第60話 石取スキルチョーカー

 ズドォォォォォンッ!


 上空から落ちてきた衝撃波は、当然の如くロフニス像に直撃。


「うわぁ……!」


 思わずユイがドン引きしてしまうほど、銅像の損壊レベルは一気に進行してしまった。

 これを見て、”人間の像か”と思って貰えればありがたい……というほどに。

 ロフニスは、まるで自分の体が攻撃されたかのように動揺し、片膝をついてしまうほどヘコんでいた。

 その様子に気付いたユイは「ったく、ひどいねこれ!」と、両手を腰に当てて、頬をプーッと膨らます。


「……ははっ、怒ってくれてありがとうユイ」


 ユイの怒りがロフニスに元気を取り戻させたのか、スッと立ち上がる。


「まあ、そういうミッションなんだから仕方ないよね。とにかく、僕に……いや、僕らに出来ることは、あの攻撃から銅像を守ること!」

「うん! おかげさまで、めちゃくちゃやる気出てきたよ!」

「ああ、僕もだ!」

「でも、どうやって守るればいいんだろ? あの攻撃を剣で弾く……とか?」

「うーん……さすがにそれは厳しそうかな……」


 ロフニスは、無残に破壊された自分の銅像を見た後、ゆっくり視線を空に向かってあげていく。


「あの攻撃は、音がするだけで姿形がまったく何も見えなかった。とてつもないスピードなのか、目くらましのような特殊効果が使われているのか……ともかく、どっちにしても剣で弾くなんてことは、現実的では無いと思う」


 ロフニスの冷静な分析を、ユイはウンウンと頷きながら真剣な眼差しで聞いている。


「攻撃を返せないとすれば、残る方法は……守るのみ!」

「おお分かりやすい! って、あの紙にも書いてあったよね、”砦を築く”とかって」

「そう、それ! ユイってほんと、飲み込みが早いというか、頭が良いというか」

「そ、それほどでも……でへへ」


 ユイは体をクネクネさせるように照れながら、心の中で思っていた。

 学校の教科に〈異世界)も追加してくれればいいのに……と。


「って危ない危ない。こうしてる間にも、また攻撃が来るかも知れない!」

「だね! このままやられたら、次こそロフニスぶっ壊れちゃいそうだし、急いで砦を作らなきゃ……でも、どーやって?」

「うん。そのために用意されているものが……」

「あっ、そっか、宝箱!」

「その通り! 改めて、中身を確認してみよう!」

「うん!」


 ふたりはリストと照らし合わしながら、宝箱の中に入っていたアイテムを外に取り出し、地面に並べた。

 そして、ユイが何かに気付く。


「あっ、これ、お兄ちゃんが着けてたやつじゃん!」


 手に取ったのは、チョーカーの形をしたアイテム。


「えっ? そうなの?」

「うん。魔物を仲間にするとかなんとかって……あっ、でも、よく見たら色とか模様とか全然違うかも。これ、名前なんだっけ」

「石取スキルチョーカー、って書いてあるね。石を取る……って、どういうことだろう?」

「へえ、ロフニスにも分からないんだ。それじゃ……試してみるっきゃないね!」


 ユイは、そのチョーカーを迷わず首に付けてみた。


「えっ、だ、大丈夫かな……」


 心配性のロフニスは不安げな眼差し。

 

「とりあえず平気だよ……っていうか、何の変化もなさ過ぎてがっかりなんだけど?」


 ユイはピンクゴールドの剣を抜いて、振り上げたり、振り下ろしたり、「えいっ、やぁ」と声を上げながら見えない敵を斬りつけたりしてみたが、何も起きない。

 その間も、いつ次の攻撃が来るかヒヤヒヤしていたロフニスだったが、何かに気付いたようにハッとなった。


「石……砦……もしかして……」

「何か分かった⁇」

「うん、たぶん……」


 そう言うと、ロフニスはキョロキョロと顔を動かして辺りを見回す。


「……あっ、あれが良いかも」


 視線の先にあるのは、草原と森の境目あたりにある大きな岩。

 ユイはまだ、ロフニスの考えが分からずポカンとそれを眺めるだけ。


「ねえユイ、ちょっと付いてきて!」

「う、うん……!」


 急いで駆け出すふたり。

 銅像の件もあって全力で走り、あっという間に岩の前に到着。


「ユイ、この岩を剣で攻撃してみて」

「えっ? めっちゃ硬そうだけど」

「いいから! たぶんいけるはず……!」

「うん、わかった! ロフニスがそこまで言うなら……えいっ!」


 ユイは戸惑っていた割りに、目の前の岩に向かってためらうことなく思いきり剣を振り下ろした。

 すると……。


 ポロッ。


 岩は真っ二つに割れる……のではなく、ユイの剣が当たった部分を中心に、一辺が1メートルほどの立方体キューブが綺麗に切り出された。

 岩の手前に、切り出された石のキューブ。

 岩には、当然のことながらそのキューブと同じ形の穴があいている。


「えっ? なにこれ、どーなってるの⁉」


 斬りつけたユイ自身、何が起きたのかさっぱり分からず目を丸くする。


「おお! 僕の思った通り……いや、想像以上だよ!」


 感嘆の声を上げるロフニスは、石の塊に手を置きながら続けた。


「そのチョーカーは、文字通り”石を取る”ことが出来るアイテム。で、この石の塊を積み上げて、銅像を守るための砦を作る……!」

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