第61話 初めての砦
「えいっ! やぁっ! とりゃっ!」
石取スキルチョーカーを装備したユイが剣で攻撃する度に、大きな岩からキューブが飛び出す。
「いいよユイ! もっともっと!」
「うん! えいっ! とうっ! おりゃっ!」
ロフニスの声援を受け、調子に乗ったユイが剣を振りまくった結果、ふたりの背丈を優に超えるほど大きい岩の表面は穴で埋め尽くされた。
当然、その手前には大量のキューブ。
それを見て、ロフニスは満足げにうんうんと頷きながら「そろそろあっちに持っていってみようか?」とユイに声をかけた。
「やった! ついに砦作りだね!」
幼稚園の頃、ブロックを組み立てるタイプのオモチャにハマって、食事を食べるのも忘れて理想のお家やお城を数え切れないほど作りまくっていたユイ。
将来は大工さんや建築家になりたいとすら思っていたほどの”物作り大好き少女”にとって、これほど楽しい作業は無い……と、満面の笑みで岩のキューブを両手で持ち上げ、タッタッタと駆け足で銅像へと運び始める。
「……えっ? そんな軽いのこれ……」
ロフニスは、戸惑いながらキューブを両手で持ち上げようとした……が。
「お……重い……!」
何とか持ち上がったものの、腕はプルプル、足はガクガク。
顔は青ざめ、イヤな冷や汗が頬を伝う。
その間、既に最初のキューブを銅像のそばに置き終えたユイが戻ってきて、2個目を持ち上げたところで、仲間の異変に気付く。
「あれ? ロフニス大丈夫……?」
「う、うん、平気平気。これぐらいなんてことな……い……」
強がりながら、キューブを持って銅像の方へ体の向きを変えようとする王子。
しかし、顔が真っ赤になっていくだけで、足はまったく動かない。
「ねえロフニス、無理しないほうが……」
「だ、大丈夫! ユイだけ働かせるようなことをするわけには……く、くぅ~、やっぱ無理だ~」
ロフニスは悔しそうにキューブを地面に下ろした。
「く……僕としたことが……」
その様子を見たユイは、励ますのも何か違うかな……と、大人びたことを思いつつ、どうして自分だけキューブを軽々と持ち上げられるのか考えてみた。
確かに、レベルが上がってパワーアップしたのは間違いない。
ただ、錬金釜を持った時でも、ここまで軽々といった感じでは無かった。
ロフニスがここまで苦しんでるほど重いはずなのに……。
「あっ、もしかして……!」
ユイは首に付けていたチョーカーを外し、ロフニスの背後に回ってそれを付けてあげた。
「えっ? 今度は僕が切る役? って、そうだよね、僕は非力なんだから……」
「違う違う! いいからちょっと持ってみて!」
「持つって……これ?」
ロフニスは、苦々しい目で足元のキューブを見下ろした。
「そうそう!」
「でも……このチョーカーを装備したところで、出来るようになるのは石を切り取ることだけで……」
「もう、ぐだぐだ言ってないで早くやってみ!」
大声で叫ぶユイ。
「うーん、わかったよ……」
ロフニスは仕方ないなぁ、といった感じで、腰を屈めてキューブの底に両手をかけた。
そして……。
「ほら、やっぱり持ち上がらな……くない⁉ っていうか……かるっ!」
さっきまでの苦労が嘘みたいに、ロフニスはキューブを軽々と持ち上げた。
「ほらユイ、見て、ほらほら!」
ロフニスは嬉しそうに笑いながら、キューブを持って銅像の方へと走って行った。
そして、すぐに戻ってきて、次のキューブを持ち上げたところで、ふと我に返ったように、不思議そうな表情を浮かべた。
「これって……スキルチョーカーのおかげ、ってことなのかな?」
「うん、だと思う! ほら、私だって付けてないと──」
ユイは足元のキューブを持ち上げてみた。
さっきと比べて何倍にも重く感じる。
ロフニスほどでは無いが、腕がわずかにプルプルと震えて、ギリギリ持って歩けるか歩けないか微妙なライン。
「ほらね!」
ユイはたまらずキューブを地面に戻す。
「うん、ユイの予想どおり、このスキルチョーカーにキューブを簡単に持ち運べるスキルが付いてた、ってことで間違い無いね。だとすると、どっちかひとりしか持ち運ぶことができないってわけか……いや、待てよ」
「ん? なになに?」
「ちょっと、急いで付いてきてくれる? まず森の木を切って……」
ふたりは岩の裏手にある森の木を剣でひたすら切っていく。
キューブの一辺より二回りほど長いサイズの丸太を用意すること十数本。
それを大岩から銅像方面に向かって地面に並べていく。
その上に、スキルチョーカーを身につけたロフニスがキューブを置いて……。
「あっ、分かった! 丸太の上をコロコロ転がしていくやつ! 昔の人が、お城とかピラミッドとか作る時にやってたとか」
「えっ? ユイ、ピラミッド知ってるの?」
「もちろん! 凄いよね~あれ。生で見てみたい……ってことは、ロフニスも知ってるの?」
「うん。ちょっとびっくり。僕らは住む世界が違うのに、どっちもピラミッドというものが存在していて……って、まずい、攻撃が来そうな予感!」
「だね! とにかくキューブを運ばないと……!」
ふたりは丸太を活用し、猛スピードで石キューブを運び続けた。
そして、ブロック積みが上手なユイがチョーカーを装備し、銅像の周りにキューブを使った砦を築いていく。
1番外側は1段。その内側に2段、次が3段……と、まさにピラミッドのような積み方をしていって、ついに銅像をすっぽり覆い隠す砦が完成。
「やったねユイ!」
「うん! ロフニスと力を合わせれば、これぐらい楽勝──」
と、その時。
ヒューッ……ズドォォォォォンッ!
あまりにもバッチリすぎるタイミングで、空から銅像への攻撃が落ちてきた。
結果は──。
「……おお! 銅像は無傷だ!」
「やった! 大成功!!」
ユイとロフニスは手と手を取り合って、飛び跳ねるように喜んだ。
……が、しかし。
代わりにピラミッド型の砦は無残に破壊されてしまった。
ミッションはまだまだ始まったばかりである。
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