駄になる荷物がなるべく被害が少ないよう、中に入って裏側を覗かれないように荷物を選んだのもお前だが、これもお前がした事に過ぎないな。ああ、折りたたみ式が目立たないよう、全部折りたたみ式にしたのもお前だったな」

「なんでそれを!?」


「高橋ってやつに聞いたんだ。会社の荷物や車の手配を担ってるのは誰だ? とな。さすが小さい会社だけあって、お前がほとんどを決めているらしいじゃないか」

「でも、先生。例えそれが本当だとしても、やはり状況証拠ばかりで物的証拠は無いですよ?」


「そうだ。それがな。あったんだよ。冷凍と冷蔵を切り替えるスイッチにお前と浮気相手の指紋が」

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